大事な仲間
お城に近づくと、城下町の正門が見えた辺りで、誰かが立っているのが見えます。
更に近づいて行くと、その人物が解りました。
物凄く此方を警戒しているアビスちゃんです。
今この城にはプリシラがいません。九尾ちゃんクラスとどうにか戦えるのはアビスちゃんだけなんです。
彼女はかなり離れた場所からでも相手を感知できるので、一人で迎え撃つつもりでここに立っていたのでしょう。健気過ぎます。
「九尾ちゃん、ここからは歩いて行きましょう」
「なんでだ? 城内まで私の眷属に乗っていればいいだろう」
「アビスちゃんが物凄く警戒してます。まだ九尾ちゃんを敵だと思ってますから」
「あぁ、敵意が無いと示す為か。面倒な事だな」
九尾ちゃんが不機嫌なので頭をなでてあげる僕。
なでると狐耳がぴこぴこしていて可愛いです。
「あ、おいこら、なでるな。子供じゃないんだぞ!」
「面倒な事かもしれませんが、僕に合わせてくれると嬉しいです」
「……ま、まぁ。構わないが」
そう九尾ちゃんが言うと、九本の尻尾を上下にくゆらせています。なんとなく今は機嫌が良いという事はその尻尾で解りました。
大きな狐の背から降りて、今まで運んでくれたお礼に頭をなでてあげると、気持ちよさそうにしつつ、煙と共に消えました。
その後、警戒したまま動かないアビスちゃんに近づいていきます。
やがてお互いの声が聞こえる所まで近づくと。
「きゅーび!! みずふぁをかえせ!!!」
アビスちゃんは幼女の見た目とは裏腹に、本来の姿である龍の時に出していたような殺気を放っています。何かあれば直ぐに本気を出すつもりのようです。
「ふぅん。仮の姿の割には中々いい感じだな。本来の姿と戦ってみたいぞ。場合によっては金髪よりこのちびの方が強そうだ」
九尾ちゃんがアビスちゃんの強さを分析し、少し興味を持ったようです。
「仲良くなったら手合わせを僕からお願いしてあげますから、九尾ちゃんも妙なオーラ出すの止めてください」
「ん、これでもかなり抑えているぞ」
「どう見ても殺る気満々のオーラなんですが……」
「私は戦う事が好きだからな。それなりに強い奴の前では抑えきれないんだ、我慢してくれ」
「はぁ、仕方ないですね……」
九尾ちゃんをその場に待たせて、僕だけでアビスちゃんへと近寄っていきます。
僕の様子に危険が無いと判断したのか、アビスちゃんも殺気を緩めて少しずつ僕に歩み寄ってきます。
「アビスちゃん、ただいま。帰りが遅れて御免なさい」
「……みずふぁ~~~!!」
僕が話しかけると、途中から泣きながら走り寄って、抱き着いてきました。
「みずふぁが無事でよかった。うれしいけど……あのね、まだぷりしらねーさまが帰ってこないの!」
「うん、プリシラが蝙蝠を残していてくれました。大体の事情は解ってますから、これからプリシラを助けに行きます。だけど、その前に皆にも会わないといけません」
「みんなもみずふぁとぷりしらねーさまの事、すごく心配してた」
「うん、早く安心させてあげないといけませんね」
抱きついているアビスちゃんがぎゅっと僕のスカートの裾を握ると、九尾ちゃんを睨みつけています。
「みずふぁ、きゅーびと一緒だったけど、だいじょーぶなの?」
「うん、九尾ちゃんはもう敵じゃ無いです。どう見ても殺気がだだ漏れですけど、僕達の仲間です」
「ほんとー?」
「うん、本当です」
殺気を緩めてはいますが、未だに九尾ちゃんに警戒は続けているアビスちゃん。それは僕を心配しての事なので、本当に良い子です。
「わかった。みずふぁが言うなら、きゅーびとなかよくする」
「うん、有難うございます、アビスちゃん」
「うん!」
「九尾ちゃん、こっちに来てください!」
僕が呼ぶと、渋々近寄ってくる九尾ちゃん。
近くまで来た九尾ちゃんに向けて、早速仲良しの儀式を始めるアビスちゃん。
「きゅーびおてて出して」
「何する気だ?」
「はやく!」
ぴょんぴょん跳ねながら催促しています。もう殺気は微塵も出していません。
「解ったから飛び回るな」
面倒くさそうに九尾ちゃんが手を出すと、その手をアビスちゃんが両手で握ります。
「なかよしなかよし」
「……」
九尾ちゃんが手をにぎにぎしているアビスちゃんの姿をただ見つめています。九尾ちゃんも魔性の幼女の魅力に堕ちたようでした。
「その……なんだ、それがお前の友の証か」
「うん!」
「なら、私の自慢の尻尾に触る許可をやる。身近な者と認めた証だ」
「しっぽ!」
叫ぶと同時に、ゆらゆらしている九つの尻尾にバフッという音と共に飛びつくアビスちゃん。
「やわらかいーもふもふー」
「そうだろう、私の毛並みは最高級だからな。この良さが解るとは、お前とは気が合いそうだ」
「うん! きゅーび、わたしといっしょにぷりしらねーさま助けてくれる?」
「ミズファに付き合う以上、そういう事になるな」
「うん!」
一部始終を見ていた僕ですが。凄い速さの打ち解け合いにびっくりです。
僕も九尾ちゃんとは直ぐ仲良くなりましたけど、この二人はその比ではありません。
この日を境に、九尾ちゃんの尻尾にじゃれつくアビスちゃんの姿をよく見かける事になりました。
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その後、僕を心配していた皆から安堵の声を貰いつつ。
アビスちゃんと僕の仲介を経て、九尾ちゃんは僕達の仲間に受け入れられました。
最初はレイシアが何かを企てるつもりで近づいてきた可能性を疑っていました。ですが、最初から僕達の裏をかくつもりなら、彼女の実力を考えればとっくに皆は死んでいます。会話をする必要なんて一切無いからです。
レイシアもアビスちゃんと同じで、僕の事、皆の事を心配してくれてるからこその、当然の警戒心です。
だから、思わずレイシアを抱きしめて、感謝を行動で表してしまいました。
両手を頬に当て、クネクネしながら向こうの世界に旅立っているレイシアを置いて、皆に僕が捕らわれた経緯とプリシラをさらった犯人について話しました。
街道の別の場所にいたアビスちゃんはプリシラから蝙蝠を介して僕が捕らわれた事を知り、直ぐに街道で作業していた皆と逃げるようプリシラから指示を受けて城へと帰還していたようです。
街道に居なかった仲間が経緯を聞いて驚いている中、ツバキさんが元気なくうつむいています。
「まさか公子殿が生きておったとはの……。旧公国での一件で、ミズファが公子殿に止めを刺すのを制したのは妾じゃ。このような状況を招いたのは、妾にも責任がある」
元気無くツバキさんがそう呟きました。
「ツバキさん、それは違います。あの時、大きな力に飲まれそうになった僕を必死に止めてくれた御恩、今でも忘れません。僕はきっと、あそこでカイル公子を殺していたら、ずっと苛み続けていたと思います。だから、ツバキさんは僕の恩人です!」
「そうだよぉ。そういう汚れ仕事はあたしとツバキちゃんの役目なんだから。ミズファちゃんには奇麗なままで居て貰わなくちゃ」
「……そうじゃな。その為に妾がおるのじゃ。ミズファの矛となり盾となると決めておった。我が主の手を汚させる必要など無い」
エリーナとツバキさんの言い切りには苦言を呈したい所ですが、過去に僕を助ける為、何度か人を殺しているのも事実です。二人とも、僕と出会う以前から、生きていく上で「そうせざるを得ない」生き方をしていたのです。でも、もうこれからは、二人にはそんな生き方はさせません。二人は僕の物です。大事な二人をこれ以上汚させたりなんかしませんから。
ですが一先ず。今は何よりもプリシラを優先です。こうしている間にも、プリシラの身に危険が迫っているかもしれません。
頭の中に話しかけてこないので、何かの力で遮断されているようです。北にある山も麓までなら頭の中の「繋がり」は届く筈ですし。流石に山の上とかになると解らないですけど。
ようやく向こうの世界から戻ってきたレイシアも加わり、今後について皆で話を詰めます。
プリシラ奪還の為、直ぐに行動へと移す為に。そして、「人間をやめた」公子を「あるべき場所へと還す」為に。




