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夢の残滓


 夜だった。

窓の外では虫の声が聞こえている。

シャルロットはベッドの中で目を閉じていた。

けれど眠れなかった。

胸の奥が重い。

苦しい。

何度目になるか分からないほど、昼間の出来事を思い出してしまう。


『ごめん』


クルルの声。


『俺は、その気持ちには応えられない』


優しい声だった。

拒絶されたわけではない。

傷つけないように言葉を選んでくれていた。

それは分かる。

分かるのに、胸は痛かった。

毛布を握りしめる。


(私、魅力がないのかしら)


ふと浮かんだ考えに、自分で驚く。

そんなことを考える性格ではなかったはずだ。

けれど今は違う。

クルルは優しい。

誰にでも優しい。

だから断られた理由も、きっと嘘ではないのだろう。 

家族みたいだから。

妹みたいだから。

そう言われた。

つまり、女性としては見られていないと、そういうことなのではないだろうか。

考え始めると止まらなかった。

胸の奥がじわじわと冷えていく。

なぜだろう、なぜかその感覚には覚えがあった。

昔も、こんな気持ちになったことがある気がする。

誰かを見つめて、その人がこちらを見てくれなくて、ただ遠くから眺めているだけだったような、そんな感覚を。

だが思い出せない。

手を伸ばしても霧の向こうに消えていく。

頭が痛くなる。

シャルロットは目を閉じた。

そのままゆっくりと意識が沈んでいく。

 




 

 夢を見た。

豪華な部屋だった。

天井には大きなシャンデリア、赤い絨毯に磨き上げられた大理石。

見たことがないはずなのに、なぜか懐かしい。

 

「お嬢様」

 

声がする。

 

「お嬢様」

 

また声がして、振り返る。

振り返るとそこには大勢の人がいた。

使用人の服を着ている。

使用人たちは皆がシャルロットに頭を下げている。

シャルロットは戸惑った。

 

(どうして?)

 

だが誰も不思議そうな顔をしない。

当然のようにシャルロットに傅いている。

侍女がシャルロットのドレスの裾を整える。

執事が頭を下げる。

使用人たちが道を開ける。

その中心に、自分が立っていた。

金糸で飾られた美しいドレスに白い手袋。

宝石を身につけた華やかな装い。

鏡に映る姿を見て、シャルロットは息を呑んだ。

それは確かに自分だった。

けれど今の自分ではない。

もっと高貴で、もっと遠い。

まるで別人のようだった。

 

「お嬢様、本日の予定でございます」

 

執事が何かを話しているが、内容は聞こえない。

声だけが遠く響く。

その時、胸の奥が妙に痛んだ。

この光景は、懐かしいけれど、苦しい。

なぜだろう。

皆が自分を大切にして、敬っている。

それなのに、なぜかとても孤独だった。

誰も近くにいない気がした。

大勢に囲まれているのに、たった一人のような気がした。

 

「――――様」

 

遠くから、誰かの声が聞こえた。

優しい声に振り向くけれど誰もいない。

廊下の先には光だけがあった。

その光を見つめた瞬間。

胸が締め付けられる。

悲しくて、寂しくて、どうしようもなく苦しかった。

そこで夢は終わった。





 

 シャルロットは目を覚ました。

まだ夜明け前で、窓の外は薄暗い。

心臓が早く打っている。

 

「……夢」

 

ぽつりと呟く。

だが妙だった。

ただの夢とは思えない。

どこか現実味があった。

忘れてしまった何か。

置き去りにした何か。

その欠片を見たような気がするけれど思い出せない。

何一つ。

シャルロットは胸元を押さえた。

なぜだろう。

夢の中にいた自分は、今よりずっと立派だったはずなのに。

今よりずっと綺麗だったはずなのに。

なぜか、とても不幸そうだった。

その理由だけが、どうしても気になった。



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