繋がり。
ファマスとステイシー、グレイスとジュリアンの繋がりとは……。
【ファマスとファビオの家】
ステイシーをじっと見つめていたファマス——。
(あー、頑固だと言っていたけど、こりゃ一筋縄じゃ行かないかも……)
それがステイシーの第一印象だった。
腕を組み椅子にどっしりと腰掛け、訝しげな表情で睨まれれば、嫌でもそう感じてしまう。
そしてその予感は的中してしまう——。
「わしは王女には剣を教えん!」
「えっ……もう……」
ステイシーは頭の中で、ファマスの心情を瞬時に分析を始める。
彼の中では、王女とは慎ましく、女性らしくあるべき存在なのだろう。
危険なことには触れさせず、将来の婚姻相手に気に入られるよう、淑やかさを磨くべきだと考えているのかもしれない――。
「なあ、言っただろ。ファマスは箱入り娘製造機なんだよ」
「ふん!」
ファビオもまた、ファマスが亡くなった娘の面影をフィリーサに重ね、それはそれは大事に育てていたことを知っている。
アーレイのもとに嫁いだ時の落胆した姿など、全てを知っていたからそう言ったのだった。
「あはは、それわかります。フィリーサお母様からよく聞きました」
「ふん!教えんものは教えん、さっさと帰れ!」
フィリーサの話をすれば少しは懐柔出来ると思ったが、この爺様はその程度で折れる奴では無かった。
プンスカと怒りを露わにするファマスは、鼻を鳴らした後は目を瞑り、口を貝のように閉ざしたままだった。
「じゃ、また来ますね。ファマスおじいちゃん(笑)」
ステイシーは長居しても変わらないと判断して席を立つ——。
※※※※※※
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
研究所の会議室には、リリアの復活に携わるスタッフが勢揃いしていた。
今後のリリア復活に向けた道筋を話し合うためだった——。
「それでは今後のロードマップに関する会議を始めます」
リリアの声を聞くことができ、大幅に研究が進んだにもかかわらず、皆の表情は優れない。
「結論から申しますと、こちらの会話は伝わっていません」
リリアは兄の名を呼び、時折「ここはどこ?」などと断片的に言葉を発していた。
しかし、こちらからの問いかけには一切反応せず、会話として成立していなかった——。
「現状では脳からの信号を十分に拾えていません。状況から見て、コネクトの数を増やすのが最善と思われます」
一度は歓喜に沸いた研究室だったが、検証を重ねる度に皆の表情は芳しくなくなってゆく。
原因は単純明快だった。コネクトの数が、まだ足りなかったのだ——。
「仕方ない、次の入荷を待つしかない。ジュリアン様、次の入荷が決まり次第教えてください」
諦めたくないグレイスだったが、脳と繋ぐパーツが無ければ進まない。
焦る気持ちを抑えつつ、次の機会を待つしかなかった——。
「急いで手配しますが、何せアレなパーツなので、ご容赦ください」
ハッキリとは言わないが、皆は違法な品だと理解している。
重苦しい雰囲気の会議室はジュリアンの発言が締めになり、解散となった。
「もう、駄目よ、こんな時男はドンと構えるのよ」
会議が終わり、スタッフが退室した後も、グレイスは険しい表情のまま席に残っていた。
ジュリアンは後ろから彼を抱きしめ、耳元で優しく励ました。
「ありがとう……」
「さあ、お祝いしましょう。気分を変えないと前に進めないよ!」
グレイスは立ち上がったものの、まだ不安そうな表情で俯いていた。
「う、うん……」
一度は妹の声を聞けた喜びに包まれた。
それだけに、意思の疎通ができないという現実は、グレイスの心に重くのしかかっている。
「もう、駄目ね、ほら、元気だして」
ジュリアンはもう一度グレイスを抱きしめ、その不安を少しでも和らげようとした。
その後、追加のパーツが手元に届き、コネクトの数を増やすことで、リリアとの会話は徐々に成立するようになっていくのだった——。
※※※※※※
【デルタ繁華街・VIP用レストラン】
真っ黒な一台のシャトルが、大きなエレベーターに吸い込まれるように入っていく。
そこは、人目を避けて食事をするには最適なレストランだった。
常連客には政治家や貴族、芸能人などが多く、密会にも適した場所だった。
そのまま宿泊することもできるため、逢瀬の場としても利用されていた——。
「こ、こんな場所に、レストランあるのか」
ジュリアンに言われるがまま、エレベーターを出たグレイス。
扉を開けると、薄暗い廊下だった。
受付はなく、予約から案内まで全てモジュールで完結するらしい——。
「さあ、入りましょう」
ジュリアンは先を歩き、「セレクション」と表示された部屋に入った。
「うわぁ、凄い」
広々としたリビング。
ガラスの向こうにはデルタの壮大な夜景が見える。
そしてポツンと窓際に、二人用のテーブルセットがあった。
「最高の場所でしょ、料理も最高に美味しいんだよ」
「いや、ちょっとびっくりしたよ」
貴族の子息であるグレイスは、高級店にも当然行ったことがある。
しかし、完全なプライベート空間を備えたこのレストランは、彼の想像を遥かに超えていた——。
「だって、グレイス君謹慎中でしょ(笑)」
「まぁそうなのだが……想像と違いすぎてちょっと……」
行き先は個室のあるレストランだと勝手に思っていた。
ここなら完全にプライベートが守られている。リリアの話をしても、外部に漏れる心配はないだろう。
秘匿性まで考えてこの場所を選んだジュリアンに、グレイスは頭が下がる思いだった——。
「今晩は大人の時間を楽しみましょう」
ジュリアンは早くエスコートしなさいよと言わんばかりに、右手を差し出した。
「レディジュリアン、お待たせしました」
胸に手を置きつつ、左手を差し出すグレイス。
さすが貴族だけあって、その作法は板についている――。
「うふふ、今夜は楽しみましょう」
頃合いを見計らっていたのか、音もなく給仕をする女性が現れた。
「グレイス様、ジュリアン様、こちらへどうぞ」
頭を下げ、腕を伸ばす先にはバーカウンターが見える。
グレイスは慌てる事なくエスコートを完璧にこなし、少し背の高い椅子に座ると、バーテンダーは何も言わずに食前酒を作り始めた。
「凄い……大人の世界だ……」
シャカシャカと響くシェイカーの音。
薄暗いバーカウンターのスポットライトに照らされた、ジュリアンの美貌。
社交界に慣れているグレイスだったが、これまで経験したどの店とも違う、落ち着いた大人の雰囲気が漂っていた。
「グレイス君、今から有意義な時間を過ごすのよ……」
カクテルグラスを手にしたジュリアンは、優しい眼差しでグレイスを見つめていた——。
——ッ
髪を耳に掛ける仕草。
ゆっくりとカクテルを流し込むその唇。
流し目の後のグレイスに送る微笑み——。
「君は本当に素敵だ……」
ジュリアンの所作は、グレイスに彼女を一人の女性として強く意識させるには十分だった——。
そして、柔らかなジュリアンの指がグレイスに絡みつく。
「ありがとう……グレイス……さぁ食事を楽しみましょう」
「ああ、そうしよう」
少しずつ、確実に二人の距離は近くなってゆく――。
「本日のメインでございます」
運ばれてくる料理は皆一流の味付けだった。
他愛のない会話に花を咲かせ、夜は更けていく——。
※※※※※※
【翌朝・VIP用レストラン】
ンッ……。
差し込む朝日の眩しさに、グレイスは目を覚ましす。
彼がいる場所は、レストランに併設されている寝室だった——。
「……朝か……ふふ……」
隣を見ると、まだ寝息を立てているジュリアンがいた。
シーツの隙間から覗く、磁器のような白い肌。
昨夜の甘く激しい時間を思い出し、グレイスは小さく微笑んだ。
「君には助けてもらってばかりだね……」
楽しい晩餐の最中も、心の奥底にある不安が消えることはなかった。
それでも、彼女と一夜を共にした今、その影は不思議なほど薄れていた——。
「……ッン……グレイス……」
ゆっくりと目が開いたジュリアン。
昨晩のように、優しく見つめてくれる。
「……ジュリアン……」
彼女の名前を口にすると、自然と安心感と熱い想いが、同時に込み上げてきた。
ジュリアンと一緒にいると、不思議なほど心が安らぐ。
そんな感覚を、グレイスは初めて知った――。
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