処罰と心。
グレイスの処分と悪意が蠢きます。
【クーン司令本部・留置場】
グレイスと傭兵たちは強襲艇に転送され、その場で身柄を拘束された。
そして現在、取調室でアーレイと向き合っていた——。
「さて傭兵諸君、もちろんクーン王国の許可は取ってないよな」
アーレイは最初から最後まで上空から監視していたことを告げ、傭兵たちの反応をうかがう……。
「今回は単なる護衛任務なので許可は取らず、戦闘は避けていた」
「確かに、戦闘に加わらなかったのが救いだったな」
上空から見ていた限りでは、サラを追い詰めた傭兵たちはスタン弾しか使用していなかった。
殺意がなかったこともあり、アーレイは無許可の武器使用と不法侵入について、罰金程度で済ませると告げた。
「実刑喰らうと家族を養えなくなるから、それは助かる」
傭兵達は、罰金で済むとわかると、安堵の表情を浮かべていた。
「騒ぎを起こしただけだし、お前らの親分には世話になったしな」
アーレイとしては、傭兵に世話になることもあるので、この程度で済ませていた。
(傭兵は適当でいいが、こっちはそう簡単な話ではない)
傭兵たちは雇われた立場だ。だが、今回の騒動を引き起こしたのはグレイス本人である。
彼は学生だが、それなりの責任を取らせるつもりだ——。
「さて、グレイス君。君には殺人未遂、器物損壊、武器の不法持ち込みと所持の罪が問われる」
サラに対して殺傷モードでの銃撃は殺人未遂が適用され、クーンの森で暴れた件は器物損壊。
それに武器の不正持ち込みまでやっているので、未成年とはいえ、実刑を免れるのは難しいだろう。
「弁護士が来るまで黙秘する」
「ああ、いいぞ、パパも呼んだから、大目玉を食らえ」
だが彼は貴族の子息なので、特権を行使すれば不起訴になる可能性が高い。
だからこそアーレイは、ジェフに貸しを作りつつ、この男にはきっちり社会の厳しさを教えるつもりだった。
アーレイは口元に不敵な笑みを浮かべ、グレイスを見据えた。
その不気味な笑みに嫌な予感を覚えたグレイスは、思わず口を開いた——。
「俺に臭い飯を食わせるつもりなのか」
「無期限の停学、貴族権限の剥奪だな。賠償金をしっかり払えよ(笑)」
「……」
強気だったグレイスは、アーレイが断言すると悔しい顔をする。
アーレイは他国の国王だが、デルタのジェフとはツーカーの仲として知られている。
流石にここで逆らうと、ろくなことにならないと考え、大人しくしたのだろう。
切断された腕は元通りに治療したが、時折痛みが走り、渋い顔をしたまま留置場へ連行されるのだった……。
※※※※※※
【クーン城・フィリーサの私室】
「おいおいおい……」
フィリーサと向き合い、男泣きしているのはファマスだ。
目元を真っ赤にして、何度も涙を拭っている。
普段は厳格で、少々のことでは動じないファマスだが、今ばかりはその面影もない。
「まったく……昔から変わりませんね」
フィリーサは困ったように微笑みながら、ファマスの様子を眺めていた。
久しぶりにフィリーサと会えたというのに、ファマスにはクーンの茶葉を味わう余裕など微塵もなかった――。
「さあ、それくらいにして、お茶を楽しみましょう」
「フィリーサさまぁぁぁ!」
フィリーサに優しく声をかけられ、ファマスは再び涙をあふれさせた。
オッサンになると涙腺が緩むとは言うが、バウンデにいた頃よりも、さらに涙もろくなったようだ。
フィリーサは過保護だった頃のファマスを思い出し、優しい眼差しで見つめていた……。
※※※※※※
【漆黒の森・訓練終了後】
「まるで戦地帰りのような格好だな」
訓練は終わりを迎え、学友たちは全員集合していた。
その中で一人、異彩を放つのは勿論サラだ。
「いやー、危なかったけど、楽しかったよ」
タクティカルベストにはいくつもの穴が開き、手にした銃も傷だらけ。体には擦り傷まで残っている。
誰がどう見ても、激しい戦闘を潜り抜けたとしか思えない姿だった。
それでも脳筋姫は、屈託のない笑顔を見せていた——。
「サラは戦闘狂だな。しかし誰と戦ったらそうなるんだよ」
学友達はそんなボロボロの姿を見て、流石に疑問に思ったのだろう。
「色々よ。楽しい思い出かな(笑)」
しかし、今回のことを自分の口から話してはいけないと分かっているサラは、笑ってごまかすのだった——。
※※※※※※
【デルタ王国・とある貴族の屋敷】
それは雨の降る午後だった。
とある男爵の屋敷では、二人の男が真剣な表情をして向き合っている。
「融資の件と伺っているが、君は何者なんだ」
一人は鼻の下に横長の髭を生やしたゴードン・ペッパー男爵だ。
彼は領地経営が上手くいかず借金に苦しんでいた。
そこに、無利子で融資するという話が舞い込んでくる。
「新興貴族の仲間入りしたいだけの資産家ですよ」
もう一人は、女性と見間違えるほどの美男子だった。
ヴァルターが差し向けた裏組織の男、ジュリアンである。
融資を餌に、貴族社会に潜り込もうとしていた。
「それで融資の条件を聞かせてもらえるかな」
「一定期間、ペッパー家の婿として貴族籍を置かせていただければ、それで十分です」
ペッパー家には娘しかおらず、家を存続させるには婿を取る必要があった。
男爵にとって願ってもない条件だった——。
(形式上、婿を取る形にすれば良いだけか……)
娘はまだ子供だ。
ジュリアンを書類上婿扱いにすればなんら問題はない。
これで大金が転がり込んでくると考えたゴードンは内心で笑っていた。
「ペッパー家の一員として貴族特権を得られれば、それで融資をしてくれるというのか」
「もちろんです。まずは半年間の対価として、100万スカーをご用意します」
ジュリアンが欲しているのは貴族特権だ。
金に困っているゴードンなら、それなりの金額を渡せば、喜んで引き受けるだろう。
「ああ、それで結構だ。早速手続きに入る」
予想を超えた金額だったのか、ゴードンは二つ返事で承諾した。
「ありがとうございます。それでは商談成立ですね」
「くれぐれも悪さはしないでくれよ」
「勿論です。ご迷惑はおかけしませんよ」
普通なら貴族籍を一時的に得て、何を企んでいるのか聞くのが当たり前だろう。
しかし、欲に負けたゴードンは、現金欲しさにジュリアンが何をするのか気にしないようにしていた。
人間は追い込まれると、善悪の判断よりも自分可愛さから、不都合なことに目を背けてしまう。
(借金している奴など、まともな判断は出来ないのだよ)
ジュリアンもそれを見越し、金を餌にゴードンを取り込んだのだ。
この浅はかな行動が、近い将来デルタを混乱に陥れることになるとは、ゴードンは夢にも思っていなかった……。
※※※※※※
【クーン城・客間】
友好国であるクーン王国で問題を起こしたグレイスは、引き渡し条約に基づいてデルタ王国へ移送され、取り調べを受ける予定になっていた。
しかし未成年である彼は身元引受人が必要だ。
そのため、父親がクーン城に出向きアーレイと向き合っていた。
「アーレイ陛下、どうか寛大な処置をお願いします」
アーレイから事情を聞いたグレイスの父親は、顔を青ざめて深く頭を下げていた。
ジェフと親しいアーレイへの対応を誤れば、男爵の爵位さえ失いかねない。父親はそのことを十分に理解していた——。
「今回の事案は俺の一存では決められない。だからジェフと協議する」
「承知しました。ご配慮ありがとうございます」
要するにジェフに頭を下げる機会を与え、グレイスの処遇には一考の余地があると、含みを持たせていた。
アーレイの話を真剣に聞いていた父親は、少しだけホッとした表情をする。
バカ息子でも親としては心配なのだろう。
「だが、次はないと思え。もしまた何かしでかしたら、会社ごと潰すからな」
「肝に銘じますアーレイ陛下……」
ジェフの裁きには信頼を置いているアーレイだが、クーン王国としても今回の件に何らかのケジメをつけなければ面目が立たない。
そして、今後サラに手を出すようなことがあれば、全力で潰すと念を押した。
「……」
同席しているアデールの表情が穏やかなままだった。
平身低頭する父親の様子から、今回の事態を深刻に受け止めていると感じたのだろう——。
「グレイスをあのままにしたら、本当に家が潰れてしまう。ちゃんと叱ってやれ」
最後にアーレイは、同じ親として父親に言葉をかけた。
「はい、承知しました。ありがとうございますアーレイ陛下……」
グレイスの父親は、深く頭を下げ部屋を後にするのだった……。
※※※※※※
【護送中のグレイス】
「グレイス、全くなんてことをしてくれたんだ。相手は女の子だぞ、これが世間に知れたらどうなるか分からないのか」
宇宙港に向かうシャトルの中で、グレイスはこっ酷く怒られていた——。
「……」
ここで心を入れ替えて反省しなければ、彼の人生は本当に終わってしまうだろう。
さすがのグレイスも頭が冷えたのか、反省の色を見せていた。
(リリアが死んでから人が変わった)
平民の女の子を怒りに任せて殺害しようとした息子。
なぜ、このような愚行に走ったのか、父親には理解できなかった。
考えられるのは、妹のリリアの死だけだった――。
「後継ぎとしての自覚はあるのか! 陛下に睨まれたらお終いなんだぞ!」
父親は一度言葉を切り、息子を見つめる——。
「お前は……リリアが死んでから人が変わってしまった」
「申し訳ございませんでした……」
リリアは病に侵され、ある日、弱々しく息を引き取った。
なぜ、妹だけが死ななければならないのか。そう思いながら妹を見送ったグレイス。
それ以来、彼の心にはぽっかりと穴が開いたままだった——。
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