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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
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エピローグ

「皆、準備はいいですか?」


 僕の確認に皆が頷きます。


「僕達とこの国の邪魔をする物は許さないです。思いっきり暴れてきましょう!!」


 この日、僕達は国の復興の妨げになると確定した「魔族狩り」へと出向きました。


 カイル公子の一件から数年、その間はとても平穏に過ごす事が出来ていましたが、彼に入れ知恵をした魔族が気になり、ずっとその存在について調べていました。


 その傍ら、日々鍛錬し続けた賜物として、僕の魔力は爆発的に飛躍し「合成能力」すらも省略して合成魔法を展開するに至りました。


 全てを見通す神の目(ゴッドアイ)を極大化させて調べた結果、魔族の所在が判明しました。

 ブラドイリアの遥か上空に魔族の住む浮遊大陸が存在したのです。

 その話を皆にした所、それだけではその場所に行くすべが無いのでは、と言われました。


 この数年、僕は魔力と能力向上に磨きをかけました。僕達に害を成す可能性のある物がまたいつ現れるか解かりませんから。カイル公子のような出来事はもう絶対に起こしたくありません。


 そして、向上した力で僕は浮遊大陸に行く方法を身に着けたのです。


「皆、行きますよ、オールフェイウィング!!」


 僕の魔法が展開すると、仲間達の足に透明な天使の六枚翼が付与されます。

 これはレビテーションウィングの上位互換とも言える魔法で、空を飛ぶ魔法です。


 ただ、魔法の箒に乗って飛ぶとか、万能魔法少女とかそういった物とは違い、空を飛ぶ練習が必要だったりします。一ヵ月ほど、皆で空に飛んでは墜落する面白い光景が城の修練場で見れました。


 ええ、その度スカートの中が丸見えなので、皆で赤面しながら頑張りましたよ。若干名興奮していましたが。あ、ウェイル君は自分の意思で目隠しして練習してました。恥ずかしいのは確かですけど、別にウェイル君ならいいのにって思ったんですけどね。


 そして無事全員が飛行能力をマスターし、いよいよ魔族の大陸に殴り込みをかける訳です。


 この魔族と言われる存在。

 決して悪という訳ではなく、善でもありません。

 いえ、やっぱり悪でしょうかね。


 全てを見通す神の目(ゴッドアイ)によって暴かれた魔族は、古代魔法具の生みの親にして、この世界の創造主とも言うべき存在でした。


 この世界には当初、魔族しかいませんでした。魔族達は高度な知能と魔力で様々な異世界から人間や獣人を呼び寄せ、興味だけで無理矢理交配し、この世界に新たな人間を作り出しました。


 異世界人達は自らの子供と共に地上へと放り出され、未開の大地で必死に生き延び、魔族の血と能力を後の世に残してくれました。

 稀に生まれてくる五姫や特殊能力者は、魔族の血がなんらかの形で大きく遺伝した結果のようです。

 古代人達が高い知能と魔力を誇ったのは、これが理由だったのです。


 魔族が何かしらの魔力実験を行うと、その度に世界にモンスターが現れます。魔力実験の際に生じたエネルギーからモンスターが生まれるという迷惑極まりない事実でした。


 実験が失敗すると、普段とは桁違いの膨大なエネルギーが生じます。

 その膨大なエネルギーから生まれた存在。

 それがプリシラとアビスちゃんです。そして火の鳥等もそうです。

 その三人より強い九尾ちゃんは、元をたどれば異世界の獣人の末裔なのでモンスターではありません。


 このような形で、世界の真実を知ってしまった訳です。

 そんな事実の下、カイル公子と魔族の繋がりについても解っています。


 現在の魔族達は地上の人間を支配する考えの派閥と、自分達の子供である人間を見守る穏健派で別れていました。お互い意見は譲らず、次第に軋みを生み出します。


 支配派は業を煮やし、支配計画実行準備の為、数人が人間査察と称して地上へと下ります。

 降り立った大地は公国の城の裏庭園。そこには自失状態で呆けていたカイル公子がいました。


 穏健派に計画がバレる訳にはいかない支配派達は公に動く事が出来ません。その為、手駒になりそうな人間を探そうとしたのですが、それは早々に達成されます。カイル公子の素性を調べ、体の良い人形として使えると判断し、彼を手駒としました。


 カイル公子は僕への復讐とプリシラへの想いを捨てきれず、魔族との契約を二つ返事で飲んだのです。

 そして魔族の女性と交わると、不老の力をその身に宿しました。


 更に様々な古代魔法具と世界の真実を得て、認識誤認能力が張り巡らされた僕達の国に容易く侵入し、暗躍していた訳です。


 これが、彼と魔族が結託した経緯なのでした。


 支配するって言う事は。

 僕達の楽しい時間を奪い、僕達の国を奪う訳です。

 既に、カイル公子という実害も出ています。

 誰が支配とかいうふざけた行為を許しますか?


 数年越しの怒りが更に膨れ上がり、殺意に変えてしまった僕はその場で皆をまた泣かせてしまったのはご愛敬で……。


 魔族穏健派とは既に僕個人が前もって接触し、今回の殴り込みを許可して貰っています。穏健派が動くと僕の怒りの矛先が無くなりますから、静観をお願いしています。


 そして。

 今まさに支配派を皆殺しに行く所です。ハイテンションで殺るです。

 ごーいんぐまいKILLです。


 ---------


 魔族大陸に降り立つ僕達。

 大地に立っているのに、辺りに雲が漂っていて不思議な感覚です。僕は先だってこの感覚を体験してますけどね。この大陸にも草木が生えていますし、鳥も囀り飛んでいます。ただ、空の上は肌寒いので厚着をしてきて正解でした。


 そんなあり触れた景色の中に。

 異質な人工物が立っています。


 それは「機械」です。

 僕が元々いた世界の工場プラントのようでした。


「結構広い大陸ですね。倭国と同程度はあるのではないでしょうか」


 レイシアが周囲を見渡しながら興味深げにしつつそう言うと、隣にいたツバキさんが訝し気にしています。


「面妖な建物じゃの。まるで構造が理解できぬ」

「そーだねぇ。これが超古代文明ってやつなのかなぁ」


 エリーナがプラントから露出しているパイプラインに触りながら興味を示しています。


「私はこんな場所に興味は無いわね。支配派とやらをさっさと皆殺しにして帰りましょう。今ならティータイムに間に合う筈だわ」


 僕に迫る勢いで凄まじい殺気を放ち、不機嫌なプリシラ。

 当然です、元はといえば魔族のせいで、僕達の歯車が壊れたんです。

 修復するのに長い時を要した事、修復出来ない物。どれも深い爪痕として心に残されています。

 プリシラは今、理性を保ったまま「魔王」の状態にあります。


「プリシラに同意して置くか。どうやら、魔族っていうのも私の敵じゃないようだし」


 つまらなそうに言う九尾ちゃん。自分より弱い者にはとことん興味が低くなります。

 それだけ、彼女はこの数年でさらに強くなっている事を意味します。


「まぞく、ぜったいゆるさないから。わたしすごくすごく怒ってるんだから!!」


 逆に殺る気のアビスちゃんがピョンピョン跳ねながらそう言います。

 今のアビスちゃんは、可愛いマスコットが包丁とかを持つとホラーになるアレのようです。


「さて、じゃあ支配派さん方にお出まし頂きましょうか」


 エステルさんが、僕との合作「魔法具のマイク」を取り出します。

 このマイクを通して彼女が歌うと、この大陸程度であれば全域に声を響き渡らせる事ができるでしょう。

 決して騒音ではなく、一定の音量が全土に響く魔法具なのです。


 彼女が透き通る歌声を響き渡らせると。

「歌」の風習がない沢山の魔族が、魔力を込めた歌声の魔性に惹かれて周囲に近寄ってきます。ここには穏健派はいません。

 選別はこれで終了です。


「来ましたわね、準備は出来てますの? ウェイル」

「出来ているよシルフィ姉さん。いつでも行ける」


 姉弟が阿吽の呼吸で確認しあうと、二人が行動に移ります。


「“聞け。吹き抜ける風に耳を澄ませよ。風に恐怖せよ。怒れる風は眼前の者を見放した証であり、何人も逃れる術は無し”風術「殺界・風爆」」

「来い、魔力を帯し怒れる風よ。我が剣に宿りて眼前の者を滅せよ!風爆剣閃(エアエクスプロード)」!!


 二人の力が合わさった魔法剣をウェイル君が魔族に一閃。

 一瞬の間を置いて風が横切った後に爆ぜる音が響き渡ります。


 次々に爆殺されていく魔族達。


 ようやく我に返った支配派達は、僕達に罵詈雑言を述べ立てています。

 彼らは本気を出せば僕達などゴミのように嬲り殺せる、と言っています。

 殺す前にゴミである僕達を嬲るんですか、いい趣味てしてますね。


「下種どもが……」


 ツバキさんから冷気が溢れます。

 そして、彼女が放つのは「氷術・完全世界」。大地が氷の世界へと閉ざされます。

 ですが氷魔法をレジストした魔族がまだまだ生き残っています。


「あたしに触っていいのは、ここにいる皆だけ。貴方達じゃ役不足だよ」


 急激に凍り付いた大地に灼熱の蒼い炎「炎術・蒼炎」が極大化して放たれます。

 更に、気温の上下が激しい大地が徐々に揺れ始めました。


「皆様に対する……低俗な発言。許すわけには……いきませんね」


 遠い昔、強力な力を持つ獣人を恐怖に陥れた大地震の土魔法が、今ここに蘇ります。

 大地に亀裂が走り、瞬間的に地面が割れると、次々に支配派が落ちていきます。

 そして、重い音ともに大地の地割れが戻り、落ちた支配派は擦り潰されました。


「ここまで生き残っている方々を大変不憫に思います。生き残った分だけ、自らの子供らの手で幾度となく命を奪われる様を見続ける事になるのですから」


 レイシアが天を埋め尽くさんとばかりの天使の軍勢を展開します。

 天使の大群は槍を構えて投げ落とすと、地獄絵図がそこに広がりました。

 大半の支配派ここで串刺しになり、残るのは特に実力のある魔族だけです。

 その生き残りの魔族が何か喋っていますが、無視します。


 そしてプリシラ、九尾ちゃん、アビスちゃんが同時に能力を展開します。


 実力のある魔族は全ての属性をレジストするようでした。ですが、それも計算済みです。

 彼女たちが同時に能力を掛け合わせると「無属性」が生まれます。

 どんな能力であろうと、無属性はレジストできません。


 その無属性の能力は。

 レイチェルさんの使っていた重力魔法です。

 三人が疑似的にその魔法を再現したのです。


 残るは一人。

 支配派を代表する魔族だけです。


 僕はゆっくりとその魔族に歩み寄ります。

 近づいていくと、何やら命乞いをしています。

 何もしていないと。僕達に危害を加えたのは、カイルと呼ばれる人間が勝手にした事だと。

 うん、そうですか。


 だから何?


「いずれ僕達に火の粉が降ると解っていて、そのままにしてはおけないのです。御免なさい。そしてさようなら」


 ゆっくりと、「型」の動作を作ります。

 そして息を吐き、構えます。

 それはレイスを倒した僕とシズカさんに、キョウカさんを加えた力。


「橘弓術・相克破魔七連矢」


 合成魔法を瞬時に放つと、次々に虹色の矢に射抜かれ支配派の代表が消し飛び、消えました。

 周囲にはもう支配派はいません。それは、現時点の結果だけを見れば、一方的な虐殺でした。

 国が掲げる専守防衛とも嚙み合いませんね。


「皆、帰りましょうか」

「ミズファ」


 そう言った僕にプリシラが語り掛けてきました。


「なんでしょう?」

「帰る場所にいい加減名前を付けて頂戴」

「あ……」


 すっかり忘れていました。

 このままブラドイリアでいいんじゃないでしょうか、と考えると直ぐにプリシラが頭の中に怒鳴りつけてきます。怖いです。


「主様の国名が……いよいよ、決まるのですね」


 ミルリアちゃんが無駄にプレッシャーをかけてきました。

 そうですね、いい加減決めないといけません。

 新しい国の名前を。


 アビスちゃんが目をキラキラさせながら見上げています。

 なでたい衝動に駆られながらも、宣言します。


「僕達の国の名前。これからも、僕達がずっと過ごしていくその国の名前は【共同国・アクアリース】です!」


 アクアリースはまだまだ復興と発展途上にあります。

 皆と力を合わせて、少しずつゆっくりとやっていきますよ。

 落ち着いたら、レイチェルさんにも会いに行かなくちゃ。


 そして、アクアリースで待ちます。

 いずれ来るであろう、僕の娘を。


約三か月、お付き合いくださった皆様、本当に有難うございました。

時間が取れ次第、各ヒロインとの後日談等書ければいいな、と思っています。


新作を開始しましたので、其方も宜しくお願いいたします。

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