国の復興と世界の変化
プリシラをお姫様抱っこしながら、皆と合流して帰路へと着いた僕達。
途中、鬼のいた場所で座るレイシアとミルリアちゃんへ元気に声をかけます。
やはり、レイシアはカイル公子の手で一時的に命を落としていたようです。
唐突に光の矢で射抜かれ、倒れたレイシア。
一緒にいたミルリアちゃんは当然泣き叫んだそうですが、僕が絶対なんとかしてくれると信じて、その場でレイシアをずっと膝枕していたそうです。蘇生後のレイシアはミルリアちゃんの涙と膝枕が解っていたらしく、その一件以来、二人で仲良く会話している風景が更に増える事になりました。
エリーナとツバキさんも同じように射抜かれましたが、熟練した感が働いて致命傷を避けたそうです。僕ですら避けようと思う暇も無い程の射出速度なのに、二人とも凄いです。死亡には至らなかったエリーナがツバキさんを抱き抱えつつ、回復魔法をかけて凌ぎました。
いつも口喧嘩してるエリーナとツバキさんですが、信頼し合っている事は解っています。
姉弟とエステルさんもボロボロではありましたが、外のモンスターを一匹残らず掃討してくれていました。
何時までも沸き続けるモンスターに焦りを覚えたそうですが、プリシラがカイル公子に止めを刺した辺りでピッタリと止まったそうです。
で、今回のお姫様であるプリシラは僕にベッタリです。
ずっと離れてくれないので、お姫様抱っこで連れて帰る事にしました。
本人もお姫様の自覚があるらしく、「当然の権利よ」と九尾ちゃんとアビスちゃんの不満を一言で撥ね退けていました。
今回のカイル公子の一騒動。
謎が残る部分が沢山あります。
カイル公子はどうやって人間を止めたのか。様々な古代魔法具をどうやって見つけ、その用途を知ったのか。キョウカさんの弓が、何故最北の地にあると知っていたのか。
お城に帰ったら整理しないとですね。今後災いの種になりそうな点があれば、早めに摘んで完膚なきまでに叩き潰します。僕、本気で怒ってますからね。
残りはプリシラの事ですが。
彼女をこれ以上傷つけたくありませんので考えない事にしています。正気を失わせた古代魔法具はカイル公子の首飾りだとプリシラは言ったので、粉々に破壊しました。
僕の怒りはそんな事では収まらないですし、プリシラの辛い気持ちを変わってあげられるなら、変わってあげたいです。
そんな風に思っていると、考えが筒抜けのプリシラが赤面しつつ、お姫様抱っこしている僕の顔をずーーと見上げています。
恥ずかしいので目を合わせません。
帰る道すがら、アビスちゃんが背中にしがみ付き、九尾ちゃんが僕の腕に手を回してきたりしますが、されるがままになっています。この二人のお陰でプリシラを助け出せたんですからね。
ただ、以前の世界の僕なら兎も角、今の背の低い女の子の僕では、いくら軽いアビスちゃんでも乗っかられると厳しいです……。
一先ず。
プリシラは皆の前では普段通りに接してくれているので、彼女に感謝です。
僕の頭の中に、「助けに来てくれた彼女達に暗い気持ちを見せるなんて、無粋の極みよ」と語りかけてきます。僕は拒絶されたのに、皆は最初から受け入れモードでした。
と、考えると「そんなの、理由を言わなくても解っているでしょう!!」と怒鳴られました。
解っています。僕だって大好きですよ、プリシラ。
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城へと戻ると。
疲労と血が足りないの二重苦で、僕達は自室のベッドの上で二日間を過ごしていました。
唯一元気いっぱいのプリシラは、皆の部屋に小まめに通っては気遣いの言葉をかけていたようです。
カイル公子の一件から二日目の夜に、珍しく夜這いをかけに来たプリシラ。段階を踏んでくれないと嫌なので、ベッドに潜り込んできたプリシラにチョップを見舞ったら素直に大人しくなりました。そのまま帰すのも寂しく思ったので、その夜は仲良く二人で眠りました。
次の日になり、皆が揃っての朝食になると、プリシラが食事の席で九尾ちゃんに語り掛けます。
「九尾、ちょっといいかしら」
「なんだ?」
「大分遅れてしまったけれど。ミズファの為に、そして私を救う為に力を貸してくれて、とても感謝しているわ、有難う」
「ん、別に構わないぞ。そんな事より、私を殺したお前の限界を超える力の方が興味深い。あれはどういう原理なんだ?」
朝から動物の肉のソテーを頬張りながら質問する九尾ちゃん。
「あれは……。カイルはどういう訳か、様々な古代魔法具を所持していたわ。その中に、一時的に能力を爆発的に上昇させる古代魔法具があったの。ただし、一度その古代魔法具の力を開放すると、一メルダ程度は使用不可能になる。カイルは私にそう説明していたわ」
「切り札の古代魔法具という所か。そんな物を国家指定級が使っていたのであれば、私が容易く殺された事も納得がいく」
その後食事をしながら、あの洞窟についてカイル公子から聞かされた内容をプリシラが話してくれました。
最北にある洞窟は本来、入口が見えないように古代魔法具の力で細工してあったそうです。
カイル公子は大分前にその洞窟の封印を解いて住み着き、復讐とプリシラを得る為に暗躍していたとの事。
そしてキョウカさんの弓は、その異常な制圧力の高さを畏怖され、戦争終了宣言後、人知れずその洞窟に封印された物だと彼は言っていたそうです。
「けれど。カイルが何故、洞窟の存在を知っていたのか。何故、様々な古代魔法具を所持していたのか。その理由等については一切聞かされていないわ」
それに関しては僕に思い当たる節があります。カイル公子は死ぬ間際、「魔族」と言っていました。
その辺りを調べれば何か解るかもしれません。そして調べた結果によって、僕達とこの国に害を成すのであれば、その魔族という方々は皆殺しにします。僕は本気です。
話して解かってくれるなら別ですけどね。
いつの間にかプリシラは食事を止め、うつむいたまま黙ってしまいました。
僕とレイシアとアビスちゃんが揃って彼女に近寄り、退出させます。
皆の前では元気に振舞っていましたけど、プリシラが受けた心の傷は計り知れません。
やはり無理をしていたみたいです。もう彼女に洞窟に関するお話はさせないと、皆で取り決めました。
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その後、中断していた街道の復興は順調に続いていきました。
獣人の皆さんが人間の数倍のスピードで街道を修復してくれたお陰で、城と国境の関所を繋ぐ道が完成しました。続けて、フォルーナの街の再建に現在取り掛かっている所です。
ブラドイリアと地下にある獣人の国は同盟を結び、プラドイリアの一部の街は、獣人の街として復興する事が決まりました。
地上に出てきた獣人の皆さんは空の青さと新鮮な空気、何処までも広がる地上の台地に喜び、悲願だと泣き、各々様々な感情を爆発させていました。
けど、九尾ちゃんの目的は地上に獣人の国を再建する事なので、彼女はブラドイリアの一部だけでは満足出来ていないようです。そのうち隣国を攻め滅ぼそうと九尾ちゃんに言われましたが、お断りしました。
僕達、基本は専守防衛なのです!
その間、プリシラは少しずつ元気が戻っています。僕は皆との時間を大事にしつつも、プライベートの時間は全て彼女と一緒に過ごしていました。元気になってくれるのはいいんですけど、最近彼女からのスキンシップが大胆になってきているのが悩みの種です……。
そして魔族について調べつつ、順風満帆に三か月程が過ぎた頃、不思議な事がありました。
何故か世界中のモンスターが弱くなったのです。
どれ位弱いのかというと、駆け出しの冒険者が一人で低級モンスターを倒せる位に。
その件で各国の王が緊急的に集まり、僕もその会議に参加しました。久しぶりにエルフの長にも会い、彼女から頭をなでられてご満悦な僕。……それでモンスターについてですが。
一見すると弱くなったのは良い事のようですが、何か良くない事の前触れではないかという意見が多数を占めています。
何事も最悪の事態を想定しておいた方が良い、という事ですね。
けれど、国家指定級の内二人は姉妹仲良しモード中ですし、レイスはいませんし、火の鳥は姿を消したままです。しかも倭国以外にいる強力なモンスターは、プリシラとシズカさんとアビスちゃんが旅の途中で皆殺しにしています。まさに平和です。
なので、現状は冒険者が育つ絶好の機会だと論しておきました。
冒険者ギルドがこの機会に賑わえば、各ギルドに溜まっている依頼を請けてくれる冒険者が当然増えますからね。主に溜まっているのは、地方の街に現れるモンスター退治などです。
今まではモンスターが強すぎて、冒険者達はパーティーを組まないとまともに退治する事すらできませんでした。
今なら個人で請け負って依頼を解決していけます。仕事として十分に成り立つのです。
もし何かあれば僕が責任をもって事に当たると言うと、王達はそれならば、と冒険者ギルドの強化に前向きな姿勢を示してくれました。
それから何事もなく、更に年月が過ぎていきました。
世界は冒険者が駆け回り、各地のダンジョンは連日のように挑戦に訪れる人々が絶えません。
そんな中、僕達は人知れず海底神殿の奥と同族化に使用したダンジョンの奥を多重封印しました。どちらも一般の人に辿り着いて欲しくない場所なので。
そしてブラドイリアも街が二つほど完成した頃。
ようやく、魔族と呼ばれる物の詳細を突き止めました。
次回で一応の完結となります。




