21.平和な夜に怪しく笑う二人
腕の下でウェアウルフの抵抗が徐々に弱くなっていくのを感じながら、周囲への警戒も怠らない。
もうすぐ、もうすぐだ。
逸る気持ちを抑えて、視線だけを周囲に巡らす。
鬼教官様はウェアウルフ狩りの修行が始まってから何度か立ち位置を変えていたけど、さっきからは同じ場所で俺に苦笑いを送っている。
そんなに警戒するなよ、とでも言いたいのだろうか。
するとも!
ウェアウルフを無傷で倒すという例の目標まであと少し、というところで、石を投げつけてきたりゴブリンを連れてきたり。挙句に、もう一頭ウェアウルフを連れてきたり!
「実戦では何が起こるか分からない」という言い分で、それは確かにそうなんだけど!
「これも修行だ」と憤る俺を宥めた鬼教官様だったけど、新たなウェアウルフをけしかける時に、父親そっくりの意地悪な微笑みを浮かべていた事を俺は絶対忘れない。
流石にこれだけ警戒すると悪戯もやれないのか、本当にやる気がなかったのか。俺の下でウェアウルフが一切の活動を止めても、鬼教官様がちょっかいを掛けてくる様子はなかった。
ということは。
いいんだよね?
「やったー! 課題クリア!」
手早くウェアウルフから魔石を取り出して、感激のあまり握り締める。少し手が汚れてしまったけれど、処理は仕方ないとのお達しだ。
苦笑いを浮かべたまま、ミゼさんが近寄ってくる。
「怪我無し、汚れなし! 今日から魔道具触っていいですよね!?」
「修行は明日からも続くぞ?」
「はい!」
「その結果次第でまた取り上げるからな?」
「はい!」
「…………チッ」
「あいた!?」
言葉を詰まらせたミゼさんは、頭をガシガシと掻いて久しぶりに舌打ちをすると、俺にパチンとデコピンをかましてウェアウルフの死体処理に行ってしまった。
うーん。ちょっとテンション上がりすぎてウザかっただろうか。
調子に乗ってしまった、という僅かばかりの反省も、次に控えるお楽しみを前に霞んでしまうばかりだった。
◇
「お前は一体、何を作りたいんだ?」
場所は変わって魔王宅の居間。
机の上に用意していた素材を並べていると、対面に座っていたミゼさんが尋ねてくる。
何を隠そう、この素材を用意したり、俺の作りたい物について助言を与えてくれたのは全部魔王ゼザだったのだ。転移魔法で忙しく飛び回る魔王が、空いた時間に何かと相談に乗ってくれていた。
鬼教官ミゼさんはと言えば、≪適性・魔法戦士≫と鑑定できる通りに魔法適性はそれほど高くない。そのためか、魔道具作成にも乗り気ではなかったのだ。
俺と魔王ゼザが楽しそうに魔道具議論を交わしている間、実は寂しくしてたのかなーなどとは、思っても絶対に確認など出来はしないけども。
「ズバリ、これです!」
そんな仲間外れになっていたミゼさんに、俺はふふんと自信たっぷりに基礎となる木製パーツを突きつけた。
「使うのは、≪アイテムボックス≫≪発動≫≪維持≫です」
「つまり、お前が作りたいのは……?」
まだ魔力インクを流していない、魔術文字が刻まれただけの木片をなぞっていたミゼさんに、不要とは思いつつ解説を行う。
「アイテムボックスの魔道具です!」
「お前には有効かもしれないが……はあ」
自信満々で発表した俺に、ミゼさんは白い眼でため息を吐いてしまう。
この≪アイテムボックス≫の魔法、実は結構くせがあるのだ。
『自分専用の亜空間を作る』という時空系統初級魔法ではあるのだけれど、その亜空間の内容量は詠唱者の魔力に依存する。
しかも、入れた分だけ魔力に負荷がかかるため、下手に物を入れすぎると『常に疲れてる』状態になってしまうのだ。
適量にすればこれはそこまでの問題ではないのだけど、最大の問題点として、もしも死亡した場合、アイテムボックスの中身は亜空間の中に永遠に消えてしまう、ということ。
記録に残されている数千年の間でも、かなりの数の貴重な品々が所有者死亡により亜空の彼方へと消失してしまっているそうだ。
そんな魔法として問題のあるアイテムボックスだけど、魔道具としても問題がある。
魔道具本体や魔石が破壊されると、同様のことが起こるそうだ。
詠唱者が生きている限りは大丈夫な魔法の≪アイテムボックス≫と、使用者が生きていても魔道具を破壊されると使えなくなるアイテムボックスの魔道具。
魔道具の方が見限られ、価値の少ない希少品となってしまうのもしょうがないことだろう。
だけど、これに関して魔王に議論を重ねた結果、「それ面白いね」とお墨付きをもらった改善案がある。今日はそれを試してみて、絶賛白眼視中のミゼさんを驚かせてやろう。
この話だけ長くなってしまうので、ちょっと切りは悪いのですが今日はこれまで。明日をお待ちください。
※本文一部修正しました。




