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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
102/107

洞窟

 夜が明けて。


 僕達は早朝に山の麓を目指して出発し、時計が九時を回った頃に到着しました。

 流石に肌寒さを感じる為、皆から預かっていた上着を収納魔法で取り出して、各自に渡します。


 重ね着しつつ周囲を見渡す僕。

 麓までは石しかない荒野でしたが、山へと至る間に徐々に木々が少しずつ増えていき、見上げる位置になると森となり、頂上付近には雪景色が望めます。街の跡地から一直線にここまで来ましたが、この辺りを含め、本当に石しかありません。

 遥か昔から、この一帯は開拓の手が入っていないのでそれも当然だとは思いますが、どことなく違和感のような物を感じます。


 その違和感が気になりますが、先ずはアビスちゃんに調べて貰おうと思った所、既に意識を集中させて周囲を探っていました。

 暫く待っていると、ジーっと一点の方角を見つめた後、僕に近寄ってきます。


「みずふぁ。山のとちゅうにどーくつがあるよ。解かんないけどだんじょんだとおもう」

「ダンジョンですか? この辺りには人の手は入っていないという事になってた筈ですけど……」


 妙な違和感はそのダンジョンのせいでしょうか。山の方を見ていると、まるで自然の中に人工的な手が加えられているかのような違和感を感じていたのです。


 世界中にあるダンジョンの位置は、学院の大図書館にある本である程度調べてありますが、この国の最北にダンジョンがあるとは、読んだどの本にも書いていませんでした。


「あからさまに怪しいねぇ」

「ですけれど、手掛かりを求めて探索していた訳ですから、収穫があったと喜ぶべきですよね」

「そうじゃの。しかし、実際にその洞窟の内部を見てみるまでは判断は出来ぬ。人の手が入っていたとしても、この周辺を開拓するつもりで、その洞窟を拠点代わりに作ったのやもしれぬからの」

「どちらにしましても、現在はその洞窟をカイル様が再利用している、と言う事でしょうか」


 再利用だけで済んでいればいいのですが。

 勿論洞窟自体カイル公子と無関係かもしれませんけど、エステルさんの発言にはそれだけではない気がしました。漠然とですが、カイル公子はその洞窟を悪用していると直感が告げています。


「実際に見に行って確かめてみましょう。アビスちゃん、道案内お願いします」

「うん、でも……」


 アビスちゃんが歯切れ悪く僕に返事をしますが、その理由が直ぐに解ります。


「モンスターですか……」


 かなりの数の初級モンスターが山側から出現し、迫ってきました。見る限り、軽く三桁はいるようです。

 生きたまま「使い魔」になっているらしいこのモンスター達は、カイル公子の命令で動いている為、殺気等を放って追い払う事は出来ません。


「ミズファお姉様。ここは私とウェイルで片づけて置きますの。洞窟まで突破口を作りますから、皆様はその隙に先に進んで下さいませ」


 そうシルフィちゃんが言いながら僕達の前に出ると、それに合わせたようにウェイル君が山側から迫ってくるモンスターの前に進んでいきます。


「かなり数が多いですよ? 二人だけで大丈夫ですか?」

「でしたら、私も残って二人をサポートしましょう」


 エステルさんが姉弟に近寄って行きます。


「エステル様がご一緒して下さるなら、モンスターの多さなどまるで問題にはなりませんわ!」

「エステル様の歌は僕達の能力を最大限に発揮させてくれますからね」


 戦闘態勢に入りながら、二人ともエステルさんの援護に感謝しています。

 エステルさんも態勢を整えながら僕に振り返り。


「ミズファ様、私を含めた三人は後で追いつきます。必ずプリシラ様を奪還しましょうね」

「うん、有難うございます、エステルさん、シルフィちゃん、ウェイル君! でも絶対無理しないでくださいね」

「心得てますわ!」

「むしろ、この先の方が心配なくらいです。ミズファ姉さんも注意してください」

「うん、勿論です!」


 直ぐにエステルさんが歌うと姉弟の能力が強化され、向かって来ていたモンスターの一部が、上下に真っ二つになります。

 ウェイル君が先制で剣を横なぎに振るっただけで、十数匹のモンスターが減りました。

 彼は剣に少し魔力を込めて飛ばしただけです。魔法剣を使ってすらいません。


 続けてシルフィちゃんがウェイル君の攻撃で手薄になった箇所に、更に追討ちをかけます。

 術式を展開し、直線状に螺旋を描くように竜巻が放たれると、モンスターの群れが分断され、道が開けました。


「さぁ、ミズファお姉様、行ってくださいまし!」

「うん、有難うございます!」


 僕達はたまに襲ってくるモンスターを蹴散らしながら走り抜け、アビスちゃんの後に着いて行きます。

 後について行くと山に続く傾斜に入り、少しずつ木が目立ち始めます。


 真っすぐ進んでいたアビスちゃんは、なだらかな斜面を左側に走り出し、その後もしばらく走っていくと。

 木々の間の傾斜に、口が開いているかのような比較的大きめの洞窟が見えます。

 洞窟の前に立たどり着いた僕は周囲を見ると、最近出入りされていた形跡を見つけました。


「間違いないです。ここにプリシラとカイル公子がいます」

「ふぅん。洞窟の中から雑魚の中ではそこそこなのがいる気配を感じるな。退屈しのぎ程度にはなりそうだ」

「この気配程度であれば、妾達ですら軽く足らえそうじゃがの」

「ですが油断は禁物です。洞窟自体に罠があるかもしれませんし」

「カイル君が何もせず待ってるとは思えないからねぇ。現にさっきモンスターが襲ってきてるし」


 ここからはカイル公子の領域です。過去、彼が自らの国をプリシラ一人の為だけに使い潰そうとした記憶が蘇ります。この洞窟も、己が目的の為の土台なのでしょう。


「洞窟の中に入りましょう。皆、十分に警戒してください」

「ぷりしらねーさま、いま行くからね!」


 僕はライトウィスプを展開しつつ、健気なアビスちゃんの手を取って進みます。

 九尾ちゃんは暗い所には慣れた様子で、僕達より先に進んで、危険な個所を調べながら軽快な動きで進んでいます。


 中はくり抜いたような横穴が暫く続いていました。地下世界の洞窟のように、鍾乳石のような歪な柱が至る所に出来ています。

 手慣れたように先を進む九尾ちゃんが一旦、その場で停止しました。


「ミズファ。モンスターがいるぞ」


 ライトウィスプで道の先を照らすと。細道だった通路から一気に広がって、少し広い空間が出来ています。


 その空間に。

 巨体に牛の頭が付いたモンスターが二匹立っています。

 手には大きな斧が握られていました。


「ミノタウロスか」


 九尾ちゃんがそう呟きます。

 こういったモンスターは過去の記憶の断片にある「ゲーム」で見た事がありますが、実際のを見るのは初めてです。とてもごつくて、出会っただけで恐怖しそうな風貌をしています。


「中級モンスターの中でも相当上位のやつだよねぇ、こいつ。こんな所に生息してたんだ」


 エリーナがリボンを解いて長い髪を下ろしながら言います。

 本気モードです。


「じゃが、運が悪かったのぅ……。妾達に出会ってしもうたばかりに」


 ツバキさんが扇子を胸元から取り出し、口を隠しながら殺気を漲らせています。


「ミズファちゃん、このデカイやつらはあたし達が貰うよ。これくらいの奴じゃないと、同族化した後のリハビリにはならないからね」

「炎姫、調子に乗って一人で独占しようとするでないぞ」


 若干九尾ちゃんが不満そうですが、この先にもっと強いのがいるかもしれないと言うと納得してくれました。


「二人とも、ライトウィスプを固定しておきますけど、暗い中での戦闘です。十分気を付けてください」

「無論じゃ。外のチビ共の心配だけをしておればよい」

「ま、チマチマしてるやつより戦いやすいからね」


 二人が戦闘態勢に入り、僕達から引き離すように術式をミノタウロスへと向けて展開します。

 怒ったらしい二匹はドスンドスン、という重い足音と共にエリーナとツバキさんへと近寄っていきました。


「今のうちじゃ。先にゆけ!」

「皆ー愛娘の事頼んだよー」


 レイシアとアビスちゃんが手を振って応えています。九尾ちゃんだけは、「いいからそんな雑魚さっさと倒せ」と憤ってました。

 道を塞いでいた二匹のミノタウロスがその場から動くと同時に、残りの僕達が先へと進みます。


 奥に進むと少しずつプリシラの気配を感じ始めました。

 この洞窟にいる事は間違い無いようです。


「ぷりしらねーさまを感じる!」


 アビスちゃんも当然気づきました。

 辺りを警戒しながらも、プリシラへと近づいている気配を感じた僕達は急いで奥へと進むのでした。



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