チーターは……。
チートの使用は程々に――。
【バーチャルRPG・漆黒の森】
「こいつ、絶対不正してる」
グレイスとの戦いは熾烈を極め、その異常な動きにサラは思わず口を開く――。
そもそも、短期間でここまで剣技を身につけるなど、あり得ない。
「どうしたサラ、その程度か」
「ふん、貴方には負けないから安心して」
サラは初めこそ、動きが違いすぎて対応が遅れていたが、撃ち合う回数が増えるにつれ、剣筋が見えてくる。
切先のブレや筋肉の動きから、次の攻撃まで先読みできるようになっていた――。
(所詮、付け焼き刃だし、間違いなくチートだよ)
グレイスの形は正統派だが、パターンが少なく、既に見切っている。
当人からしてみれば、防御しかしていないと映っているだろう。
(パパに教えて貰った抜刀か、ナイフ術のどっちにしようかな)
元傭兵だったアーレイに仕込まれたCQCを参考に、サラは既に攻略方法を見出し始めていた。
ザッ!
大きく後ろに下がり、一旦距離を置く――。
そして、両手ナイフのスタイルに変えた。
「なんだ、ナイフで勝つもりか」
「……」
サラは、煽りを無視して、腰を引いて構える。
次の瞬間——。
ドン!
弾けるように、グレイスに突っ込んでいった。
バキャーン!ギン!
グレイスの長剣の攻撃を弾き、カウンターをいなす。
その瞬間、グレイスの半身ががら空きになった。
そして――。
ズン!
左手に握られたナイフが、胸に吸い込まれた――。
「ガハッ!」
「ログアウトのお時間だね」
「クッソ、まだだ!」
バーチャルなので死にはしないが、それ相応の痛みに襲われる。
顰めっ面のグレイスは、まだ負けを認めなかった――。
「あきらめ悪いよね(呆)」
「グッゾー!」
シュン!
だが、グレイスが剣を振り上げた瞬間、忽然と消える——。
「強制ログアウトか、ザマァ」
運営がチートを感知して、強制的に回線を切ったのだろう。
まぁ、この後は厳しい罰が待っているはずだ――。
サラはちょっとだけ微笑みを漏らすと、狩を再開するため、森へ駆けてゆく。
シュン!
「えっ、私も?」
目の前の景色が一瞬で消えた——。
「ちょ、ちょっと! 私は何もしてないわよ!」
どうやらグレイスの不正について、参考人として事情聴取を受けるらしい。
サラもまた、強制的にログアウトさせられるのだった――。
※※※※※※
【翌日・Aクラス】
「……グレイス君来ないね……」
時間になってもグレイスは姿を現さず、連絡もこないことから、クラスメイトの女の子は、心配そうに空いた席を眺める――。
それはもちろん、チート行為が発覚し、謹慎処分を受けたためだ。
※※※※※※
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
謹慎を言い渡されたグレイスは、これ幸いとリリア復活のため、研究室に籠もっている。
だが――。
「ああ、だめだ。他は全く繋がらない」
視神経は繋がった――。
しかし、それを嘲笑うかのように、ボディは拒絶する。
八方塞がりの状況に苛立ちを隠せない。
「クッソ、忌々しい、全部アイツのせいだ」
うまくいかない事は全てサラのせいにして、自分を納得させる。
「……」
こうもイラつかれると、周囲の研究者に悪影響を及ぼしてしまう。
大人が一喝してしまえばよいのだが、役員の息子、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに静観するしか無かった――。
「グレイス、どうした。そんなにイラついて」
見かねた研究室のトップの男が、諌める言葉を掛ける。
「所長、積年の恨みを晴らしたい」
「んっ?物騒な事考えているのか?」
腐っても軍事会社の連中だ。
裏社会に精通していてもおかしくは無い。
裏の取引先だって普通にある。
グレイスはそれを見越している――。
「状況を打破したい。相談出来る知り合いを教えてくれないか」
「ふむ」
所長は腕を組み、しばらく考え込む――。
(役員の息子に貸しを作っておくのも悪くない。だが、こちらまで巻き込まれるのは御免だ)
「軍事会社の顧問を紹介するよ。後は君に任せる」
「ありがとうございます」
学生が決して踏み込んではならない領域へと、足を踏み入れようとするグレイス。
だが、彼はサラに対する憎悪を抑えきれず、暴走し始めるのだった――。
※※※※※※
【王族用・控室】
グレイスがチートを使って謹慎処分を受けたことが公になり、サラに手を出すと痛い目に遭う――。
そんな噂が流れ、取り巻き連中は完全に鳴りを潜めていた……。
「あー、ストーカーがいないから快適だわ~」
放課後、王族用控室に入ったサラは、大きく伸びをする。
久しぶりに清々しい学校生活を送れ、表情は晴れやかだ――。
「姫姉様、Aクラスのお貴族様は、お葬式状態ですよ(笑)」
「まぁそうだろうね。逆にうちは盛り上がっているけどね」
Fクラスにも貴族連中は多数存在している。
彼らはサラの活躍を純粋に喜んでいた。
何より、アークライト家のおぼっちゃまを快く思っていなかったのだ。
何だかんだで、サラはFクラスの人気者だ。
コンコン——。
盛り上がり始めた、そんな時だった――。
控え室の扉がノックされる。
「うふふ、ステイ、お茶会一緒に行きましょうよ」
「はっ?なにそれ」
鈴がコロコロと鳴るような、弾んだ声は――セシリアだった。
「これよこれ、貴方を探し回っているわよ(笑)」
セシリアは王印の封がしてある一枚の書簡を見せる。
どんなに技術が発展しても、伝統に則りお茶会の知らせは書簡で手渡すのだ。
「やっぱいた」
「サラピンチ!」
次に飛び込んできたのはバグウサギとダービッド。
これでクーン王族が勢揃い。みな手に書簡を持っていた。
「えっなにそれ……お爺ちゃんにもバレた(大汗)」
コンコン——
「此方にいらっしゃいましたか」
そして書簡を配り歩いていた執事のおっちゃんが、入って来ると、サラに同じものを渡す。
「げふん……サラ様……ジェフ陛下の書簡をお持ちしました(笑)」
「……」
見たことある執事だった。
彼は満面の笑みを溢す。
反対にサラの顔から、みるみる血の気が引いていく――。
※※※※※※
【デルタ王宮・客間】
休日の昼下がり——。
クーン王族、フォーレスト王族の五名は、煌びやかなドレスを身に纏い、背筋をピンと伸ばし王城の中を歩く。
「……」
少し遅れて歩く平民枠のサラは、ハンガーに掛けっぱなしだった水色のドレスを着ていた。
(ああ、もう、どんな言い訳すればいいのよ)
褒められたいけど、怒られるかも知れない。
心穏やかでは無いサラ。
楽しそうに先ゆく五人とは、正反対に表情は暗くなる一方だった。
※※※※※※
【クーン王宮・客間】
「久しぶりじゃのセシリア、息災だったか」
「ジェフ陛下、お招きしていただき、ありがとう存じます」
クーン王族の挨拶が終わり、セシリアがカーテシーを披露する。
優雅で繊細な所作は、誰よりも美しい。
「次、ルドルフ提督の……娘! 《《平》》《《民》》のサラ(笑)」
次はいよいよ平民枠だ!
わざわざ「平民」と付け加えるあたり、執事も完全に遊んでいる。
とはいえ、絶妙にカチンコチンのサラは、ギギギと、動きの悪い人形のように、ぎこちなく進みでた。
(ククク、これは愉快!)
ジェフはその一挙一動を見て、とても楽しそうだ。
「……サラと申します、ご招待ありがとうございます」
緊張していてもそこは王族。
セシリアに負けない程の綺麗な所作で、カーテシーを披露するサラ。
「ルドルフ提督の娘さん……か~(笑)」
絶妙な間の取り方。
そして、人前では見せない笑顔——。
(バレてるバレてる、無理無理無理!)
母親のフローレンスは、アーレイを追いかけ、無茶ばかりしていた。
ステイシーも、それを彷彿とさせるほど活発な娘だ。
しかし――裏表がない分、感情が顔に出やすい。
「……(大汗)」
貴族相手なら、能面のような無表情を貫けるサラ。
だが、お爺ちゃんを前にして、それは無理な話だった。
ヒクヒクと頬が引き攣り、目は泳いでいる——。
(もう顔に出とるぞ。さてと……)
ジェフは一歩前に出ると、しげしげとサラの顔を眺める。
まるで、偽装魔法の出来栄えを確認するかのように――。
そして――。
「お爺ちゃんは心配してるのだぞ(笑)」
「くっ!」
ジェフの一言は、あまりにも斜め上だった。
サラの顔が一瞬で真っ赤になる――。
「プッ!」
「ククク」
控えていた五人は笑いを堪え、部屋の空気がパァッと明るくなった!
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