32.Amaz○nがあればいいのに
突然の積雪に大わらわのトゥタの村だったけど、それも毎年のことなのか、数日もすると普段通り、いや普段以上の静けさに満ちた村になっていた。
初日こそ村の最年少組であるネイルとカーラは子犬のようにはしゃぎ回っていたのだけれど、三日もすれば「飽きてきたなー」という気持ちが顔に出ていた。それも毎年の事、と彼女たちの親御さんたちは笑っていたけども。
今では彼女たちが雪遊びに誘いに来ることも、すっかり減ってしまった。
ダンジョン探索は一回潜るとそれなりの休養日が設けられるのだけど、その期間にやっていた採取や畑仕事の手伝いなども、この雪でお休みだ。
そして魔王家では、コタツで魔王が寛いでいた。
冬の始まりのあの日、魔王家に帰ると、居間の机が片付けられていた。何事かとミゼさんに尋ねようとした途端、魔王ゼザがアイテムポケットからドンっとコタツ型魔道具を取り出したのだ。ドヤ顔で。
しゃくに障るんだけど、寒いものは寒いのでありがたくコタツは使わせてもらう。
今は俺の右隣に魔王。正面ではミゼさんがだらしなく背中を丸めてまどろんでいる。こんなに油断した姿は、正直とても珍しい光景だと思う。
出来るだけ悟られないようにチラチラと盗み見ていたのだけれど、突然ピンッと背筋を伸ばしたミゼさんに睨まれてしまう――のだけど、やはり寒いのか、胸元までコタツ布団を引き上げた。
「なんだ? 寒いんだからしょうがないだろ」
視線を泳がせて、気恥ずかしそうにミゼさんが唇を尖らせる。
「そうですね」
俺も素直に頷く。本当に寒いのだ。横では魔王がニコニコと笑っている。
他の魔族の家や一般的な人間の家などでは、暖房魔道具で室内を暖めて冬を越すのだそうだけど、この魔王、コタツを楽しみたいが為に、家中の暖房魔道具を止めてしまうのだ。
俺の責める視線に気付いたのか、ニヤッと笑って親指を立ててサムズアップ。
いや、誰も褒めてないから!
ゲシゲシとコタツの中で窮屈に足を動かし、魔王に蹴りを加えていると、
「痛っ!?」
「暴れるな、バカ」
ドスッと鋭い一突きが太腿の付け根の際どい当たりに突き刺さった。口にした言葉と矛盾している足技の主は、素知らぬ顔でまた背中を丸めて温もっている。
横では、ニヤニヤ笑いの魔王が、またしてもサムズアップをしていた。
今のやりとりで、なんでそんなに満足そうなんだよ……。
容赦のない仲裁が怖いので文句も言えず、スッキリしない気分でコタツ布団に身を潜らせるしかなかった。
◇
「こんにちわー。ユーゴ兄、まおうさまー、ミゼさま、いますかー?」
今日も今日とて魔王家のコタツでまどろんでいると、珍しく来客があった。
この声は、トゥタの村最年少の魔族少女カーラだろうか。
玄関に出迎えに行くと、そこにはネイルの姿もあった。
「こんにちは。どうしたの、二人とも?」
「こんにちは。あのですね、ノッツさんたちが来てくれました」
ノッツ?
「ああ、もう来てくれたのか。助かるね。いつもの場所かい?」
「はい。広場で荷解きをしてもらいました」
「ユーゴ兄もはやくー!」
ネイルとカーラが魔王ゼザを連れ去ってしまった。残された俺がミゼさんに視線を向けると、やれやれと肩をすくめられた。
「ノッツは人間の行商人だ。多分息子のラッツも来ているだろう。」
「ああ。少しだけ聞いた気がするな。でも、こんな時期に?」
「こんな時期だからこそ、来るんだ」
「何でわざわざ?」
「野垂れ死に直前だったノッツの先祖を、父さんが助けたそうだ。その恩を、子孫がこうやって返し続けている」
「へぇー。義理堅い話だね」
「全くだ」
しみじみとミゼさんが頷く。
命の恩人、か。俺が魔王やミゼさんに恩返しをするのは分かるけど、「親父の恩人だから、命懸けで恩返ししろ」なんて言われたら、どうだろうなあ。
そんな益体もないことを考えていたら、スッとミゼさんが顔を寄せてきた。
「ユーゴ、一つ言っておく」
「は、はい?」
元々静かな村だ。積雪もあって、人の気配など皆無なのだけど、ミゼさんが俺の耳元で囁く。
「ノッツたちには、父さんが魔王だとバレていない。ただの魔族の村長だとでも思っているはずだ。意味は分かるな?」
く、くすぐったい。
「お、おっけーおっけー。口を滑らさないように気を付けるよ」
とても冷たい視線を背中に浴びながら、行商人とやらのいる集積所へと魔王たちの足跡を追うことにした。
※行商人について若干表現を修正しました。




