夏休みは鍛錬よ。
チョットした喜劇と進展の回です。
【ファマスとファビオの家】
フィリーサが嫁いですっかりやる気を失っていたファマスは、数年後、騎士団を退団して暇を持て余していた。
同じく引退したファビオと共に、再び活躍の場を与えようとアーレイが召し抱え、今はクーンに移り住んでいる。
「なんか、古風な家ね。こんな所に住んでいるんだ」
ステイシー達が住む場所からさらに奥の、森の中にある一軒家。
丸太で組まれたロッジ風の建物の前に、長剣を携えたステイシーがいた。
彼女はアーレイからファビオとファマスがここに住んでいると聞き、剣の鍛錬を頼むため二人の家を訪れていた。
「あれ、ステイシー様だ!」
二階のベランダで、洗濯物を干していたヴァレリアが、ステイシーを見つける。
「ねぇヴァレリア、お祖父様は在宅かしら」
「え、ええ、ステイシー様が何用でこんなところに来たのですか?」
いきなり親しげに呼び捨てで名前を呼ばれたヴァレリアは、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。
すっかりサラとして振る舞っているステイシーには、その反応が理解できなかった。
「いやちょっとね、用事があるのよ」
「しょ、承知しました。少しお待ちください」
しかし、王女が訪ねてきた以上、粗相の無いようにしなければと考え、急いで玄関に回り込んだ。
「お待たせしました。祖父は在宅なのでお入りください」
「もう、どうしたのよ、そんなに畏って」
「……どうぞ中にお入り下さい……(汗)」
ステイシー(アイラ)とは面識はあるものの親密ではないヴァレリアは、フランクに接してくるステイシー(サラ)に驚き、顔が引き攣り始める。
しかし、ステイシーは剣のことで頭がいっぱいなのか、サラとして見ていないことに未だに気がついていなかった——。
「お祖父様、ステイシー王女殿下がいらっしゃいました」
「んっ……ああ……これはこれはようこそおいで下さいました」
ちなみにファビオはサラの正体をアーレイから聞いている。
それに、剣を習いにくるはずだと言われていたので、サラとは言わずに普通に対応していた。
「あの時、助けていただいてありがとうございます。これはほんのお礼です」
「ああ、どうもありがとう」
いまだに自分がサラだと気がつかないステイシーは、助けたお礼に茶菓子の詰め合わせを渡す。
「???」
ちなみにヴァレリアは、ファビオといつステイシーとの接点があったのか知らないので、当然はてな顔をしてしまう。
(ああもう、気づいてよサラちゃん!)
ファビオは今の状況を理解しているものの、王女に耳打ちなどできるわけもなく、微妙な表情を浮かべながら、心の中で早く気づけと叫んでいた……。
「それで、実は頼みがございまして、元近衛騎士のお二人に剣を教えてもらうために参りました」
「うーん、私はいいですがファマスは、女の子に教えるか分かりません」
「えっ、ステイシー様がお祖父様の剣を習うのですか?」
学校で見るステイシー(アイラ)は、上品で大人しく、剣よりも魔法が得意なことくらいは知っている。
当然、ヴァレリアは驚いた表情を見せるが、言った本人は至って真面目だった。
「そうよ、あなたに勝つために訓練をつけてもらうのよ」
「へっ?」
もうここまでくると喜劇だ――。
ファビオは思わず吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
「あっ……ヴァレリアさんが強いのはみんな知っているからよ(汗)」
「ええ、まあ、そうですけど……」
あり得ないほどフランク――いや、まるで友達のように接してくるステイシーに、ヴァレリアは違和感を覚えつつも、失礼がないように対応する。
やっと気がついたステイシーは冷や汗をかいていた……。
そして、話し声が聞こえたのか、2階から足音が近づいてきた——。
「んっ、誰か来ているのか、ああ、サラじゃないか」
この爺様は細かいことを気にしない性格だ。
なので、ステイシーを見た瞬間、サラとして接してくる。
彼にとってサラがステイシーのどっちが上かなど、気にも留めてなかった。
当然、ヴァレリアは——。
「えっ、サラじゃなくてステイシー様ですよファマスお祖父様」
「……」
「……」
「……」
そして、ステイシー、ファビオ、ファマスの三人は一斉に固まる。
(サラの救出、あの態度、もしや……)
そして——。
「……ねえサラ……だよね」
声は違うが、接し方や救出の件から、ヴァレリアはステイシーがサラだと見抜いた——。
(ヤベー言えねー、けどもうバレたよ)
その疑いの視線に耐えきれそうにもないステイシー。
「……(汗)」
しかし、黙るしかなかった。けど、それで済むわけがない——。
「やっと謎が解けたよ。学校のステイシー様が魔法が得意って、変だと思っていたのよ」
「ごめんね、ヴァレリア。私がサラよ。学校でのステイシーはアイラが化けているの」
「どうりで変だと思ったのよ。もう、サラ……いや、ステイシー様……」
本人からサラと言われて、つい友達感覚に戻ってしまうが、目の前のステイシーは紛れもなく王女様だ。
どう接していいのか分からず、混乱している様子だった——。
「気にしなくていいのよ、ヴァレリアは友達なんだから」
「なんか、変な気分よサラ、だって王女様なんだもん」
「ステイシー様、孫娘の友達になって頂き感謝しかありません。こいつは剣が好きな脳筋で——」
「もうそれ言わないでよ!」
ヴァレリアもまた剣好きの脳筋娘で、友達が極端に少ない。
サラという友達ができたと喜んでいたヴァレリアのことを、ファビオは伝えたかったのだろう。
余計なお節介と感じたヴァレリアは、プイと明後日の方向を見る——。
「ステイシー様、私でよければ剣の稽古をつけます」
「ありがとうございます。ファビオ様。もちろんファマス様も付き合ってくれますよね(笑)」
「……」
ここで頑固親父のこだわりが炸裂しそうだ。
訝しげな表情をしてステイシーをジッと見つめてきた——。
※※※※※※
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
「これが脳とコネクトするパーツ……装置と繋がれば大きな一歩になるな」
グレイスが手に持つケースの中には、数個の銀色の極小パーツがあった。
それは、ジュリアンから齎された脳神経を繋ぐ重要な部品だ。
「残りのパーツは今作って貰っているから、待っててね」
「ジュリアン様、ありがとうございます。これが成功すれば飛躍的に進みます」
目を輝かせるグレイス。
当たり前だが、これが上手くいけば今まで停滞していた研究が一気に進む。
「それでは施術したいと思います」
「ああ、頼んだよ」
対象となる神経にパーツを装着し、特殊な培養液を塗布すると、数十時間かけて融着する。
成功すれば、装置とつながり意識が戻るはずだ——。
「グレイス様、先に会話を試みるのが効率的だと思います」
「ああ、そうしよう。会話ができれば対応策を考えやすい」
デルタ艦隊司令本部から盗み出された技術が、今まさに使われようとしていた——。
※※※※※※
【数十時間後】
リリアの脳から無数のコードが伸びている。
管理画面を見ると、何ヶ所かノーコネクトの文字が消え、グリーン色のコネクトの文字に変わっていた。
「やっと。やっと、ここまで来たんだな」
「グレイス君、いよいよね、成功したらお祝いしましょうね」
カミングアウトしたあの日から、二人の関係は大きく変わっていた。
研究者と出資者という立場を超え、互いに一人の人間として惹かれ合い始めていた――。
「それでは始めてくれたまえ」
「それではコネクトします」
脳神経から送られる信号を音声用インターフェイスに接続し、正常に変換できれば会話ができるはずだ。
これが上手くいくと、次の段階はクローン体の運動神経と繋げ、体を自由に動かせるようにする。
そしてスピーカーから雑音が消えた。
「おに……ちゃん……」
「あっ、繋がった。繋がったぞ」
聞こえてきた声は、まさしくリリアのものだった。
待ち望んでいた結果に、グレイスの顔が綻んだ。
「やったわね、遂に、やったのね」
「ああ、そうだよ、遂に来たんだ」
グレイスがジュリアンと向き合うと、彼女は応えるように両腕を広げた。
グレイスは嬉しさのあまり、その胸に飛び込んでいった――。
「もう最高じゃない、すごいねグレイス君」
「あ、ありがとう。君のおかげだよジュリアン……」
ジュリアンがグレイスをギュッと抱きしめると、グレイスも強く抱きしめ返した。
なんとも言えない幸福感がグレイスを襲い、それと同時にジュリアンのことが急に愛おしくなり始める——。
「もう、グレイス君素敵よ」
「ああ、君も素敵だ——」
——ンッ
そして二人は引き込まれるように、唇を合わせるのだった——。
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