1/5
プロローグ 没落貴族の「花」として育てられた、女装少年の僕
僕には、秘密がある。
生まれた時から、ずっと隠してきた秘密。
僕は男だ。でも誰も知らない。
女の子として十八年生きてきた。
ピンクの髪を伸ばして、レースの服を着て、「ラナ」として笑ってきた。
理由は単純だ。母が「言ってはいけない」と言ったから。それだけ。
母は僕が七つの時に死んだ。
でも、その言葉だけは守り続けた。
ヴェルナ男爵家は没落していた。
父は毎晩飲んだくれていた。銀食器は消え、絨毯は擦り切れた。
そんな家に、ある日話が来た。
「お前に奉公の口を見つけた」
父がそう言って差し出したのは、セヴェラン公爵邸への紹介状だった。帝都でも名の知れた公爵家。
そこのメイドとして仕えることになった。
「はい、父上」
断れるわけがない。
でも後から気づいた。父の手が震えていたことに。書類に、知らない紋章が捺されていたことに。
――その意味を知った時には、もう遅かったんだけど。
帝都の北端、丘の上の公爵邸。石造りの重い扉をくぐって、振り返ったら、もう外に出られない気がした。
花は、嵐の気配を知らない。
摘まれるその瞬間まで。




