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  作者: 木々


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60/60

回避

[登場人物]

富野瑛亮(22)

小和瀬薫(22)

折橋愛花(21)

意識して目を逸らすように、折橋さんのことは避けられる限り避けた。話しかけられそうになれば、その場から逃げる。まるで、卑怯な自分の醜さや後ろめたさから逃避するように。彼女が指定したクリスマスは、特に気配を消した。

明確に答えを出さないまま、その日が過ぎたことに安心感と罪悪感が残る。真っ暗な自分の部屋で一人、苦しみを抱えているのを、葛西は何も言わずに見ているだけだった。毎晩のように何度も薫とのトーク画面を開いては、この抱えた苦悩と自己嫌悪の話を一方的に話して、薫に頷くだけの簡単な作業をしてもらおうと考えても、結局は画面を閉じる。その作業による疲弊が、自分には痛いほど分かるせいで、今でも友達を続けてくれる薫にさえ言えなかった。

誰にも打ち明けることができないまま年が明け、仕事が始まり、また折橋さんと再会する。以前より彼女がしつこくなくなったことが、逆に恐ろしかった。現状に甘え、このまま忘れてくれればいい、と自分の心は逃げるだけ。一向に相手の気持ちなど考えられないで、一か月が過ぎる。その日、寝る前に鳴ったスマホの通知に自分は飛びついた。

「瑛亮って甘いもの好き?チョコ食べれる?」

薫が久々に送ってきたメッセージの意図がすぐに理解できず、返信を打つ手が止まる。既読を付けてトーク画面を開いたままにしていると、痺れを切らしたであろう薫からまたメッセージが届く。

「バレンタインで毎日のようにいっぱいお菓子もらっちゃってさ、一人じゃ食べきれなくて半分くらいもらって欲しいんだけど。」

やっと理解して、すぐに返信を打つ。甘いものは特別好きではなかったが、困っている薫の役に立てるならもらう他にない。というのは建前で、本音は薫と会うきっかけが欲しいだけだった。薫の都合のついででいいから、少し打ち明けて楽になりたい。そんな自分勝手を、薫と同じ天秤にかけて釣り合わせようとした。

「ありがとう!じゃあ金曜日、瑛亮が仕事終わるころ家行くねー。」

薫の返信のおかげで、その夜は安心して眠ることができた。根本的な解決をしたわけではないけれど、今夜はそれでよかった。

折橋さんは自分があからさまに避けていることに気づいているのだろう。仕事中、話し掛けられるわけではないものの、ちらちらとよく目が合った。そういうとき自分は、目が合ったと気づかれる前に、逸らしているつもりでいる。週末まで変わらずそれを続けていたけれど、彼女は帰り際になって声をかけてくる。

「富野さん!」

折橋さんがそうやって自分の名前を呼ぶと、全身が強ばり不快になる。耳の奥にキンと響く彼女の声は、これまでの積み重ねが影響するせいか、聞くだけで体中に危機を伝える信号が流れた。久々に感じた嫌悪感に、自分は逃げる道を迷わず選ぶ。

「……すみません、今日は急ぎの用があるので。」

薫との約束が声をかけてきた日でよかった、と思った。目も合わさないまま自転車に乗り、その場から逃げようとする自分を、折橋さんは進行方向に立って止める。

「私も今日じゃないとだめなんですけど。」

「……すみません。」

有無を言わさず、彼女を避けて帰路につく。せめてもの思いやり、いや、自分が人間としての形を保つためだけに、深く頭を下げて折橋さんから遠ざかった。

「ちょっと!富野さん!」

後ろで呼びかける声が聞こえても、自分は振り返らないで進む。それほどまでにきっと、我慢は限界だった。

「薫!」

「あー瑛亮!今帰り?」

家に着く前に、駅から歩いてきた薫と出会う。道端で自転車を停め、薫の元へ駆け寄った。

「久しぶり。元気だった?」

「あ……うん。」

気軽に訊かれた言葉には、すぐ返せなかった。年々、薫は理想の姿になっているのだろう。会うたびに、こんな自分が対等に話をしてもいいのかと思うくらい、綺麗になっていた。

「はい、これ。全部市販のやつで手作りとかは入ってないから大丈夫。本当助かったよー、ありがとう。」

高そうな小箱がパンパンに詰められた紙袋を、薫はこちらに渡す。もらうのは自分のほうなのに、薫が先に感謝を言うのは変な感じがした。

「ううん。こちらこそありがとう。これ……まだこの倍もあるの?」

「まぁね……。モテ期ってやつかな?」

「ええ……すごいね。」

薫は困りながらも、嬉しそうに話す。高校生のころから知っている自分でさえ、最近は薫と会ってうまく話せるように戻るまで時間がかかる。その人気は当然だろう。

「瑛亮、その様子じゃ今年一つももらってないな?」

「いや。今年に限らずいつもだよ。」

「そう?僕のお裾分けがあってよかったね。」

「うん、ありがとう。」

「じゃあ、そろそろ仕事行かなきゃだから。また来月くらいにごはん行こ。」

「……うん。また。」

忙しそうな薫を見てしまうと、自分の話したいことは言い出せなかった。駅の方面へ引き返す姿を目で追っていると、薫は思い出したように振り返る。

「あ。体調気をつけてねー?変な風邪流行ってるみたいだから。」

「ああ……うん。薫も気をつけてね。」

大きく手を振る薫に、自分は紙袋を下げた手を小さく振り返す。寂しい気持ちを抱えながら、この問題は自分だけで解決しなければ、と心の中で誓い薫とは反対方面へ、再び自転車を漕いだ。

週明けになると、折橋さんの様子はいつもより暗く、自分は冷たく痛む罪悪感を抱く。彼女は仕事を終えた夕方、駐輪場にいる自分の元へやってきた。

「富野さん。話があるんですが。」

「……はい。」

今日こそは彼女と向き合わなければならない。自分の我慢にも鞭を打つ。恐る恐る、折橋さんと視線を合わせた。

「昨日、彼女さんにお話聞きました。」

「え……?」

混乱した頭から送られる電気信号は、自分の両方の目をゆらゆらと揺らす。

「私だって、バレンタイン渡したかったのに……。私のは受け取ってもくれないんですね。」

[次回更新]5月12日 火曜日 23時予定

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