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22.ポケットの中で紛争


 まず用意するのは、魔石。今回は勿論、修行の成果でたくさんストックの出来たウェアウルフの魔石を使用する。


≪ウェアウルフの魔石 魔力・低≫

≪魔力出力は低いが、大きさの分だけ魔力保有量は多い≫


 うん。魔石の性質についてはゼザから聞いていた通りだ。


 この魔力出力は元の魔物の強さと比例するみたいなのだけれど、これ次第で同じ大きさでも魔石の価値は大きく違うわけだ。


 ウェアウルフの魔石では、中級や上級の魔法はほとんど発動しない。かと言って、使い捨てレベルの明かりの魔道具なんかに使うのは勿体無いから、水魔道具やコンロ魔道具に使う。


 それはそれで魔石が大きい分長持ちしてしまうので、やはり在庫過多になってしまって魔石としての価値は低めなのだそうだ。


 そんなウェアウルフの魔石を、基礎となる木製台座に空けた穴に合わせて削ってしまう。


 ガンガンとしっかりハンマーで魔石を押し込んで、表の作業は完了だ。


 裏返すと、先ほどミゼさんに説明した魔術回路が刻まれている。


 ここに魔力インクを流し込むのだけど、これを改良してみるのが今回のポイントだ。


 魔力インクは魔石と魔物の血を合わせた物だけれど、魔物の血をなぜ使うのかといえば、魔力との親和性が高いからだそうだ。


 「例えば水に魔石を溶かしても、使える事は使えるみたいだよ。効率が悪いから、すぐに魔石の魔力が枯渇するみたいだけど」というのは魔王ゼザの弁。


 高ランクの強い魔物の血が使い放題ならいいのだけれど、血は劣化するのであまり現実的ではない。普通であれば、使う魔石の魔物かそれと同程度の魔物の血を使う事になるのだろうが、それがアイテムボックスの亜空間と紐づいてしまうのではないか、と魔王ゼザと議論したのだ。


 そこで俺は、自分の血を使う事にした。


 「私の血でも構わないよ?」と魔王ゼザは提案してくれたのだけれど、紐づく事を想定するなら、俺が使う魔道具は俺の血で試すべきだろう。


「な!? おい!?」


「っつ!」


 取り出したナイフで己の手の平を切り、滴る血をインク壺にぼとぼとと溜める。


 こんなものかな、と握り締めて止血しようとした手をミゼさんにガッチリと掴まれて、何かを言う前にミゼさんの治癒魔法が暖かく傷を癒してくれる。


「これは必要な事か?」


「はい。ありがとうございます」


「ふんっ」


 手の平を乱暴に拭って傷跡を確認すると、ぺいっと手を投げ出されてしまった。


 うーん、機嫌を損ねてしまった。コレで喜んで欲しかったんだけどな。


 先ほどの魔石の削りカスと、おまけでもう一つウェアウルフの魔石を削り出し、俺の血と混ぜて魔力インクを調合する。


 これを空の魔術回路に流し込めば……、完成だ。


「よしっと。アイテムボックス、オープン!」


「…………」


 分かりやすく声に出してみたけれど、魔道具の良い点は魔力を注ぐだけで発動することだ。


 先ほどまで心配してくれていたのも何処へやら、ミゼさんから向けられる冷たい視線に耐えて、魔道具に魔力を流し込む。


 魔道具の核となった魔石が僅かに光ると、俺の右手の示した先に黒い穴が開いた。


 出た。


 恐る恐るその穴の中へと手を伸ばす。ずぶずぶと手が飲み込まれていく。穴の裏側には、勿論俺の手は突き出ていない。


 正直、ちょっと怖い。


 しかしこれを便利な異世界魔法生活のため。


 幾つも出来ていた木製基盤の失敗作を穴の中へと放り込む。一度魔法を解除して、魔石を外す。


 別の木製基盤に魔石を嵌め込み、俺の魔力インクで仕上げる。


 ドキドキと騒ぐ胸を抑えて、もう一度魔道具に魔力を流す。


 改めて出来た亜空間の穴へと手を差し入れるが、何かに触ることはない。


 焦らずに、木製基盤をイメージする。途端、手に何かが触れるのを感じる。


 引きずり出したそれは、間違いなく失敗作の木製基盤だった。


 成功だ。俺の血で俺の亜空間を紐付ける事が出来た。


 勿論、もう何度も確認の実験をするべきなのだろうけど、俺は手応えに思わず小さくガッツポーズをしてしまった。


「良かったな」


 見守ってくれていたミゼさんが、優しく微笑む。


 おっと、忘れちゃいけない。


「はい。それじゃあっと」


 俺は手早くもう一つアイテムボックスの魔道具を組み立てると、それをミゼさんに差し出した。


「何だこれは?」


「ミゼさん、いつもありがとうございます。まだ実験中ですけど、良かったら使ってください」


 戸惑うミゼさんに、半ば押し付けるようにして魔道具を渡す。


 魔族の集落はその種族特性である魔力の高さに依存して成立している部分があるので、父親である魔王と違って魔法適性の低いミゼさんは色々不便をしているらしい。


 世間話の中で、ミゼさんと打ち解けて感謝を伝えたいと零した俺に、「魔道具の贈り物なんかはおススメだぞ」と、ニヤニヤと悪い顔で笑っていたのはその弱みを教えてくれた張本人だ。


 その辺りの事情を察したのか、ミゼさんは素直に魔道具を受け取ってくれた。


 魔石を光らせ、亜空間の穴を確認している、と。


「ん?」


「どうかしましたか?」


 何故か眉をしかめたミゼさん。無言で穴から取り出したのは、木製の基盤。


「あれ?」


「…………」


 俺の亜空間と紐づいてる!?


 驚いて自分の方の亜空間に手を入れると……人肌に温かい何かに触れた。


「っ!?」


「あれ? これは……?」


 木製基盤じゃない?


 確認するようにふにふに、ぎゅっと――


「握るなバカッ!」


 キュッと亜空間の中の手を抓られた。


「っ――!?」


 亜空間から手を引き出し、声を殺して身悶えてる間に、ミゼさんは予備の基盤でアイテムボックスの魔道具を組み立て始めていた。


「わ、私の分は私の血で魔力インクを作るぞ」


「はい……」


 それなら多分、ミゼさん用のアイテムボックス亜空間が出来ると思います。


 目的を達成できたようなそうでもないような、微妙にスッキリしない気分になった俺だけれど……。


 ミゼさんが新しく作った自分用の亜空間に、俺が渡したアイテムボックスの魔道具を放り込んだ事については、触れるような真似はしなかった。




 前話までのいくつかの話を微修正しました。主に言葉の表現を直しただけですが、第2話だけ、優吾を含めた召喚勇者たちに≪翻訳≫のスキルがあることを明記しました。


 物語への大きな変更はありませんが、今後は優吾が自分を鑑定すると≪特殊スキル・鑑定の魔眼 翻訳≫となると思います。


 今後とも内容が変わるような修正は出来るだけ出ないように頑張りますが、何が起こるか分かりませんので、何卒ご容赦ください。


※誤字を修正しました。

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