第一節 巨砲の復権-04
【訂正】本文始めの「午前十二時三十分」を「午前十一時三十分」に訂正しました。混乱させて申し訳ありません。
十二月八日 午後十一時三十分 ハワイ北東沖合
戦場全景
旭日を模った軍艦旗と星の紋章を持つ翼が荒れる大洋で邂逅を果たしたことは無線電信を伝って西方へ進む米国太平洋艦隊旗艦【サウスダコタ】の艦橋に大きな衝撃をもたらした。当初、太平洋艦隊司令部の幕僚達は飛行艇乗りの報告を戦場でありがちなヒューマンエラー、つまり誤認だと決めつけた。彼らはハワイ沖合を東へ向かう艨艟を第八任務部隊――海兵隊向け戦闘機輸送任務を終え、ハワイへ帰途についているはずのウィリアム・ハルゼー中将率いる【エンタープライズ】とその護衛艦艇に違いないと考えていた。もちろん、空母を基幹とする第八任務部隊がそんな悪天候な海域を東へ進む合理的な理由を誰も答えられなかったのだが。
水平飛行を続けるのも困難な程の吹き荒ぶ強風の中で正体不明艦隊の追尾を続けていた[カタリナ]飛行艇に太平洋艦隊旗艦から誤認を示唆する電文が届けられたのは彼らが接敵してからしばらく時間が経った後だった。眼下に広がる現実とあまりにも剥離した旗艦からの指示に飛行艇乗りは憤慨しながら、より詳細な情報を得るために危険を覚悟の上でその機体を降下させ、明らかに大口径砲を主兵装とする大型艦艇の上空を飛び抜けてみせた。乗員全員が眼下のそれがまやかしではないことを確かめた後に、彼らは幅広な艦影を持つ敵戦艦の詳細な見た目を文字に起こし、多少の怒気を電文に含ませて空に放った。
――付近ニ空母ノ姿ミエズ エンタープライズハ戦艦ナリヤ?
飛行艇乗りの叫びに今度こそ太平洋艦隊司令部は恐慌状態に陥った。続けて彼らは頭上に疑問符を浮かべる。太平洋艦隊の根城――当然のことながら強力な要塞砲を背後に構えた波止場の目と鼻の先に現れた日本水上打撃部隊、それも豪勢なことに未確認の新造戦艦を惜しげも無く四隻も投入した作戦意義にアナポリス出身の誰もがその意図を測りかねた。オアフ島に艦砲射撃するつもりなのか、それとも日本人がろくに海図すら読めない無能集団なのか。まさか、こちらと一戦交えるつもりなのか。どの考えも合理的とはいえない答えだった。
しかしながら、そこに交戦状態にある敵性海上勢力が存在しているという事実だけで十分だった。キンメルは直ちに砲雷撃戦による敵艦隊の撃滅を決断。キンメルが直率する【サウスダコタ級】姉妹を六隻揃えた主力艦隊は邀撃のため前進を開始、また主力艦隊と同様に空襲から難を逃れていたレイモンド・スプルーアンス少将率いる【レキシントン級巡洋戦艦】六隻は挟撃のため日本艦隊後方に回りこむ航路を進み始めた。同様に、真珠湾に残存していた戦闘可能な艦艇にも出撃命令が下っている。
午前十一時五十分には索敵第二波として空母【飛龍】を発艦した[九七式艦攻]の一機がキンメル艦隊と接触。この機は悪天候のために一航艦が南方転進した都合で進出限界線上における接触であったから短時間のうちに離脱することになるが、僅かな間に艦隊決戦を起こしうる必要最低限の情報が発信されたことは、日本軍機が発信した電文――平文だった……を傍受し、また継続して日本艦隊と接触していた[カタリナ]が日本艦隊の転進を報告したことから容易に推測できるところだった。午後十二時十分には[カタリナ]が天候悪化のさらなる悪化と燃料欠乏を理由として離脱していったが、それは決戦の発生にさしたる影響を与えなかった。既に両者は惹かれ合うように北太平洋のある一点へと導かれていた。
午後十二時三十分、冷たい驟雨が北太平洋に降り注ぐ全てが鈍色の空間で日米の戦乙女は遭逢を果たした。一万トン以下の小艦艇と航空機の参入を拒む稀有な戦闘海域は戦艦という眷属が全てを決する空間を作り上げていた。
――大東亜戦争初の艦隊決戦であり、後の世に言う日本側呼称、第一次ハワイ沖海戦(米国側呼称、オアフ島沖海戦)はこうして幕を開けた。
今回は少し短くなってしまったので、もう1話投稿いたします。




