決勝戦。
勝敗がつきますが……。
【優勝決定戦】
最終戦を迎え、闘技場にサラとルシアンが入場する。
これまで以上の歓声が沸き起こる中――。
「ジェフ陛下、お成りです!」
ちょうどその時、VIP席に国王ジェフが姿を現した。
その瞬間、会場にいた者たちが一斉に立ち上がり、国王への敬意を示すように、軽く頭を下げた。
「……おっと」
サラも慌てて周囲に合わせる。
――何しろ、サラにとってジェフは国王というより、おじいちゃんだ。
そのため、つい普段の感覚が抜けてしまったらしく、周囲より一拍遅れて、頭を下げる――。
「それでは、ただいまより――優勝者決定戦を行います!」
御前試合となったことで、先ほどまでの熱狂とは少し違う、張り詰めた空気が闘技場を包む。
「両者、位置についてください」
サラとルシアンが、ゆっくりと所定の位置へ歩いていく。
そして――二人は互いに剣を構えた。
「遠慮はいらんぞ」
「ええ、そのつもりです」
両者初戦なので間合いを読んでいるのか、直ぐには動かない。
ルシアンは高速剣、サラも身体能力を生かした早い攻撃が得意だ。
早ければ数合で決まるが、技量が肉薄していれば、派手な打ち合いが見れる筈だ。
ザッ!
先に動いたのは――サラだった。
キン!
軽く剣を打ち合わせると、すぐさま距離を取る。
そして――ルシアンは追撃してこなかった。
(自分の間合いに入らなければ、攻撃しないのか……)
今はまだ、互いに相手の技量を探り合っている。
(パワー押しなら勝てるかもしれない……)
そしてルシアンは――ひとつの答えを、導き出した――。
「――そこだ!」
ドンッ!
一気に踏み込む。
ガキィィィィン!
「くぅぅぅ……」
凄まじい速度の一撃。だが――サラは受け止めた。
「我が剣を受けただと!」
「うわぁ、最高! あなた、いい剣筋ね!」
サラの口元が嬉しそうに吊り上がる。
「では――」
キンッ! バキャン! ガキン! キン! キン! ギャン!
次の瞬間――。
二人の剣が激しくぶつかり合った。
目で追うことすら難しい連撃。
斬る。弾く。かわす。そして、また斬る。
それはまさに――剣の乱舞。
「……」
観客席から声が消え、誰もが息を呑み、二人の戦の舞に釘付けになっていた。
サラの華奢な身体からは、想像もつかないほどのスタミナ。
そして、ルシアンの高速剣を受け止め続ける驚異的な剣技。
その姿に、ルシアンの口元も自然と緩んでいく――。
「楽しいぞ……楽しいぞ! 剣はこうでなくては!」
一方――サラもまた、笑っていた。
速く、鋭く、これまで戦ってきた誰よりも、剣の技量が高い――。
「ああ、最高!嬉しい、筋肉が悲鳴を上げているわ」
限界。だからこそ――楽しい。
誰もが、体格に勝るルシアンが徐々に有利になると思っていた。
だが――。
サラは、まだ余裕を失っていない。
そしてついに――決戦の時が訪れる。
「……あなたの剣は軽いわ」
サラがポツリと呟いた――。
「……なんだと?」
その瞬間――。
バキャキャキャキャンッ!
「なっ――!」
サラの連撃が、ルシアンの剣を次々と弾き飛ばす。
力任せに押し返しているわけではない。ルシアンの剣が触れる瞬間、その力をわずかに逸らす。
そして――速さを殺さず、その勢いだけを相手へ返す。
高速剣を完全に見切ったサラは、一気に距離を詰めた。
「ガフッ……!」
「楽しかったわ……ありがとう」
切っ先でもない。
柄でもない。
それは――鞘だった。
サラの鞘が、ルシアンの鳩尾へ深々と食い込んでいた――。
「勝者――サラ!」
「うわぉぉぉぉ!」
「凄いぞサラぁぁぁぁぁ」
会場から、割れんばかりの歓声が湧き上がる――。
これまで「狂剣」と呼ばれていたサラに対し、今度は惜しみない称賛の声が送られていた。
だが、そんな大歓声の中――。
グレイスだけは、憎悪に満ちた目でサラを睨みつけていた。
「アイツだけは……生かしておけない、今に見ていろ……サラ」
闘技場を包む大歓声とは裏腹に、グレイスの呟きだけが、静かに響いていた――。
※※※※※※
【王族用・控室】
「どうしたの、ステイシー。浮かない顔して」
剣術大会で見事優勝したにもかかわらず、賞状やトロフィーはテーブルの上に無造作に置かれ、本人はどこか寂しそうな表情を浮かべていた――。
「おじいちゃんがね……なんか、すごく微妙な顔してたの、平民枠なのが……気に入らなかったのかな」
偽装魔法によって、現在のステイシーは一般枠の女生徒――サラとして振る舞っている。
そのため、表彰式でジェフと顔を合わせても、国王と平民という立場で接するしかなかった。
「それは仕方ないよ」
本来なら、孫娘として思い切り褒めてもらえるはずだった。
「まぁ、そうなんだけどさ……」
しかし優勝者として賞金を受け取った時のジェフの反応は、いつもの祖父とは少し違っていた。
いつもなら満面の笑みで迎えてくれて、「よくやった」と褒めてくれる。
だが、自分の失態で、それが叶わなかった。
それが、ステイシーには寂しかったのだ――。
「そもそも、ステイが勉強しなかったのが原因なんだから」
「もう、それ言わないでよ!ちょっと寂しくなっただけなんだから!」
ステイシーは頬を膨らませる。
脳筋娘と言えども、思春期の女の子だ。
色んな思いが交差して、心落ち着かないのだろう――。
「はいはい、RPGで気分転換でもしてみたら」
「そうだね、稼がないとね!」
立ち直りの速さはサラの良い所?
扱いに慣れているアイラはクスッと笑うと、去り行くサラの背中を見詰めていた――。
※※※※※※
【バーチャルルーム】
意気揚々とバーチャルルームを訪れると……。
「へっ?」
ログイン中に襲われる心配のない、カプセル型のバーチャルシステムは満員御礼状態だった。
「げっ……なんでこんなに混んでいるのよ……」
女子を優先しているのにも関わらず、もう既に予約でいっぱいだ。
一年生のサラが優勝したことで、その冷め止まない熱気に煽られ、殺到したのだろう――。
「狂剣は後でいいよね!」
「いやいやいや、お金稼がないと」
優勝したし、金一封も出たし、遠慮しなさいと、いう事だろう。
困っていると、管理者の女性がサラに大きな箱を渡す――。
「貸し出し用がありますので、それを使って下さい」
「ラッキー、じゃお願い!」
喜ぶサラに渡されたのは、1式戦闘機で使うものと同じ、ベッドマウントディスプレイだ。
要するにこれを持ち帰り、ベッドに寝てログインして使えという事だ――。
「くれぐれも、セキュリティーを上げてお使い下さい」
「分かってますって。ログイン中は無防備なんでしょ?」
受け取ったサラは意気揚々と部屋を飛び出す――。
「ククク、絶好の機会が訪れたな」
去り行くサラの後ろ姿を睨むのは、あのグレイスだった。
負けた屈辱を晴らしたい。
完全に逆恨みだが、彼の心は憎悪に塗れていた。
「さて、準備をしないとな」
見境を失ったグレイスは、ログイン中のサラを襲うつもりだ――。
※※※※※※
【E・F専用女子寮・サラの部屋】
サラがバーチャルルームを後にした数十分後。
誰もいないにも関わらず、セキュリティキーの作動を知らせるランプが光る。
ピッピーーカチャリ――
扉のロックが解かれ、静かに開く。
だが、人影は見えない。
代わりにヒタヒタと静かな足音だけが小さく鳴いている――。
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