23 妖精サフィルスの羽
「ここでいいのか?」
キリュウが滝つぼの付近で立ち止まり、振り返って妖精サフィルスを見た。
「はい……」
「で、何を手伝えばいいんだ?」
「ここから青い石だけを集めてください。」
「この膨大な石から青い石だけをっ!?」
キリュウが色とりどりの石を見回した。
「しかも青い石は……少なさそうだ」
トアリーも見回して困った表情になった。
「はい、他の色より少ないです」
「他の色じゃダメなのか?」
「……はい。色が混ざると羽根の色が七色になってしまうのです。私の羽根の色は、ずっと青色にしていたので、死ぬまで青色の羽根でいたいのです」
「……キリュウ、探そう。協力すると言ったのはキリュウだ」
トアリーと妖精サフィルスが青い石を探し始めた。
「まじか……時間かかるな」
キリュウも諦め、探し始めた。そんなキリュウの態度を見て、妖精サフィルスがクスクスと笑った。
「……ドクターもキリュウと同じことを言ってました。『サフィルスは、瞳と同じ色の羽根が似合う』とか言ってたのに、青い石を探すことになったら、とても面倒そうに難しい顔をして私と一緒に石を探してくれたんです」
「そのときは、どのくらい集めたの?」
「そうですねぇ……、私は少量で大丈夫なので、50個ぐらいだったような……」
「ってことは、ひとりノルマ17個だな」
キリュウが計算し、目標値を設定する。
「わかった」
トアリーは頷くと、少し離れた場所へ探しに行った。
*****
キリュウは、掘り出した青い石を横に積んでいった。あと1個見つかればノルマ達成だ。2人がどれだけ集めたのかも気になる。
―――それにしても……まさか、ここまで来て石集めをするとは思わなかったなぁ。こんなことするの何年ぶりだろ?
あぐらの状態で座ったまま石を選り分け、そんなことを思っていると、後ろからトアリーに声をかけられた。
「キリュウ、どうだ?」
「あぁ、こっちはラスト1個で終わりだ。マスター トアリーは集まった?」
「私の方は、集まった」
「じゃあ、あとはサフィルスがどれだけ集めたか、だな」
「キリュウ! トアリー!集まりましたか?」
「集まったよ。そっちは?」
「はい! 集まりました。ありがとうございます。それでは、精製するので水車小屋に行きましょう!」
「わかった」
妖精サフィルスの言葉に2人が頷いた。
*****
水車小屋には粉末化するための機械と、遠心力によって大まかに不純物を分離する機械、蒸留する装置があった。石を入れると自動的に全ての工程を経て液体状になるらしい。それを羽根につけて自然乾燥させるのだ、と妖精サフィルスが教えてくれた。
『鱗粉のもと』ができるまで、しばらく待つことになった。
「この石って……なんで滝つぼの周りにだけあんなにあったんだ? サフィルスは何故か知ってる?」
「私が聞いた話しでは……たしか、昔、ドクターが浮遊力の研究をしてたときに作ったもので、純度が低いものをあそこに捨てていたみたいです。まさか、妖精達の鱗粉として役に立つとは思わなかったようですが……」
「……それって、ちゃんと廃棄物を処理せずポンポンそのへんに捨ててしまってたってことか!」
つまり、ゴミをちらかし放題していたのである。キリュウは頭を抱えた。
―――妖精しかいないからって……ドクターって、かなりの自由人なのか?
******
キラキラと煌めく青い液体が入ったビンを手にした妖精サフィルスは、水車小屋から外に出た。キリュウ達も、その後ろについていった。しばらく歩いて着いた場所は、妖精サフィルスの家だった。
「あれ?……羽根に浮遊石を処理するんじゃなかったのか?」
家の扉に手をかけた妖精サフィルスにキリュウが聞いた。
「私の場合は、家のお風呂を使うんです。トアリー、申し訳ないのですが、手伝ってもらえますか?」
どうやら小さな妖精達は水車小屋の設備で羽根に浮遊石を処理できるが、妖精サフィルスの場合、身体が大きく、羽根もそれなりに面積があるため、風呂の湯に先程作った浮遊石の抽出液を加えて混ぜ、湯桶で羽根にかけるという方法を行うらしい。引きこもる前までは、妖精ルナエアリ達が手伝ってくれたが、今はキリュウのせいで、妖精達が隠れてしまい、頼めない。
「わかった。では、早速準備しよう。」
妖精サフィルスの頼みにトアリーが快く頷いた。
「オレは手伝えないから……昼飯でも作っとくか。簡単なのしか作れないけど、何が食べたい?」
「!!……では、前にキリュウが作ってくれた……具がたくさんあって、たまご味の炒めたごはんがもう一度食べたい!」
トアリーが目をキラキラさせて嬉しそうに料理のリクエストをした。
「もしかして、チャーハンか?わかった。」
「あ!でも……あの緑色の苦いのは、入れないでほしい」
「却下」
「なぜっ!?あれのせいで、せっかく美味しい味のバランスが崩れる!」
「ピーマンは身体づくりに必要な栄養素が入ってるから。こっちの国でもあと2年で成人になるんだから好き嫌いするなよ。」
「うぅ……、あんな食べ物はホワイトレイクにはなかったんだ。」
「じゃあ、馴れろ」
「キリュウ……あの味は無理だ。馴れでどうにかできるもんではないと思う。それに、サフィルスも食べるのに!」
トアリーがどさくさに紛れ、妖精サフィルスを巻き込む。
―――が、
「……私、ピーマンは食べられますので大丈夫です。」
あっさり妖精サフィルスが放った一言で敢えなく撃沈した。
「ピーマンは下ごしらえして、苦味を減らしとく。」
キリュウは、そう言い残してキッチンに向かった。
*****
「キリュウ!申し訳ない!」
キリュウが具を刻んでいると、ダイニングキッチンのドアのあたりからトアリーの慌てた声が聞こえた。まだトアリーと妖精サフィルスが風呂場に入って、そんなに時間が経ってないので、何かあったのか?と思いつつ返事をしてドアを開けた。
―――!!!
ドアの前に立っているトアリーの姿を見て、キリュウが固まった。トアリーがタンクトップに短パンという格好だったからだ。すらりと伸びた足に水滴がついている。ナイトの制服よりもさらにピッタリとしていて、身体のラインがキレイにわかる。
「キリュウ?申し訳ないんだが、大きめのタオルが足りないんだ。」
「……わかったから、そういう格好でうろつかないでくれっ!探してるくるから風呂で待ってて!」
「ありがとう!頼む!」
トアリーはニッコリとお礼を言い、風呂場に行った。
*****
キリュウは深いため息をつきながら、大きめのバスタオルを2枚倉庫から探しだした。
―――ホント、勘弁してくれ……あいつ、絶対オレのこと弟みたいに思ってるよな?
キリュウが今まで経験したことから導きだした結論だ。従姉妹のお姉様方は、家族と認識している人達の前でのみ、ああいう格好でいるのをキリュウはよく知っている。夏に親戚の家に遊びに行ったとき、叔母さんがよく「霧生君もいるのに……」と、苦言を呈していたが、従姉妹の姉さん達もキリュウもお互い姉弟のような感覚でいたため、まったく気にしてなかった。
―――どうしてこうなった?
恋愛フラグを立てられず、失敗したことを悟ったキリュウは、再びため息をつき、風呂場のドアをノックした。
「マスター トアリー! バスタオル持ってきた。」
キリュウは中にいるトアリーに声をかけた。しばらくして、ガチャッとドアが開き、トアリーが顔を出した。
「ありがとう!」
トアリーはタオルを受け取ってお礼を言うと、キリュウが何か言いたげな様子だったのを無視し、ドアをバタンと閉めてしまった。
キリュウは仕方なく、またキッチンに戻り、料理を続けた。
*****
「サフィルス、待たせた。始めようか?」
トアリーの言葉に妖精サフィルスが頷き、ビンから青い液体を風呂の湯に入れた。そして、トアリーの助けを借りて、専用の服に着替えた妖精サフィルスがそのまま湯船に入った。湯桶を使い、トアリーがキラキラした薄い青い液体を掬って羽根に丁寧にかけると、サラサラと不思議な模様を描きながら液体が羽根の表面を流れた。
「すみませんでした。タオルを持ってきていただいてしまって……」
「いや、私ではなく、キリュウにお礼を言ってくれ。キリュウが探してくれたんだ。」
「そうなんですか?……キリュウとトアリーは……その、とても親しいのですね?」
「そう見える?」
「えぇ、羨ましいです……。まるで家族や長年付き合っている仲の良い恋人のようで、言いたいことをお互いに言えて……、何が言いたいかも言葉にしなくてもお互いにわかりあえてる感じで……私の理想の関係です。」
妖精サフィルスが遠い目をし、寂しそうな笑顔でトアリーの言葉に頷いた。
「キリュウは……気後れして決断を迷う場面でも、私の思いつかない方法で引っ張りあげてくれるんだ。今までずっとそうだった。たぶんこれからも。だから、側にいたいって思う。
ただ、今のところ、さっきサフィルスが言った家族とか恋人には当てはまらない。なんだかピンとこないんだ。友人というのも違う……言葉では言い表せないな。」
「そうですか……私もドクターとそうなりたかったです」
「過去形にしてしまうのは、まだ早すぎなんじゃないか?とにかくドクターとまずは会ってよく話すべきだな。羨ましがるのは、あとからいくらでもできる。」
トアリーの言葉に妖精サフィルスが目を丸くした。
「そうでした!……私も次にドクターに会ったら、言いたいこと言います。今度は遠慮しません!」
妖精サフィルスは深く頷き、固く決意した。
*****
――1時間後、
妖精サフィルスがキリュウ達の前で見事に青くキラキラと輝かせた羽根を広げて見せた。ナイトの服に再度着替えたトアリーがウットリと羽根を見つめている。キリュウは、良かったね、と笑顔でサラリとコメントしながら、テーブルに昼食のためのカトラリーをセットしていった。
「キリュウ、こんなにキレイな羽根なのに……なんか不機嫌そうだな?」
トアリーがキリュウの表情を見つめた。なんでもないよ、とキリュウは言いつつ、目をそらした。
「なんでもなくて、不機嫌になるはずない。もしかして……羽根に浮遊石をつけるのを本当は手伝いたかった、とか?」
「ちがう! なんでだよ……とにかく気にせずに、2人とも席に着いて。先に食べるよ?」
キリュウはサッサと席に着いて、食べ始めた。トアリーと妖精サフィルスは顔を見合わせた。
「ほらね、なんでもわかりあえてるっていう風でもないでしょ?」
トアリーがそう言いながら椅子をひき、妖精サフィルスを座らせた。
「フフッ……そうですね! でも、私はこういう言い合いというのもドクターとしてみたいのです。ずっと、話を聞いてるだけだったから」
妖精サフィルスは照れたように笑みを浮かべ、手を合わせた。
そんな2人の会話を聞いて、キリュウは怪訝な顔をした。
「なんの話?」
「私とキリュウが本音でなんでも言い合える仲だと、とサフィルスが思ってるという話だよ」
「そうか?」
不思議に思い、首を傾げた。トアリーはわからないが、少なくとも自分は一番言いたい本音を直接言葉で伝えてない。
「……でもサフィルスはドクターとここで一緒に暮らしてたんだろ? 遠慮して、ドクターとあまり話さなかったの?」
「はい……私とドクターは、ずっと長い間、曖昧な関係のままなのです。今まで、どうなりたいのかお互いに明確に意思表示はしたことがなかったですし、どうなりたいのかもわからなかったのですが、キリュウとトアリーを見ていると、なりたかった関係というのがハッキリとしてきました」
妖精サフィルスがイキイキと力説する。
―――うん、方向性は合ってるけど、オレ達の関係を目指すのは間違ってる気がする。
キリュウが妖精サフィルスにアドバイスをしようとしたところ、
「友人でも恋人でも家族でもない……一緒にいて当たり前で、お互いが身体の一部のようになくてはならない大切な関係ってステキです」
妖精サフィルスが恥ずかしそうに言った。
―――えーっとなんの話だ?……っていうか誰のことを言ってるんだ?
「サフィルス……キリュウには言わないで欲しかった」
トアリーが顔を赤くして、両手で顔を覆ってる。キリュウは、そんな様子を見て思わずにやけてしまう口元を手で隠した。
―――ヤバイ、かわいい
不機嫌だった気持ちはいっきにふっ飛んだ。だが、トアリーがキリュウを恋愛対象と見ているかどうかは微妙なところであった。




