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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
101/107

最北の跡地

 以前ブラドイリアの北部に、世界的に有名な果実酒を作り出していた街がありました。

 今は荒野の一部と化し、街の跡が残るだけとなっている【旧ティアルマの街】。

 そこに僕達は集まっています。


 ここがブラドイリア最北端の街で、ここより北は雪山が連なっているのみで他に何もありません。

 九尾ちゃんからカイル公子とここで会ったと聞いていたので、手掛かりを探す意味も兼ねて、この跡地を雪山探索の拠点とします。この先は一切の情報が無く、手探りでプリシラの居場所を探すしか無いのです。


「大きな狐さん、ここまで乗せてくれて有難うございます」


 エステルさんがここまで乗って来た大きな狐にお辞儀をしています。


「ああ、とても可愛いですわ。許されるなら、このまま背に乗って、何処までも旅をしたいですの」


 大きな狐の顔に頬をすりすりしながら、シルフィちゃんがご満悦の様子です。


 お城からこの街の跡地まで迅速に移動する為、九尾ちゃんが人数分の大きな狐を召喚してくれました。

 皆初めは警戒しながら乗っていましたけど、街の跡地に着いた今では、隙あらば自分の物にしようとし兼ねない程気に入ったようです。


「ねーねーきゅーび。この子に名前つけてもいーい?」

「あたしもこの子気に入ったよぉ。名前何がいいかなぁ」

「お前ら、私の眷属に名前をつけてどうするつもりだ……」

「なんじゃ、一匹ずつ妾達に献上するという話ではなかったかの?」

「いつそんな話をした!」

「狐さん……ほしい、です」

「あの九尾様、差し支えないようでしたら……私も是非」

「……」


 皆貰う気満々でした。

 無言で九尾ちゃんが震えています。まずいです、今にも怒りで爆発しそうです。


「いい度胸だな、お前ら。そんなに眷属が欲しいなら、この私から勝ち取って見せろ」


 殺気を放ちながら周囲に向けて戦闘態勢を取る九尾ちゃん。

 皆がその様子に慌てる中、恐るおそる挙手するウェイル君。


「あの九尾さん。この狐、僕と契約したいって言ってるんですけど」

「……何だと? お前眷属と心が通じるのか?」

「良く解りませんけど、お城で僕を乗せてくれてから、言ってる事が解るようになりました」

「……お前、名前は?」

「ウェイルです」

「ウェイルか。中々優れた魔力を持った男だとは思っていたが、まさか、私の眷属と話せるとは思わなかったぞ。【聖獣親和】の能力か……」

「聖獣親和?」


 ウェイル君の後ろで大きな狐がビクビクと震えていて、それを黙って九尾ちゃんが見つめています。もしかすると、今ウェイル君の後ろにいる大きな狐と会話をしているのかもしれません。

 ウェイル君も察したのか、すかさずフォローを入れます。


「あの、九尾さん。この狐は別に何も悪い事はしていないので、叱るなら僕だけで……」

「ウェイル。この眷属は今後、お前の物だ」

「え?」


 後ろの大きな狐が嬉しそうに鳴いています。

 ウェイル君が振り返ると、今度は大きな狐とウェイル君が会話をしているようでした。


「……そうか。ありがとう、君には必ず相応しい名前を付けるよ」


 そう大きな狐に向かって喋ると、大きな狐はウェイル君に一度擦り寄ってから煙と共に消えました。


「九尾さん、今僕と狐の契約を更新しました。この子は僕が大事にします」

「あぁ、凄くお前を気に入ったようだったからな。私の命令を聞かない奴などもはや眷属では無い。好きにしろ」


 言葉に棘がありますが、九尾ちゃんなりの優しさですね。大きな狐を譲り受けたウェイル君は、僕の知らない能力を持っていたようです。当然、他の皆は貰えません。

 アビスちゃんが拗ねてましたが、九尾ちゃんが尻尾に触らせてご機嫌を取っていました。プリシラがいない間、彼女の不安を和らげてくれる九尾ちゃんには本当に感謝です。


 そんな微笑ましい出来事を挟んだ後、直ぐにプリシラ捜索へと移ります。

 街の跡地を皆で散開しつつ、暫く手掛かりになりそうな物を探しました。こういう時に一番役に立つのはアビスちゃんですが、プリシラが連れ去られた痕跡は見つからなかったようです。


 お城から早朝に出発して、15時過ぎに街の跡地に到着し、そこから周囲の探索に入りましたが、もう辺りは暗くなり始めていました。


「プリシラ様が連れ去られてから、間もなく二つ目のメルが経過してしまいますね……」


 レイシアが心配そうに遠くの雪山を見つめています。

 九尾ちゃんの大きな狐のお陰で一日掛からずこの街まで来れましたけど、それでも時間が足りないと感じます。プリシラ……無事でいて欲しいです。


「やっぱり、雪山の麓に直接探しに行くしかないですね」

「まぁ、当初の予定通りかなぁ。その為の準備もして来ているしねぇ」


 エリーナの言う準備は、僕の収納魔法に詰め込んである山に必要な物と食料の事です。

 恐らく山を登る事は無いとは思いますけど、念の為登山用の道具になりそうな物を見繕ってあります。


「辺りはもう暗いですし、次のメルに持ち越しでしょうか」

「夜道を捜し歩いても徒労に終わるじゃろう。今宵は我慢し、夜明けと共に出立する方がよかろう」

「悔しい、です……。プリシラ様……早く、会いたいです」


 皆もプリシラの事をとても心配してくれています。

 僕だって、早く会いたくて気が狂いそうです。プリシラに何かあったら、僕……。


 不安になっている僕の手を握ってくれる感覚があります。レイシアとアビスちゃんです。僕の両手を二人がそれぞれ握ってくれていました。


「二人とも……」

「大丈夫です。私も勿論心配ですけれど、プリシラ様は強大なお力をもった方ですよ。それに、あの方が自ら掲げたこの国の復興を、少々捕らわれた程度で投げ出すと思いますか?」

「そーだよ。ぷりしらねーさま、強いから! よくわかんない奴なんかにまけたりしないから!」


 うん、そうですよね。二人の方がよっぽど不安の筈なのに。

 力がある僕が弱気になってどうするんですか。

 プリシラに会った時こんな暗い気持ちでいたら、絶対叱られてしまいます。


「んぅ。よし、今夜は沢山食べて明日の朝、元気いっぱいにプリシラを迎えに行きますよ!!」


 僕の言葉に皆が呼応してくれます。

 早速ご飯の前支度をして、合間にシャワーを魔法で展開しつつ、皆でじゃれあいながら浴びた後、輪になってご飯を食べました。


 その後、大きなテントで皆が眠り出した夜中。

 火の番をしている僕とミルリアちゃんに、寝るように九尾ちゃんから促されます。


「お前らもさっさと休め。人間では無くても、お前達には睡眠が必要な筈だ。その間、私が周囲を警戒しておく」

「うん、九尾ちゃんには本当に助けて貰ってばかりです」

「お前は私が守護するに足る姫君だぞ。取るに足らない些末事だ。解ったら寝ていろ」

「有難うございます、九尾ちゃん」

「私も……お言葉に、甘えさせて、頂きますね」


 僕とミルリアちゃんが寝ようとすると同時に、アビスちゃんが起きてきました。夜遅くの時間帯を警戒する為、誰よりも早くに眠っていたのです。


「あ、みずふぁとみるりあ、おはよー。みはりのこーたいするね!」

「うん、アビスちゃんも有難うございます。見張りは九尾ちゃんも一緒ですよ」

「うん!」

「あぁ、二人の……ジャレ合いが見れないのは……残念、です」


 相変わらずブレないミルリアちゃんでした。


 テントの中で寝そべると、直ぐに眠気に襲われます。

 未だにプリシラの居場所の手掛かりすら掴めていませんが、絶対明日見つけます!

 そう決意しながら、眠りにつきました。


 寝ている間、抱きつかれるわ引っ張られるわでヒドイ目に合いましたので、チョップで皆を黙らせました。何気に皆、寝相悪すぎです!


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