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勇者と魔王  作者: 夢乃良
3/3

その3(最終話)

カギ括弧を修正しました。

魔王は【】

勇者は『』

それ以外を「」

括弧の中身の最初と最後を違う存在がしゃべっているときは「ニンゲン 魔王】等という表記に変更しました

 雑踏の中、あたりをきょろきょろと物珍しげに歩く人物がいた。

 幾度となく人にぶつかりそうになり、その都度「誠に申し訳ない」と謝られた方が恐縮するほど丁寧に謝罪しながら歩いているので、遅々として歩が進まない。

 その上、露天商の売り物に歩みを止め。

 数歩歩いてはショーウィンドーに釘付けとなり。

 周囲の視線は「お上りさんなのかな」という生暖かいものだったが、本人は気づいていないようである。

「ふむ…」

 とあるショーウィンドーの前。まじまじとその人物が見つめているのは飾ってあるきらびやかな洋服ではなく、ショーウィンドーの下に無造作に置かれた空き缶。

 缶というものは、中身を宣伝する何かしらが記載されているはずであるが、全くの無地。

 つい先ほど缶を作る工場から出てきたばかりで中身はおろか塗装もまだだと言われても納得するほどである。


--空き缶はゴミ箱に捨てる、というのがルールであったか…


 出発前、つい先日までこちらに滞在していた同僚から聞いた話である。

 曰く、道路にゴミがないのは皆がきちんとゴミを捨てているからであり、まれに落ちているものがあれば気づいたものが捨てるべきであると。

 確かにゴミが少ない事に感心したのは確かで、これも社会奉仕の精神であると言われてしまうと自らの仕事に近しい気もして少なからず喜びもするのだから「仕事という病である」と言われても致し方ないかもしれない。

 思案顔は一瞬で消え、缶をひょいと持ち上げたはいいが


--で、ゴミ箱とはいかなる形なのだろうか。


 缶を手にしたまま再びあたりをきょろきょろとしながら歩き始め、何歩も歩かぬうちに誰かとぶつかり

「誠に申し訳ない」

「あ、いや、此方も前をよく見ていなかった、済まぬ」

 道ばたで二人の人物が互いに謝罪合戦を始めていた。




「ところで、どこかへ行かれるところだったのでは?」

「あ、いや…これを拾ったもので、ゴミ箱を探していたのですが…」

 手には無地の空き缶。一瞬身じろぎでもするように動いたような気もしたが、まさか空き缶が動くわけがない。とその考えを瞬時に却下する。

「どのような形のものをゴミ箱と呼ぶのか、思案していたもので」

「遠いところから旅行に来たのですな」

「まあ、そんなところです…。ところで、あなたが手にしているものは何でしょうか?見たことのないものですね」

 自分の手にある白い何かを不思議そうに見つめているところからして外国からの旅行者か。自分もさして変わらないが、ここへは幾度か訪れているので自分が手にしているものがなんと呼ばれているかは知っている。

「ハリセン、というものだ。一般人は使うことはないのだろうが、芸人などの一部にはこういうものを使った笑いを取るものがいる。実物を見たのは自分も初めてだが」

「ふむ、面白いものなのですね」

 相手が手を伸ばそうとした矢先のことだった

【ならぬ! それに触ってはならぬのだ!】

 触ろうとした相手の口から、相手の行動を否定する言葉が飛び出してきた。

『だめよ! その言葉に惑わされないで!』

 お互いに顔を見合わせる。それぞれの意思と無関係に言葉が口から飛び出すという珍事に戸惑っている顔を自分もしていたのだろう。相手が苦笑し、自分も苦笑した。

「何が起きているかおわかりだろうか?」

「わかるが、わからぬ…としか言いようがない…」

 どうしたものか、と続けようとした矢先のことである

『相手は魔王なのよ! だまされずに倒すことを考えなければならないの!』

 自分の口から飛び出した言葉に、相手が驚愕の顔つきになった。自分など腰が抜けるほどの驚きだ。間違いなく相手と同じ顔つきになっている。

「魔王…だと…」

【わが輩が魔王である! あがめるがいい!】

 相手の表情からして違うことは明白である。今にも倒れそうなほど顔に血の気がない。

『勇者である私が成敗します! 安心なさい!』

 口は勝手に動いているが、せめてもの抵抗として首を横に振る。自分が勇者など、とんでもない。

 相手が缶をそれこそ握り潰さんほどに強く握り、わなわなと震えている。どうしたのか、と問おうとするのと相手の声が…それこそほとばしる叫びのような声が飛び出すのはほぼ同時だった


「魔王などという成敗対象のものとこの(わたくし)が同一になるなど、なんとおぞましい!」

 …なんだと…?

『そうです! 魔王など成敗するものでしかないのです! なぜ私の宿主があなたでなかったのか悔やまれるわ!』

「全くその通りだ…」

 なんという僥倖か。たまにはニンゲンのまねごとで休みを取ってみるものだ。

「久しくその姿を見ないでいると忘れるものだな、神を傲るものに名を連ねる卑しき眷属よ」

「そのものの言い方…そうですか、貴方はこの魔王などという不遜な名乗りをするものの眷属でしたか」

「自分はそのような頭の悪い形をした何かを王と戴いた記憶などはないがな」

『では、意見は一致しているんだし、その魔王を成敗…』

「だが、魔王と呼ばれる存在を否定するのも気分が悪い」

 自分の言葉を自分で否定するのも気分が悪い。自分がいらついていることは自覚していた。

「休暇をとったつもりが、思わぬ収穫になりそうです」

「それは此方の台詞だ」

 1匹でもこの眷属を屠るのもまたよいかと思っていた、その一瞬の後

【わが輩にもっと光を!】

「…は?」

 2つの台詞は一人の口から出てきた。先に自称魔王が言い、次はあの神の眷属らしい。

「魔王が光を求めるのか…?」

「それを自分に聞くのか…?」

【何を言うか! わが輩の世界征服のために、光り輝く世界は必要であろう!】

「世界征服と光に何の関わりがあるのだ…?」

【スイートピーが育たぬではないか! 我が分身をひと株に1つ進呈し、輝く世界に…!】

「ギラギラとまぶしいだけではないか!」

 訳のわからぬ魔王と名乗る何かの台詞を垂れ流す神の眷属の頭を手元のハリセンで思い切り叩いてしまった。知識にあるよりもずっといい音がした。

 叩いた直後、手元のハリセンが消えた。よく見ると神の眷属の手の中からも空き缶が消えていた。

「何を…した…愚かなものの眷属よ…」

「アレの正しい使い方をしたまでだ。よくわからんものに乗っ取られたままでは埒が明かない」

「それについては同意するが感謝はしない!」

「ここで同族を呼ぶのか? 好きにしろ。自分も当然呼ぶとわかった上での行動であろう?」

「当然だ!」




その後。ハルマゲドンと呼ばれるものが起こったとか起こらなかったとか…

人のいない、砂漠とも砂浜ともつかない砂の上に、並んで空き缶とハリセンが置かれていたが、手にすることができるものは現れなかった。

正式タイトルは「ハリセン勇者と空き缶魔王」だったのですが、壮大な出落ちなのでハリセンだの空き缶だのを取っ払いました。

最初にタイトルを思いついたが為にできあがった話ですが、楽しんでいただけましたら幸いです。

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