第二話 ただの気まぐれ
「そこをどけ!その少女には魔女の疑いがある!」
甲冑を着込んだ男性はえらく怒声の利いた声で話す。
他の二名も既に少女の身柄を拘束すると言った内容ではない、手足の一本や二本でも斬って持ち帰るつもりだろう。
そして少女は失禁していた。
「……それ、俺に言ってる?」
「他に誰が居る!」
「いや、そうか……俺、帰宅途中だったんだけど」
「そこの魔女と知り合いではない…と?」
「知り合いも糞も、いましがたあったばかり、だから見逃してくれない?」
淡々と言葉を並べるも、その言葉に少女は絶望に歪んだ表情をこちらに見せて来る。
その様な顔でこちらを見られても困るのだが…。
「関係者じゃないならその魔女を渡してくれ」
「……ふん、関係者じゃないから渡すのもパスで」
「なに!」
「いや、騎士様程の力なら俺の手を煩わせなくても捕まえられるでしょ?今、無関係だって証明はできたわけですし」
「……余計な事はするなよ」
ゆっくりと近づき、こちらの少女もゆっくりと後退する。
もう腰を抜かしてまともに立つ事すらできなくなってしまったのだろう。
だがこれが今の世の中だ。
“魔女の証”と言う物が何を持って証明されるのか、国も人々も分かっていないからこそ、疑いある場所には目を付けよ。
それがこの世界のやりかたで、いつの間にかルールと化していた。
「いやだ…こないで……」
「……」
恐らく、この少女は髪の色が他の人と異なると言った理由で疑いを掛けられたって事になる。
不幸な事だ、そしてやはり——
「……腐ってるな」
「何か言ったか?」
「食いかけの物ですが、パンが痛んでたらしくて、おぇ!」
「おい、まさか!」
「あ、騎士様、あれって……」
騎士の後ろに指を指し唖然とする。
釣られた騎士も後ろを振り向くもそこには——何もない。
「なにを……貴様!」
「すいません、これが俺の仕事なんで」
「待て!何処へ連れていくつもりだ!!」
「何処でも連れていきますよ、頑張って探して下さい」
「キサマッ!!」
明かに怒号を超えた怒りで迫ってくるも、甲冑を着込んだ男三人と身軽な服装の男とそれを抱えられる少女では速さに違いが出てきた。
先ほどまでいた騎士達はもう視界からは消えており、安全な場所で少女を降ろす。
「じゃ後は頑張れよ」
「……え?」
まだ状況を飲み込めていないのは少女だけだった。
少女は何故こちらが助けたのか?疑問ばかりだろうが、そんな事はどうでも良いと思い、その場を立ち去ろうとした矢先、裾が引っかかった様な感触に違和感を覚え立ち止まる。
そこには少女が裾を手で掴み、行かせまいとしていた。
「お、おねがい、です、た、たす、助けて、下さい!」
必死の懇願に男はかつて見てきたこうした少女達が脳裏に映った。
そして最後に——忘れもしない人の顔も。
「行く宛てがねーのか?」
「……もう、私には、何処にも……」
「まぁ何処行っても今じゃ“魔女狩り”に遭うだけだからな」
その言葉を聞いてビクリと身体を震わす。
余程逃げたのだろう、弁明したのだろう、そして懇願したのだろう。
どれも叶わない中でようやく見いだせた彼女の光が自分とはと思わず笑ってしまう。
近くまでよると穴を突くアンモニアの臭いがする。
そう言えば失禁していた事を思い出すも、今あるのは悪態を付く事ではない。
「後で後悔すんなよ?」
「し、しません!」
「ならお前の名前を教えろ」
彼女は涙を吹きながら答える。
「わ、私の、名前…ルミナ」
「そうか、最悪の出会いになったが、俺の名前はルクス、ルクスだ」
こうして少女ルミナとルクスの出会いが始まったのだ。
感想・いいね・☆・フォロー宜しくお願いします!




