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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
4章 選ばれし騎士と魔術師の子孫
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 中央広場への道が開かれた瞬間、キリュウがレイピアを抜き、「ムーセシステム」と呟きながら、剣先を指でなぞった。剣先が透明な膜に包まれる。中央塔の刻印が彫りこまれたマントの留め金を片手で外すと、真横にいる影時達の方へ蒼いマントを投げた。浮遊石が処理されたマントは、空気抵抗がなく、サァっと影時の方向へ流れる。続けてレイピアも影時の頭のちょうど真上の壁に向けて鋭く投げると、ビィィィンという金属音と共に、マントごと壁に突き刺さった。影時達はマントに覆われ、一瞬視界を失う。


「キリュウっ!」


 続けてトアリーが、自分のレイピアをキリュウに投げた。それを受け取ると、先ほどと同様、剣先をなぞって、先端を強化し、中央広場の真下にある場所へと繋がる入口の側壁へと風を切るようにレイピアを投げ、突き刺し、そのまま通り抜けられないように塞いだ。

 そして、キリュウは歩み寄りながら、トアリーと影時達の位置を確認した。手を広げたあと、影時達がだけが入る位置までくると、手で囲み、透明なキューブを出現させ、2人を閉じ込めた。


「捕獲完了」


 キリュウが、そう言うと、覆われたマントから顔を出した恋歌が驚愕の表情を浮かべた。


「……霧生君? なんでここに? ……その服、霧生君も『選ばれし騎士』?」


 キューブの中にいるせいか、恋歌の声がくぐもって聞こえる。


「そんなバカな……、選ばれし騎士は1人しかいないハズだ」


 覆われていたマントから出た影時が、恋歌の疑問に答えながら、キリュウを睨みつけた。


「……調査官だな? こんな子供に任せるほど調査官は人材不足とはな」


 悔し紛れに放たれた影時の言葉に、キリュウはカチンとくる。あからさまに不機嫌な表情をキリュウは浮かべたが、すぐにニヤリと笑う。


「……いや、調査官じゃねーよ、ただのアルバイト」


「な! ……なんだとぉ?」


 影時の表情がさらに歪む。


「キリュウ……煽るな」


 トアリーが呆れながらキリュウに忠告を入れた。


「もしかして、永久がさっき言ってた『選ばれし騎士』じゃないけど、一緒にこの国から出て行ったっていうのは……霧生君のことなの?」


 恋歌の問いに、永久がニッコリ微笑みながら頷いた。


「とんだ番狂わせだな、乃木霧生」


 影時の表情は険しいままで、キリュウを見つめている。


「そう? とりあえず、あっちで怖いお姉さんが待ってるから、がんばれ」


 キリュウは、笑顔でそう言うと、手をヒラヒラさせ、もう片方の手で右へすばやくスライドさせた。シュンッという音と共に、影時達の入っていたキューブが消えた。すると、キリュウのサークルピアスが振動した。カチッとスライドさせ、返事をすると、堀田の声が聞こえた。


『お疲れ様、こちらで確認したわ』


「こっちは、どうすればいい?」


『修復作業に入るから、しばらくそこに待機しててくれる?』


「了解、どのくらいで修復できそう?」


『うーん、必死にやって3日はかかるかしら……』


「3日か、ちょうど試験休みが終わる頃だね」


『そうね、じゃあこっちは忙しいから、永久ちゃんのことよろしくね!』


 堀田からトアリーのことを言われて、ハッとした。


「あっ! 堀田さん?」


 こういうときになんて声をかければいいか助言をもらおうと思ったが、既に堀田からの通信が終わっていた。

 キリュウは、トアリーを見た。目が合うが、何も言えなかった。


「キリュウ、戻ろう?」


 トアリーは、優しくキリュウに笑って、そう言った。

 地下道からラドルの店に戻る間、キリュウ達は無言だった。さきほどの笑顔を浮かべたトアリーに、どう声をかければいいか悩む。無理してるんだろうな、と思いながら、トアリーの手のひらにある青く光るサフィルスの羽を見つめていた。


「キリュウ、……ありがとう」


 突然、トアリーがポソリと呟いた。


「あぁ、うん……。その……、大丈夫?」


 キリュウが、トアリーの手から視線を上げ、トアリーを見た。


「大丈夫……なのかな? ……わからない。まだ実感が湧かないんだ。恋歌がホワイトレイクに来るなんて……夢を見てたって言われたら納得しちゃいそう。たぶん、ホワイトレイクにいる間は、こんな気持ちのままかも」


 トアリーは、手のひらにあるサフィルスの羽を見つめたまま、傷ついた感情を押し込めた様子でそっと微笑んだ。試験休み明けに学校に行ったときに、実感して、また泣くんだろうな、とキリュウは、トアリーを見ながら、そう思う。親しい友人が、自分が生まれ育った愛している場所を、根こそぎ壊そうとしたのだから。


「……やっぱり、今更だけど、私が間違ってたのかな?」


 トアリーが、立ち止まった。瞳から、涙がまた流れ落ちる。


「なんで? 間違ってないよ。そもそも貝野原さん達が言う『自由』なんて、本当に自由だなんて言えないんだから」


 キリュウの言葉に、トアリーは、えっ?、と呟いてキリュウの顔をまじまじと見つめた。キリュウは、トアリーを見て、思わず笑い、制服から中央塔の印の入った白いハンカチを出し、鼻水出てる、とトアリーに差し出した。


「……ありがとう」


 トアリーは、サフィルスの羽をキリュウに渡すとハンカチを受け取り、顔にハンカチをあてて俯いた。


「結局……『自由』ってさ、そのヒトがそう感じているかどうかなんじゃないかな。それぞれの国によって、やっぱりそれなりに『決まりごと』がある。ヒトが集まれば尚更ルールは増えるし。ホワイトレイクだけじゃなく、他のどの国でも、『自分の国は自由だ』と思うヒトもいれば、『自由がない、窮屈だ』と感じるヒトも必ずいるから」


 トアリーは俯いたままだが、キリュウは構わず話す。


「そういう人たちは、自分に合った国を探し出して、その国を出て行ったりして、自分でちゃんとなんらかの行動をしてる。少なくとも自分の国があって帰る場所もあるのに、自分の理想と違う他の国が存在するのが許せないってだけで、その国を愛する人たちの生活をメチャクチャにする方が間違ってる」


 トアリーは、無言で泣きながら頷いた。そして、キリュウが側にいてくれて良かった……、と呟いた。

 トアリーが落ち着くまで、少し時間を要したが、泣き止んだトアリーは、なんだかスッキリした様子だったので、キリュウはホッとした。


「キリュウは……やっぱり『ホワイトレイク』より『トラニーヒル』の方が住みたい?」


 トアリーは、ふと思ったことを何気なしにキリュウに聞いた。


「……それをオレに聞く?」


 キリュウから予想と異なる言葉を聞き、トアリーが首を傾げた。


「……あぁ、そっか。やっぱりトラニーヒルがいいよね? キリュウなら、どこでも住めそうだから……聞いてみたんだ。」


 トアリーがフフッと笑ったが、キリュウは盛大なため息をついて、それを否定した。


「あれ……? 違う?」


「うん、まぁ……どこに行っても住めそうというのは合ってるかな。でも、できれば……マスターがいるところがいい」


 キリュウから放たれた変化球は時間差でトアリーに届いたようで、ワンテンポ遅れでトアリーの顔が赤面していく。耳まで赤い。そんなトアリーの反応を見て、自分を意識してくれたことを感じとり、安心する。


「そろそろ、行こうか?」


 キリュウが聞くと、トアリーも無言で頷く。



 ―――ワザと言ったのは意地悪だったかもなぁ、……でも、弟ポジションには戻りたくないから、時々牽制しとかないとな。



 開き直ったせいで、キリュウは、そういうことを考えられるほど、少し余裕が出てきた。


*****


 キリュウ達が店に戻ると、ラドルは、思ったより早かったな、と驚いた様子だった。侵入者は隔離したこと、アドホックピアスが使えるようになるのは3日後ぐらいになることや、またその時にこの通り道を使うことになりそうだということを伝え、ラドルの店を後にした。

 ラドルは、『はじまりのパトロナス』が地下道への入口を完全に閉じるまで、工房で待機するらしい。

 中央塔に入ると、次々と他のパトロナスや騎士達とすれ違う度に視線を感じた。フレイリアの研究部屋に入ると、フレイリアとロイがキリュウを凝視したあと、ロイが頭を抱えた。


「キリュウ……、着用義務のマントと留め(フィブラ)は?」


「あー……、地下道でやむ終えず別のことに使って、そのままどっかにいっちゃいました」


 フレイリアの問いに、悪気なくキリュウが答えた。本当は、影時達を転送した際、マントも一緒に転送してしまった。回収できたのは、レイピアだけだった。


「どうせボロボロにして、どっかに放り込んできたんだろ? キリュウ、逃げるなよ? もうすぐ、パトロナス カルラが怒鳴り込みに来るから」


 ロイが嫌な予言をする。キリュウが、ひきつった笑顔で、まさか……、と言ってると、部屋の扉がノックされた。


「マスター キリュウ!!」


 ロイの予言通りに、前任者のカルラが険しい顔で部屋に入ってきた。迫力に圧され、キリュウは、思わずトアリーの後ろへと引こうとした。が、ロイに肩を掴まれ、阻止された。


「おいっ!?」


 キリュウが、小声でロイに抗議するが、逃がすかよ、とロイに返された。


「あー、えーっと、お久し振りです」


 とりあえず、キリュウが挨拶するが、一向にカルラの表情が和らがない。


「マスター キリュウ……、まったくいつもどうしてこんなに問題を起こすのですか……本来、選ばれし騎士は白い部屋から戻ることはないのに、一体どうやって来たのですか! ?いえ、何も言わないでください……そのことは敢えて確認はしたくないです。聞くのが恐ろしい……」


 30分ほど、コッテリ説教された。今までのキリュウの行いを見て、フレイリアの注意換気だけでは足りないとパトロナス達は判断したようで、取りまとめ役のカルラは、キリュウが中央塔に戻るのを待っていたらしい。カルラは、あとでマントと留め(フィブラ)を届ける、と言って、フレイリアの研究部屋から出ていった。


*****


「それにしても……今朝、ここに来たときは、身分確認とかされたのに、制服着たら、すぐに存在を把握されるとかって……。認識されやすさに差が有りすぎる」


 キリュウは、腑に落ちないとばかりに複雑な心境で文句を言いながら、4人分のティーセットにハーブティーを注いでいく。注がれたハーブティーのカップソーサーをロイが受け取りながら、言った。


「まぁなー、それは仕方ないんじゃないか? 普通の格好や学院の制服じゃパッとしなかったのに、中央塔の制服だと只者じゃないオーラが出てるから、すぐにキリュウだって分かる」


「そうですね、私もここまで雰囲気が変わるとは思いませんでした」


 フレイリアもロイの意見に同意しつつ、ロイがテーブルに置いてくれたハーブティーを手にした。


「えぇ、そうですね。キリュウがいつもより格好いいので私も驚きました」


「トアリー、それは気のせいで、目の錯覚です。すぐに目を冷ましてください」


 フレイリアが、間髪入れず、トアリーの意見を全否定した。

 そんなやりとりをしつつ、4人は、今後の打ち合わせに入った。


*****


「……では、トアリーとキリュウがここに居られるのは、あと3日ぐらいなのですね?」


「「はい」」


「わかりました。では、キリュウは、これから試作品の実験の手伝いをお願いします。いい機会なので、3日後に魔法陣の作り直しをします」


「えぇぇっ!? ……それって、この間、手紙に書いてあった強制劣化試験がやっと終わったっていうサンプルのことですよね? 随分と強硬スケジュールのような気がするけど……」


 フレイリアの決断に、キリュウが青ざめる。


「キリュウ、頑張れ……」


 ロイは、諦めろと言外に言っている言い方で励ました。


「マジか……」


 キリュウがガックリと項垂れた。

 こうして、3日間、フレイリアの鬼のような実験スケジュールに付き合うことが決定した。

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