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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
3章 迷い人の探し方
19/60

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 久しぶりに雷造の家で、雷造、堀田、トアリー、キリュウの4人が集まった。


「堀田さん、お久しぶりです。お仕事、どうですか?」


 トアリーが、堀田とキリュウをリビングに迎え入れた後、カウンターキッチンでお茶を出す準備をし始めた。


「そうねぇ……ちょっと煮詰まってるって感じね」


 そう言いながら、堀田が雷造の向かい側に座った。キリュウは、キッチンにいるトアリーのところに行き、「手伝うよ」とさりげなくトアリーからトレイを受け取り、ティーセットを並べ始める。


「ところで、今日、私がここに来たワケは、ホワイトレイクへの定期報告について、ある一定期間だけメンバーの変更をお願いしたいという申し入れのためです」


 堀田が雷造に早速本題を切り出した。


「メンバーの変更? 私と永久ちゃん(トアリー)と霧生君で定期報告をしているのだが……」


「霧生君を一定期間だけ、定期報告のローテーションから外してください」


「……理由を聞いてもいいかい?」


 雷造は、少し考え、それから静かに堀田に聞いた。


「ホワイトレイクとは別の科学技術特区でトラブルが発生していて、応援要請がありました。その調査チームに霧生君が新たに入ることになったので、しばらくこちらの業務はできないです。私は、ホワイトレイクの担当調査官なので、その間も今まで通りに雷造さん達のサポートをさせていただきます」


 堀田が簡潔に理由を話したところで、トアリーがティーポットにお湯を注ぐのを止め、キリュウを見た。


「別の国に行くの?」


「うん」


「いつから?」


「……2週間後ぐらいかな? ごめん、本屋に一緒に行く約束だったのに……、あとで良さそうな本をリストにして渡すよ」


「いや、本のリストはいいんだ……ただ、キリュウは色んなところに連れて行ってくれるから、出かけるのを楽しみにしてただけで……残念だ」


 トアリーがシュンとした様子で目を伏せる。一方、キリュウはトアリーの言葉を脳内で何度もグルグル再生させ、フリーズしている。


「ナニ、コノ甘イ会話……」


 堀田がやってらんないとばかりに呟き、ソファの肘掛けに頬杖をし、深いため息をついた。


「まぁ、これは自分の興味で聞くだけだが……それでどこのエリアに霧生君は行くことになったんだ?」


「妖精の国ブルーロックです」


 堀田が雷造の質問に答えると、


「妖精!?」


 トアリーが目を輝かせ、ワクワクしている。


 ――あぁ、そう言えば、マスター トアリーは、綺麗なものに目がないんだっけ……


「私も……、私も行きたいです! 妖精の国っ!!」


 トアリーが力の入った声で、この国に来て以来、初めて堀田に要望を出した。


「いいわよ、2週間後だから永久ちゃんもしっかり準備しておいてね? 『ブルーロック』に関する情報は、あとで届けるわ」


 アッサリ許可を出した堀田に、キリュウは唖然とした。


「えっ? えええぇぇぇ―――!? 堀田さん、いいの? もっと……その……、他の人に……例えば、上司に相談するとかさ」


「いいのよ、大丈夫。この国に来て、初めての要望は、無理難題でない限り通ることになってるから。

その際上司の許可はいらないという暗黙のルールがあるのよ。」


 堀田の話を聞き、トアリーは、「ありがとうございます!」と満面の笑みで嬉しそうにお礼を言った。その喜ぶ顔を見て、キリュウも「ま、いっか。調査だけだし、オレがシッカリしてれば、連れて帰れるだろ」と思うのであった。



*****



 今日は、「妖精の国ブルーロック」の調査チームメンバーの顔合わせと事前打合せの日だ。


 キリュウとトアリーは、科学技術特区研究所にいた。

 トアリーは、研究所に来るのが初めてだったため、上司と堀田の許可をもらい、キリュウが所内を一通り案内した後、ミーティングルームで他のメンバーが来るまで待機していた。

 しばらくすると、堀田と上司、ホワイトレイクチームの同僚、そして見知らぬ男女2名が部屋に入ってきた。おそらくその2名が、先日の話に出たブルーロックから帰ってきた人達だと思われる。


「霧生君、永久ちゃん、待たせてごめんね」


 堀田がキリュウ達に謝罪しながら、書類の束を真ん中の楕円テーブルに置いた。

 そして、全員が席に座ったのを確認すると、堀田の上司が話しはじめた。


「じゃあ、今から『ブルーロック』調査チームのメンバー紹介をする。既にホワイトレイク担当メンバーは知っていると思うが、特別臨時職員(アルバイト)の霧生君と……、こちらは初めて会うメンバーが多いと思う、ホワイトレイクの白い部屋のナイト――マスター トアリーこと、永久(とわ)ちゃんだ」


 紹介されたのでキリュウは、「よろしくお願いします」と挨拶した。それを横で見たトアリーも慌ててキリュウの真似をして挨拶する。


「次に『ブルーロック』の入口まで案内する2名を紹介する。こちらの女性が松尾さん、男性が伊能君だ。4人で『ブルーロック』に入ったあと、妖精のルナエアリを紹介する。妖精は、初めての来訪者は受け付けないから、必ずこの2人から紹介してもらう必要がある。ここまでで質問は?」


 キリュウとトアリーは、ないです、と答えた。


「では、そのあとのことだが、『ブルーロック』は、森の中に湖があり、その中心に妖精が住む庭園がある。松尾さんと伊能君は、妖精ルナエアリにそこまで2人を案内するよう頼んでくれ」


 その言葉を聞き、松尾と伊能が頷いた。


「霧生君と永久ちゃんは、庭園に入ったら、行方不明者の目撃情報の聞き込みをしてくれ。既にそこで目撃情報を松尾さん達が聞いているが、念のためにもう一度聞いて欲しい。……で、何か新しいことがわかったら、こちらに知らせて欲しいのだが、連絡手段として、霧生君が、この間、身に付けてたサークルピアスを使う。ピアスに組み込んであるのをシステム調整し直しといたので、あとで確認しよう」


 キリュウは、その話を聞き、ガックリとうなだれた。

 以前、使った任務専用のパスポートを組み込むために使ったサークルピアスは、任務終了時に返却した。今は、トアリーとお揃いのロサ・カエルレアのアドホックピアスだけをしており、もう1つのピアスホールは、長期休暇中に塞いでしまおうと思っていた矢先のことだった。これでは、学校が始まっても、ずっと片耳にピアスホールが2つのままだ。


「……ピアスじゃなくて、他に通信できる道具はないの?」


 キリュウが一応、無駄とは思うが確認する。


「あるにはあるが、予算が使えないので、今ある使えるものを使う方針だ」


 ――まさかの予算の壁っ!?さすが政府系研究機関……切り詰めるところは切り詰める。

今回の突発的なトラブルは、今年の予算に組み込まれていないので、できるだけ資金は使わない方向で……というワケですね、ワカリマス。


「質問がなければ、以上だが……」


 メンバー全員を見回し、上司が頷くと、解散となった。



 ――妖精の国ブルーロックに行くまで、あと3日



*****


 ――妖精の国ブルーロックに行く日、


 キリュウは、『ブルーロック』に行くために、と堀田が用意した服を目の前に、しゃがみこんで悶えていた。この間のメンバーの顔合わせのときに予算がないと言ってはいたが……


「堀田さん……、まさかこれを着ていけって言わないよね?」


「言うわよ! 霧生君、この服のスゴさをわかってないでしょ!? 伸縮性、通気性抜群!さらに汗をかいても臭わないし、汚れに強い! 耐熱性、防水性、防火性、耐酸性、耐アルカリ性、その他諸々の薬品系もバッチリ防いでくれる世界最先端技術を詰め込んだ服よ?」


 堀田が如何にスゴい素材でできているかを主張する。


「テンション低すぎでしょ、つい最近まで着てたくせに」


「……」


「霧生君、遊びに行くんじゃないんだからね? 君はどこにこれから行くのよ!」


「……妖精の国です」


「そうよ! ……妖精よ?ファンタジーよ? それなのに雰囲気ぶち壊しのその服で行くワケ?」


「やっぱり、この服を着せたいだけじゃねーかっ!」


 キリュウが堀田の発言に対してツッコミを入れたところで、キリュウのちょうど真後ろのドアが開いた。

 そこには、ナイトの白い制服に身を包み、中央塔の刻印の入ったレイピアと蒼いマントという、つい最近まで見慣れていたトアリーの姿があった。


「やはりこの方がシックリくるな、安心する。……あれ?キリュウはまだ着てないのか?」


 トアリーがニッコリ微笑みながらキリュウに聞くと、


「……あぁ、これから着替える」


 キリュウが気まずげに答えた。


「……チョロいわね」


 小声で堀田がキリュウの背後で呟いた。


「ぐっ……」


 堀田に何も言い返せないので、これ以上何か言われないように、サッサとレイトーリア魔法学院の白い制服とレイピアを持って、キリュウは着替えに行った。

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