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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
3章 迷い人の探し方
24/60

24 ブルーロックチームの修羅場

 昼食後、ダイニングキッチンで3人がまったりとハーブティーを飲んでいると玄関の方で物音が聞こえた。


「なんだ?」


 キリュウがドアを開けると、そこに妖精ルナエアリがいた。


「キリュウ! さきほど『サフィルスを外で見た』という話を聞いたのですが、本当ですか?」


「あぁ、サフィルスならそこにいるよ?」


 キリュウがダイニングでくつろいでるサフィルスに目線を送った。すると、妖精ルナエアリがキリュウの側をサッと通りすぎ、妖精サフィルスが置いたティーカップの取っ手の上に座った。


「サフィルス、久しぶりです! 無事で良かったです。変な機械に閉じ込められてしまって、もうずっと出られないんだと諦めてました……」


 どうやら妖精達は、コールドスリープの操作がわからなかったため、見守るしかなかったようだった。


「心配させてしまったのね、すみませんでした。……ところで、他のみんなの様子はどうですか?」


「昨日まで『怖くないから』と説得したけど、全然みんな聞いてくれなくて……でも、今日キリュウ達がサフィルスと一緒に歩いているのを見たので、そろそろ、みんな出てくると思います」


「そうですか、ではもう少し休憩したら、キリュウ達と一緒に外に出ましょう。せっかくだからルナエアリも一緒にお茶を飲みませんか?」


「はい! ぜひ!! お茶会、久しぶりです。」


 妖精ルナエアリが嬉しそうにティーカップの回りを飛んで1周した後、空いてる席のテーブルの上に座った。


「ルナエアリのティーカップって、どこにある……?」


 キリュウが聞くと妖精サフィルスが立ち上がり、


「妖精達のティーカップは、私の部屋にあるので、取りに行きます。キリュウは、座ってお茶を楽しんで」と言って、ドアへ向かった。

 その間、キリュウ達はお互いに別れた後の情報交換をした。かなり、妖精ルナエアリは説得に時間を費やしてくれたようだった。だが、やはり妖精ルナエアリの説得だけではどうにもできなかったようだった。


「そういえば、こういうお茶会って、ドクターがいた頃は結構やってたのか?」


「はい、かなりやってたみたいです。大抵この時間になると、誰かしらここに出入りしてたから。ドクターは、仕事の合間に来ては、お茶を飲んで妖精達と話してみんなの様子を把握してました。ドクターは、このお茶会以外の時間は、だいたい書斎にこもってましたね」


「えーっと……もしかして、ドクターも書斎に引きこもってた?」


「はい」


 妖精ルナエアリは、そう短くシンプルに返事をすると、さっきから気になってそわそわしている様子で、チラチラと焼き菓子がのっている三段のケーキスタンドを見ている。


「ルナエアリもどうぞ」


 トアリーが気づいて、ニッコリ笑いながら、妖精ルナエアリに勧めると、ありがとう!と、素早くケーキスタンドの周りを飛んで熱心にどの菓子にするか選び始めた。



 ―――妖精サフィルスだけでなく、ドクターも引きこもりとは……一緒に暮らしていたせいなのか?



 キリュウはぶつぶつ言っていると、トアリーが気がついたように横に座っているキリュウに近づき、キリュウの耳元にささやいた。


「キリュウは、ドクターの行方を追っているのか? ブルーロックチームの行方不明者と関係あるとか?」


「あぁ、たぶんね。サフィルスの話から、ドクターはおそらく半年前からいない。オレは……行方不明者と関係あると思ってる」


 キリュウが頷き、妖精ルナエアリに聞こえないように小声で答えた。


「では、ドクターがいなくなった日の状況をもう少し詳しく聞きたいな……」


 トアリーが腕を組み、考え込んだ。


「ルナエアリの話だと、家から出てないみたいだけど? 他の妖精にも確認したいとこだね。」


 キリュウがティーカップを持ち上げ、飲み干したところで、妖精サフィルスが小さなティーカップセットを持って部屋に戻ってきた。ドクターに関しての情報はこれ以上聞けることはない、とキリュウは判断し、4人でしばらくお茶会を楽しんだのだった。



*****


 妖精サフィルスが半年ぶりに玄関のドアに手をかけた。目を閉じて、静かに深呼吸をした。


「サフィルス……具合が悪いのですか?」


 妖精サフィルスの肩にのっていた妖精ルナエアリが、妖精サフィルスの顔を覗き込んだ。


「いえ、大丈夫です。少し……、ドアを開けるのに勇気がいるのです。みんなは受け入れてくれるのかな、とか」


 妖精サフィルスは、困ったような気弱な笑顔を浮かべた。


「みんな……サフィルスを待ってますよ」


 妖精ルナエアリがおでこに軽くキスをした。妖精サフィルスは笑顔になり、頷いた。そして、ドアをそっと恐る恐る開けたのだった。



*****



 家のドアの外には、妖精達がたくさんいた。


「サフィルス!」


 小さな妖精達がサフィルスの周りに集まってきた。その光景に、トアリーは目を丸くして、見つめた。色とりどりの煌く羽が鮮やかで綺麗だ。キリュウは、後ろからトアリーの肩をたたき、サフィルスに続いて家の外に出るよう合図を送った。


「みなさん、お久しぶりです。実は……みなさんに紹介したい方達がいます。私を眠りから目覚めさせてくれたトアリーとキリュウです」


 サフィルスの紹介で、トアリーがホワイトレイクのナイトの形式で挨拶をした。このタイミングで紹介されるとは思わず、咄嗟にキリュウも慌ててトアリーにならって同じように挨拶をした。


「不審者だと思っていました。失礼いたしました。サフィルスをあの機械から出してくださったのですね。私達にはどうすることもできなかったので……ありがとうざいます」


 炎のような赤毛をもち、ルビーのような煌きの羽をもつ妖精がキリュウ達に謝罪し、お礼を言った。キリュウとトアリーは顔を見合わせ、気まずそうにお互い肩をすくめた。そして、キリュウは困った顔をしながらお礼を言ってくれた妖精の方を向いた。


「いや、こちらも非があるので、そのことについては何も言えない。それにサフィルスのことは、自分達ができることをしただけだから……。ところで、聞きたいことがあるんだけど」


 すかさず、キリュウはこのチャンスを逃さないように聞き込みに入った。


「なんでしょうか?」


「半年ぐらい前からドクターがいなくなったと聞いたんだけど、そのときの状況について詳しく聞きたい。サフィルスがドクターに会いたいそうだ」


 妖精たちを不安にさせても仕方ないので、それらしい理由をつけてドクターの捜索を行う。ブルーロックチームのメンバーが次々行方不明になっていることは黙っておいた。


「ドクターですか? ……そうですね、そういえば見かけないです。普段から家の外に滅多に出ないので、気がつきませんでした。家の外に出れば目立ちますので、わかります。半年前……というより、それ以上前からずっと外には出ていないですよ?」


 他の妖精たちに目を向けると、一斉に首を縦に頷いた。


「確かドクターは『日に当たると溶ける』とか言ってましたねぇ」



 ―――うん、それはどう考えても『日に当たってはいけない体質』というわけではないよな?普通に外出できてたみたいだし……


 キリュウは心の中でこっそりとツッコミを入れた。一方、トアリーは困惑した表情だ。おそらく家の外に出ていないのに、いなくなったということで考え込んでしまっているようだ。


「そっか、教えてくれてありがとう。助かったよ。他に何か気づいたことがあったら教えてくれないか?」


「そうですねぇ……変わったことと言ったら、湖に誰も乗ってない舟が漂っていることが多くなりました。おそらく弛く固定されてた舟が舟屋から出てきてしまったんだと思いますが……。たまにそういうことがあるので」


 キリュウはその話を聞き、お礼を言って聞き取りを終えようとしたところ、トアリーに腕を掴まれた。


「なに?」


「まだ、ドクターのいなくなったときの状況を詳しく聞いてないじゃないか……何も手がかりがない」


 トアリーは小声で不思議そうにしているキリュウの耳元でささやいた。


「いや、十分だろ。ドクターは、半年よりもっと前から家の外に出ていない。だから、家の中を確認した方がいい」


 キリュウはそう答えると、サフィルスに声をかけ、手がかりを掴めたことと、家に戻るようジェスチャーで合図した。


「みなさん、夕方になって涼しくなるので、今日はこれで」


 サフィルスが妖精たちにそう告げると、「サフィルス、おやすみ」と各々そう言いながら妖精たちは次々と飛び立ち、自分の居場所に戻っていった。



*****



「キリュウ、家の中を探すってどこを……」


 ずんずんと早足で歩くキリュウの後ろを追いかけながら、トアリーが聞いた。


「怪しいのは、書斎かサフィルスの部屋だ。まずは書斎だな」


 キリュウは書斎に入ると、マガホニーの机のところでしゃがみこみ、真下の床をトントンと叩き始めた。一通り、叩くと音が違う場所があった。次に、机の周りにある本を順にどかし始める。床の板が他の板と異なる色をした正方形が現れた。


「もしかして……これが隠し部屋への入口?」


 トアリーが感心したようにつぶやいた。


「うん、たぶんね。隠し部屋への入口としては、ベタすぎるけどね。さて、問題は……スイッチだけど」


 キリュウはそう言いながら、マガホニーの机の引き出しを力を入れて思いっきり引っ張り、机の下に潜り込んだ。引き出しで隠れていた部分にボタンがあり、カチとボタンを押すと、小さなモニターが出てきた。パスワードを問う画面が表示されている。


「サフィルス、そこにいる?」


「はい、います……」


 キリュウが机の下に潜り込んだまま、妖精サフィルスの存在を確認する。



 ―――今までの話を総合すると……たしか、ドクターはかなりサフィルスに思い入れがあるみたいだ。一緒に暮らしていたんだから、もしかしたらサフィルスにパスワードとなるヒントぐらい教えてるかもしれない。



 キリュウは淡い期待をかけ、妖精サフィルスに聞いてみた。

「サフィルス、ドクターの好きな数字とか言葉とか……知らないか?」


「好きな数字ですか?私が生まれた日とかなら……」


「いや、普通、常識から考えて、そういう単純なのはパスワードにしない。」


 と、妖精サフィルスの言葉をキリュウは否定したのだが……



*****



 ―――1時間後、


「ウソだ……これだけはパスワードにしないと思ってたのにっ!誕生日なんて一番パスワードにしちゃいけないだろっ!!」


 キリュウはゲッソリとしながら、地下へと繋がる入口の前でいじけていた。


「キリュウ……落ち込んでないで、早く来てくれ」


 トアリーが迷惑そうに地下への入口から顔を出して、キリュウを呼んだのだった。


*****


 キリュウとトアリーと妖精サフィルスの3人は、書斎から螺旋階段を下り、古びた木製の扉の前まできた。キリュウは、扉に耳をあてたが何も聞こえない。2重扉になっているようだ。

 キリュウが金具を静かに音を立てないよう、慎重に横にスライドさせ、扉を押すとゆっくり開いた。すると今度は透明なガラスの扉が現れた。地下室の中が丸見えだ。

 ガラスの扉の向こうには、忙しなく何人ものヒトが手にファイルや試薬が入っていると思われるチューブなどを持って行き来している。なんとも入りづらい雰囲気だ。後ろを振り向くと、トアリーと妖精サフィルスも扉の向こうの様子を見つめて困惑している。


「キリュウ……どうする? 入るにはためらわれる」


「確かに……」


 トアリーの言葉に頷き、もう一度ガラスの向こうを眺めた。行き交うヒト達の表情がみんな険しく必死な感じだ。



 ―――この状況……修羅場?



 すごい既視感を覚える。1年前からつい最近まで、キリュウは、まさにこの状況を経験した。科学技術特区である『魔法の国ホワイトレイク』でいつの間にか巻き込まれてフレイリアの研究の手伝いをしていたことがあった。研究成果をまとめた本を執筆したり、研究部屋の引っ越しで操作手順を間違えるとお亡くなりになる機械を止めたり、サンプル整理などの雑用で走り回ってたことが思い出された。

 キリュウが遠い目をしてると、ガラス扉の向こうで1人の中年の男がキリュウ達に気づき、立ち止まった。そして、辺りを素早く確認し、足早にこちらに向かってきた。その男は、ガラス扉の向こうの壁に埋め込まれたモニター画面を素早く操作し、ガラス扉を開けた。


「サフィルス、なぜここに!? 君は家にずっといるはずじゃ……?」


 男はガラス扉が閉まった途端、焦ったように妖精サフィルスに問いかけた。


「トダガワさん……すみません。こんなに長い間、ドクターと離れるのは初めてなので、少しだけ会わせてもらえませんか?」


 妖精サフィルスが懇願した。だが、トダガワと呼ばれた男は、首を横に振った。


「3人とも……他のヒト、特にドクターに見つかるとマズイ。こっちに来てくれ」


 トダガワが、3人を木製の扉の外に出るよう促した。そして、木製の扉を静かにゆっくり閉めると、改めてキリュウ達3人を順に見て言った。


「ここまで来てもらって悪いが、ドクターに会わせられないんだ。今、見ての通り君達にかまってられない状況だ」


「一体、何が起こってるんですか? 見た感じだと、まるで引っ越し作業と研究のまとめ作業を同時進行でやってるみたいだけど……」


 キリュウが直感的に感じたことをそのまま口にした。すると、トダガワは驚いた様子で目を丸くし、それからフッと笑った。


「君の言う通りだ。……もしかして、君はホワイトレイクチームの秘蔵っ子だな?」


「へっ?」


 トダガワの言葉にキリュウはポカンとした。


乃木(のぎ)霧生(きりゅう)くん、だよね?」


「……そうだけど、なんで名前を?」


「やっぱりそうか……。君は研究所内では有名だからね。我々も本人も知らぬ間に小さい頃から英才教育された特別臨時職員(アルバイト)だって」


「オレが……有名?」


 キリュウの言葉にトダガワが頷いた。


「定期報告会でホワイトレイクに君を送り込んだことが問題になって、堀田さんがお偉いさん方を論破して蹴散らしたんだ。あれはなかなか見物だったよ」


 トダガワがそう言って、ククッと思い出し笑いをした。それを聞いて、キリュウは頭を抱えた。


「あぁ……堀田さんならやりそうだ……その様子が目に浮かぶ」


「だろ? しかも君は想定以上の成果を挙げて帰ってきたもんだから、きっとそのうち堀田さんが特別採用枠に君をねじ込んでくると思うぞ?」



 ―――なんか、今変なこと言われたような?



「既にテスト採用期間に入ってるだろ? ここに派遣されてきてんだから」


 淡々と言われた言葉を頭の中で整理しながら、キリュウは愕然とした。


「……そういうことかっ!! やられた……」


 堀田に目をつけられた時点でキリュウの職業選択の自由はなくなったも同然だった。気づいたときには、しっかりと外堀から埋められている。ため息をついたキリュウを見て、トダガワは、気付いてなかったのか、と苦笑いした。


「しかし……君達には悪いことをした。研究所に連絡入れなかったばっかりにここまで来てもらうことになって。おそらくウチのチームが協力要請したんだろ?」


 キリュウとトアリーの2人が頷いた。


「実は……ドクターが突然『もう150年も生きて飽きたから、死ぬことに決めた』と言い出したんだ」


「150年!?」


 トアリーが目を丸くして聞き返し、妖精サフィルスは、青ざめ、息を飲み込み、口元を手で押さえた。


「正確に言うと、延命処置をしないで自然に身体を老化させる……ということだな。それで、延命処置された身体の老化スピードがどのくらいか不明だから、得たいの知れないサンプル整理や、芸術的で解読不明なメモ書きを文書化したり……こっちは必死だ」


 トダガワがウンザリしたようにキリュウに愚痴をこぼした。


「あれ? でも、定期的に調査が入ってるんじゃ?」


「ドクターは面倒なことは一切やらないから口頭による報告だけだ。ハッキリ言って調査官泣かせだよ……」


 ―――うわぁ……そこまで何もしないのか。実験だけして記録を残さないとか、後世に研究内容を残す気ゼロだな。


「しかも……ドクターに聞き取りで長時間拘束すると大抵不機嫌になるから、世間話にサフィルスの話を出したんだ。そうしたら、『家に帰ってのんびり閉じ籠りたいなぁ。』っていうもんだから、サフィルスの話はそれ以来、禁句になった。もし、今サフィルスと会ったら間違いなくドクターは家に帰ってしまって、今までの貴重な実験結果は全く無くなることと等しい状態になる。頼むから、ここは一端サフィルスを連れて家に戻ってくれないか? サフィルスも、申し訳ないが、頼む!」


 こちらがドクターとの面会を希望しても厳しそうだ。キリュウとトアリーは、顔を見合わせた。しばらく無言が続き、キリュウが妖精サフィルスを見ると、辛そうな表情をしている。



 ―――どうするか……、トダガワさんの言うこともわかるが、サフィルスの気持ちも限界っぽいからな。見てて痛々しいし……。

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