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変わらない朝


 朝になり、シャルロットは重い足取りで階段を降りていた。

昨夜はほとんど眠れなかった。

夢のせいだ。

豪華な屋敷に大勢の使用人、自分を囲む人々。

そして理由の分からない孤独。

目が覚めた後も胸の奥に妙な重さが残っていた。

おまけに、クルルに振られたことも、もちろんまだ引きずっている。

完全に吹っ切れられるわけがない。

ただ、もうどうにもならないことは理解していた。

食堂へ入ると、クルルが先に朝食を食べていた。

パンを口に運んでいたクルルは、シャルロットの顔を見るなり眉を寄せる。


「どうした?」

 

その一言で、シャルロットは少しだけ驚いた。


「え?」

「顔色悪いぞ」


そんなに分かりやすかったのだろうか、とシャルロットは苦笑する。


「ちょっと、悪い夢を見て」

「またか」


クルルは心配そうにシャルロットのことを見つめてくる。

その視線に少しだけ胸が痛む。

好きな人に優しくされるのは嬉しい。

でも、その優しさの意味を知っているから、素直に喜ぶこともできない。

クルルにとって自分は家族で、妹のような存在なのだから、恋愛対象ではない。

だから、もう無駄に期待するのはやめようと、シャルロットはそう決めていた。

好きなままでもいい。

でも、それ以上は望まない。

そう決めたのだ。


「また眠れなかったら言えよ」


クルルが言う。


「夜更かしくらいなら一緒にするよ」


何気ない口調だった。

きっと本当に何気ない言葉なのだろう。

家族に向けるような、友人に向けるような、そんな優しさ。

けれどシャルロットは少しだけ笑った。


「大丈夫よ」

「無理するなよ」

「してないわ」


そう言いながら席に着く。

以前のシャルロットなら、きっと気まずくて顔も見られなかっただろう。

けれど今は違う。

クルルは自分を妹として見ている。

ならば恥ずかしがる意味はない。

好きだからこそ、好きな人の近くにいればいい。

それだけだ。


「クルル、そのジャム取ってくれる?」

「ほら」

「ありがとう」

 

自然に受け取る時に2人の指先が少し触れた、その些細なことに胸がきゅっとした。

だが表情には出さない。

代わりに微笑む。


「今日も忙しいの?」

「まあな」

「怪我しないでね」

「善処する」

「絶対しないとは言わないのね」

「仕事だからな」


いつも通りの会話だった。

何も変わらない。

本当に何も。

シャルロットは笑う。

クルルも少し笑う。

その光景だけ見れば、昨日告白して、そして振られた二人には見えなかっただろう。

 






 一方でのクルルは内心ほっとしていた。

昨日、自分はシャルロットを傷つけた。

そんなことは分かっている。

だから今朝、顔を合わせるのが少し怖かった。

避けられるかもしれない。

気まずい空気になるかもしれない。

そう思っていた。

だが、シャルロットはいつも通りだった。

笑っている。

普通に話しかけてくる。

少なくとも表面上は無理をしている様子も見えない。

だからクルルは安心した。

 (よかった)

これでよかったのだ。

中途半端に期待を持たせるより。

傷つけてしまっても、はっきり伝えた方がよかった。

きっと、時間が経てば今まで通りの関係に元に戻る。

そう思ったから気づけなかった。

シャルロットが笑顔の裏で小さな寂しさを抱えていることに。

そして、自分がその笑顔に安心してしまっていることにも。

朝の光が窓から差し込む穏やかな朝だった。

何も変わらないように見える。

けれど、二人の心だけが、少しだけ昨日までとは違っていた。



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