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紅潮

 過ごしやすい気候と豊潤な土地に恵まれたこの国は、作物に恵まれている。それは土地を守る魔女の恩恵と云われていた。実在すると云われる太古の魔女は庶民にとって信仰の対象であるが、魔女を怒らせれば嵐を起し大地を揺らすと云われている。その為に畏怖の対象でもあった。だから人々は距離を置きながらも願うのだ。守って欲しいと。

 秋の中頃にある豊作の祭りはそんな彼らの願いの篭ったものである。

 

「行って良いのっ!?」

 リリアは大きな瞳を輝かせて厳格な教師である侍女長に詰め寄った。


「リリア様…」

「あっ、うん、淑女らしくします。大人しくしますって」

「…三日間とも好きにして良いと陛下からのお言葉です。見守りをさせる兵士は付けますが自由に回れるでしょう。くれぐれも羽目を外し過ぎないようにお願い致します」


 祭りは三日間に渡って行われる。リリアの地元でもそこら中に食べ物や衣類、装飾品などを売る出店が並び賑やかだった。王都で開催される祭りなら更に華やかなのだろうと想像する。王城に連れてこられてから街に出させて貰えなかった。久しぶりの外出許可にリリアは心が踊った。


「えぇ、分かっているわ。ねぇ…祭りって私独りで行くの?」

「陛下は何も申してませんでしたが…」


 華やかな場所に独りでは浮くだろうとジンは考えなかったのだろうか。と独りごちる。

「ジンは?王として視察に行かないのかしら」

「ご自分が行かれると大袈裟になってしまうからと遠慮されていますね。祭りは民の為だからと仰っているのですよ」

 大雑把な物言いと無骨な雰囲気があるので忘れがちだが、ジンはその立場から様々な事に気を使っているのだろう。民の幸せには心を配るのだからリリアが望むものも分かる気がするのだが…


「そう…。ねぇ、私が誘ったらいけないかしら?王だというのは隠してそっと忍び込むのは駄目?」

「警備は増やしますが…お忍びでというのは不可能ではないかと存じます。参加されるかどうかご自分で陛下に聞いてみて宜しいかと思いますよ」


 独りで行くのは味気ない。好感があるという訳では無いが、民の幸せを願いながらも自身の幸せを知らないジンをほんの少しだけ気の毒に思った。それだけだ。リリアは誰に言うでもないが、言い訳のように頭の中にそんな思いを巡らせた。



***



「そんなに見つめるな。目の前に集中して食え。お前は子供かよ」

 ジンは呆れたように目を細める。

「集中してるもん。煩い」

 誘おうと決めたものの言葉が思い付かない。普通

一緒に行こうと言えば良いのだろう。けれど、腑に落ちない。攫われてきたというのもまだ心の中に燻っているからだろうか。ジンの勝手で今の事態になっているのも気に食わない。


「そういえば、もう聞いたかと思うが祭りの間は好きにしていい。金はやる…って言うと怒りそうだな。まぁ、でも、遊ぶにはお小遣いが必要だろう。親戚の兄ちゃんにお小遣いを貰ったとでも思って楽しんで来るといい」

 柔らかな表情はここに来て初めてかもしれない。


「あ、あのさ」

「なんだよ?お菓子のひとつでも食ってくれば良いだろ。気にするな」

「違っ!!そうじゃなくて…えっと…ジンはさ…えっとぉ…」

 何故だが無性に恥ずかしくなり俯く。耳が熱い。きっと顔は真っ赤になっているのだろう。落ち着く為に息を吐く。

「あのね、お祭り一人じゃつまらないでしょ。一緒に…えっとぉ…うわぁ…無理」

「ぷはぁ…アハハ…」

「な、何笑ってんのよ」

「はいはい、一緒に行こうな?道に迷いそうだしなぁ、お前」

「煩いっ!!」

 ゴツゴツとした手が近付いてきて頭をグリグリと撫でられる。更に顔が熱くなる様な気がして恥ずかしく、リリアは止めてと言いながら払い除けた。

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