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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
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クリスマスパーティー

このお話は番外として、6章「これからの事」の続きになります。



 ツリー周辺で皆と沢山遊んだ次の日。

 昨日に引き続き、今夜は僕の自室でパーティーを開く予定です!


 以前自室でお酒を飲まされ、何かをやらかしたらしい、忘れたい記憶が蘇りますがそんな事は今はいいのです。今日は沢山皆と遊んで食べて、プレゼント交換をして、皆で一緒に寝るんです!


 早速着替えて中庭に出ると、想定していた分だけ雪が積もっていました。

 相変わらず学生さん達が雪で大はしゃぎです。


 今日は朝早くに先生が来て、臨時休学日になりました。ツリーとクリスマスが王様にとても気に入られたらしく、王様はこの日を正式にクリスマスとして定め、学院をお休みにしてくれました。レイチェルさんもツリーの功績でご満悦なので、無理やり休日になった事は気にしていないようです。


 僕は一般寮へとそのまま駆けて行き、エリーナ、ツバキさん、ミルリアちゃんのお部屋を順に回ります。それぞれとデートの時間を決めて、皆からの了承を貰いました。


 そしてそのまま一人で学院の外に出向きます。

 雪は学院の中だけで降らせていたので、正門から出るとまるで暖房の効いた空間に入ったかのような暖かさでした。まだ朝早くだと言うのに、正門前で子供達のグループや親子、カップルの皆さんが待機しています。明後日までは、朝の十時から夜の二十一時まで、正門からツリー周辺までの区域を騎士団監視の中ですが解放されます。


 クリスマスが初めての経験というのもあり、それが素敵な行事だと知れた途端、王都中に瞬く間に噂が広がり、こうして学院まで足を運ぶ人が一気に増えました。

 夜になったら、また沢山の人々が列を成す事になるでしょうね。昨日の夜とは違い、今日は騎士団の人達が最初から待機していますから、混乱は一切起こらないでしょう。騎士団の皆さんに感謝しないといけませんね。


 そんな風に考えながら、徒歩で第一層まで下りて、お店の並ぶ区域へと入ります。

 僕は夜のパーティーで行う、交換用のプレゼントを購入しに来ていました。

 贈るなら何か手作りとかの方が喜んで貰えそうとは思ったのですが、クリスマス作業等で忙しく、プレゼントを作成する時間がありませんでした。


 なのでせめて、誰が僕のプレゼントに当たっても嬉しいと思ってくれるような物を購入できれば、と思うのですが。女性に贈ると喜ばれる物ってどんなのでしょうか。

 因みに皆には「高価な物はプレゼントにしない」と周知してあります。


 衣装とか小物は各々趣味や好みがありますから、これは直接贈る物ですね。食べ物もやっぱり、好みがありますし。と、なると引き出しが少ない僕には、比較的難題な事に思えてきました。


 そんな風に悩みながら、沢山のお店の前を通る僕。

 ある程度歩いてから立ち止まると、その場所にあるお店のガラス越しには様々な食器が並べられていました。


「……食器。普段から使う物、この世界だと」


 ティーカップでしょうか。一般寮にも各部屋にティーカップは完備されていますけど、使用しない内は飾る等の使い方もあります。


「悪くないかもです」


 さっそく扉を開けてお店に入ると、カランカラン、という小気味良い音が響きます。

 お店の内装は食器を販売している棚が中央に二つあり、あとは壁際にカップ類とガラス越しに展示されていた食器類だけの比較的小さなお店です。


 僕は壁際に近づいて、様々な形のティーカップを品定めします。

 やっぱり、シンプルな模様の白色の方が寮のイメージとも合いそうです。確か、カップが薄手の物が紅茶用でしたね。この世界にコーヒーがあるのかは疑問でしたが、厚手のカップもあるようです。

 悩んだ末、白に草模様が描かれた可愛いティーカップを購入し、ホクホク顔で寮に帰りました。


 その後エリーナから順にデートをして、夕方までの時間を彼女達と楽しく過ごしました。

 エリーナ、ツバキさん、ミルリアちゃんは僕の「お願い」に一切悩むような仕草をせず、二つ返事で了承してくれたんです。正直、少しは不安に思ったりするのが普通なんじゃないかなとは思うのですが。


 三人とのデートの後、すぐに外は夕暮れになりました。

 ツリーのある広場の方角からここまで、人の歓声が聞こえてきます。

 向こうも盛り上がっているようですね。

 この寮からも広場に出かけていく学生さんが沢山います。


 そんな中、僕の自室には仲間全員が集まりました。

 部屋の隅に寮母さんの右腕と呼ばれる、三人の凄腕メイドさんが傍付きしています。彼女達がいる事でエリーナ達の入室が許可されているのです。レイチェルさんもパーティーに同席しているので寛大な措置ですね。

 例え五姫と言えども、本来は貴族寮には入れません。過去の事件を繰り返す事は絶対にあってはならないので、「この人達なら大丈夫」は通じないのです。


 パーティーの開催をレイチェルさんが告げると一気に盛り上がります。レイチェルさんの言葉を待っていたようにメイドさん達が入室し、豪華な食事を手押し車に載せて部屋の中に運び込んできました。

 ちびっこ三人組と僕が歓喜に沸いています。ご飯と言ったら僕って位、ハラペコキャラを自負します!


 ふと、開けられたままの扉の外を見ると、沢山のメイドさんと数人のご令嬢が部屋の中を覗いていました。僕はパタパタと入口に駆け寄って皆に入室を促します。


 部屋の中は広すぎるので、非番のメイドさん達とご令嬢さんが増えた所でまったく問題になりません。

 僕のお誘いに嬉しそうに入室した彼女達は、部屋の飾りつけに特に目が奪われているようで、僕達や料理よりも内装を見て回って、楽しそうにしていました。一部はしゃぎすぎて、精鋭のメイドさん三人組に注意を受けてましたが。

 そんな飛び入りも交えて、盛大にパーティーは開催されました。


 当然、これだけ盛大だと立食になります。

 テーブル複数に沢山の料理が並べられ、そこからメイドさん達が取り分けてくれます。非番なのに働いてくれて感謝です。


 美味しいご飯と格闘していると、レイシアとプリシラが部屋の隅に置いてある皆の交換用プレゼントを見ながらそわそわしています。いえ、正確には僕が購入したプレゼントを見ています。


「二人とも、僕のプレゼントが気になるんですか?」

「ふぇ!?」


 レイシアが驚きながらプレゼントから視線を逸らします。


「ええと、誰がどのプレゼントに当たるのか解りませんし、気にしても仕方ない事ですから」

「そ、そうね。誰がミズファのプレゼントになるか解らないもの。中身を気にしても、し、仕方ないわよ」


 つまり、僕のプレゼントが欲しいんでしょうか。

 解りやすいですねー。


「何が入ってるかは当たった人が開けるまで解らないですからね。場合によって、当たった人が開けたくないなら中身はずっと解らないですけど」

「そ、それは駄目よ! だってそんな取り決めなんてしていないじゃない!」

「そうです、当たった方は開示義務が御座います! これは絶対です!」


 えぇ……。

 中身開示強要でした。しかも、中身を気にしても仕方ないって言ったばかりで行き成り矛盾全開でした。


「ま、まぁ。もし僕のプレゼントが気になるなら、二人が当たればいいですね」

「そ、そうよね。この私が交換に参加しているのだから、当たるのは当然の事よ」

「プリシラ様、流石にそれは同意しかねます」


 今度は二人で騒いでいます。

 忙しい人達ですね。


 次にエリーナとツバキさんの所に行きます。隠れてて見えませんでしたが、レイチェルさんも気分よさげにワインを飲んでいます。

 二人はレイチェルさんに付き合ってお酒を飲んでいるようでした。


「三人とも酒盛りですか」

「そうだよぉ。ミズファちゃんも飲む?」

「断固としてお断りです!!」


 今日は絶対飲みませんよ! 僕に不穏な動きで近づく者がいれば、お酒を持ってなくてもはったおしますよ!


「まぁ、ミズファは酒に弱いからの。じゃが、いずれ酒に弱い性分は克服せねばならぬぞ。いつまでも生娘で居られる訳では無い故な」

「うーん。「お願い」の件もあるので、ずっと弱いままかもしれません」

「何、少しずつ飲んで慣らしていけばよい。今後どうあっても、酒の席は免れぬ時も来るのじゃぞ。ミズファの場合、本当に少量からじゃが……」

「うぅ、努力します……」


 努力っていっても、記憶が無くなるのではどうしようも無いんですけど。


「アンタはそのままでいいわよ」


 レイチェルさんが僕に珍しく助け船を出してくれました。


「あ、レイチェルさんもそう思いますか!」

「だって、その方がアンタが面白い余興になって酒の肴には打ってつけよ」

「……」


 前言撤回です。レイチェルさんは僕に泥舟を出してくれました。

 酔っ払い共は放置する事にして、次はエステルさん、ミルリアちゃん、ちびっ子が集まる五人の所へ近寄ります。


「皆楽しんでますか?」

「ミズファ様、とっても楽しいですよ。こんな心が温まるパーティーは、今まで見聞きした事がありません」

「うん、心がポカポカー!」

「ぽかぽかー」

「ウェイルにアビス様、ちゃんと受け答えして下さいまし」


 シルフィちゃんにえへへーと笑いかけるウェイル君とアビスちゃん。ほんとーに癒しです。

 そして、エステルさんとミルリアちゃんが恍惚な表情です。

 相変わらず危険人物でした。


「妹と弟……主様達と一緒に、こんなに素敵なパーティーが、出来て……幸せ、です」


 頬に手を当てながら凄く嬉しそうに笑うミルリアちゃん。

 あのお城の地下牢で見つけるのがもう少し遅かったら。三人は今、この場にはいなかったんですよね……。

 僕はこれからも、この三人と楽しく過ごして行くと改めて誓いました。


 そんな和み空間の視界の隅で、シズカさんが窓から外を見ていました。

 彼女に近づいて声をかけます。


「シズカさん」

「あ、ミズファさん」

「外の雪、綺麗ですよね。クリスマスだからこその風情を感じますし」

「そうですね。本来はこの地域に雪は降らないですし、そもそもこの世界にはクリスマスが無かったのですから、なをさら感慨深く感じますね」


 シズカさんは外の雪景色を見ながらそう言います。

 唯一人、「お願い」を断ったシズカさん。彼女が見ていくこれからの世界は、どんな景色が広がって行くんでしょうか。

 そんな風に思っていた僕の気持ちを察したのか、シズカさんが元気に話しかけてきました。


「さて、雪景色も堪能しましたし、今夜は楽しまないといけませんね。プレゼント交換会、そろそろですよね?」

「あ、もうそんな時間でしたっけ!」


 楽しい時間って本当に直ぐに過ぎていくんですよね。

 僕は急いで皆に声をかけます。


 そういえば、飛び入りの皆さんは当然プレゼントは用意していません。

 なので、その皆さんには部屋に飾ってあるミニツリーやミニ雪だるまのオーナメント等、好きな物を差し上げるつもりです。

 欲しい物を皆さんに物色して貰っている合間に、交換会を進めたいと思います。


 クジ引きによって、皆の用意したプレゼントが誰に行くのか決まるこの瞬間。

 クジを引き終えると、皆僕の用意したプレゼントに集まっています。

 そして、全員が示し合わせたようにクジの結果を開示すると。


「あ、どうやら私がミズファさんのプレゼントを頂けるようですね」


 シズカさんが僕のプレゼントを引いたようです。

 周囲の皆は凄くがっかりしていました。


 僕も自分のクジ結果を見ると。

 なんと、僕もシズカさんのプレゼントを引きました。

 手のひらサイズの可愛いプレゼント箱です。


 早速開けてみると、中にはこの世界には存在しないキーホルダーが入っていました。


「どうやら、ミズファさんが私のプレゼントだったようですね」

「そうみたいです。なんか二人で交換したみたいですね」


 この結果に大変不満な仲間達。

 シズカさんも僕のプレゼントを開けると、とっても喜んでくれています。

 中に入っていたティーカップを愛用にすると言ってくれて僕も凄く嬉しいです。

 レイシアとプリシラが心底恨めしそうにシズカさんを見ていました。怖いです。


 此方も普段からキーホルダーを身に着けて置く事にします。

 シズカさんの力がいつも感じられる気がするので。


 そして、飛び入り参加の皆さんも欲しい物が決まったようで、それぞれ嬉しそうに胸に抱きしめたりしていました。


 交換会の後も、賑やかなクリスマスパーティーはまだまだ終わりません。

 この楽しい時間は、夜遅くまで続いていくのでした。


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