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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第二章
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生まれ変わりの許嫁(7)

「うっ!」

 俺の後ろでうめき声がした。

 振り向くと、霊奈れいな狐林こりん鳩尾みぞおちに鉄拳を食らわしていた。

 白目を剥いた狐林は、ヘタれたような格好で地面に座り込んだ。

「いきなりかよ」

 俺が霊奈に文句を言ったが、霊奈は冷静だった。

「仕方がないじゃない」

 霊奈の視線を追って、再度、前を向いて見ると、白のワイシャツに黒のネクタイ、黒のスーツというお決まりの格好の連中八人が俺達の方に歩んで来ていた。

 闇の騎士だ!

 そんな連中の姿を見ても、魅羅みらは驚いていなかった。魅羅もプライベートアーミーのことを知らないはずがないのだ。

 俺や霊奈、魅羅のような神聖自由党議員の家族であれば、神聖自由党の裏組織であるプライベートアーミーのことを知っているが、狐林の父親は霊魂管理庁に勤める只の公務員だ。闇の騎士のことも、そもそも結界のことなどの知らない世界の住民なのだ。だから狐林を巻き添えにすることはできないし、知られることも駄目だ。

 と言うことで、霊奈が狐林の気を失わせた訳で、狐林には「ご愁傷様」としか言いようがない。

 などと考えているうちに闇の騎士達がゆっくりと迫って来ていた。

「あんたら、どこの組織なの?」

 霊奈が腰に手を当て挑戦的な目で訊いたが、答えてくれるはずもなかった。

 そもそも、黒スーツに黒ネクタイ、黒サングラスというコーディネイトは、すべてのプライベートアーミーに所属している闇の騎士に共通している。一説には、どこの派閥のプライベートアーミーに属しているのかをすぐに分からないようにしているためだとも言われている。

 全ての派閥がプライベートアーミーを擁していて、非合法な活動を行っていることは、神聖自由党員であれば公然の秘密で、お互いに触れてはいけないアンチャッタブルな事実だ。つまり、仮に家族がプライベートアーミーに消されたとしても、残された家族は、そのことを言ってはいけないし、言ってしまいそうだと判断されれば一緒に消されるだけだ。

「誰がターゲットなのかしら?」

 重ねて、霊奈が訊いたが、やはり答えはなかった。

 霊奈が、一旦、顔の横に上げた右手を勢いよく振り下ろすと、その手には細身の剣が握られていた。普段は隠している武器を自在に取り出す「携帯武器」と呼ばれる闇の騎士の技だ。

 闇の騎士上がりの龍岳りゅうがくさんには敵が多い。そのやいばは、龍岳さんの三人の娘達にも向けられることがあった。だから、幽奈ゆうなさん、霊奈、そして妖奈あやなちゃんの三姉妹は、自己防衛のため、闇の騎士の技を教え込まれていた。

 俺も右手を一旦、顔の横に上げて、勢いよく振り下ろすと、その手に大きな鎌のような武器が握られていた。龍真さんが愛用していた武器「青龍聖玉大鎌せいりゅうせいぎょくたいれん」だ。

 これを持っているだけで体から力がみなぎってくる。それは、俺の肉体の中にいる龍真さんの霊魂がサポートしてくれているからではないかと勝手に思っている。

 もともとは龍真さんの肉体である俺の体には、俺の霊魂と霊奈の兄でもある龍真さんの霊魂の二つの霊魂が宿っている。もちろん、主導権を握っているのは俺の霊魂で、龍真さんの霊魂は普段はその存在すら感じることができない。しかし、一つの肉体の中に二つの霊魂があることで、俺は、特に戦闘時には、超人的な能力を発揮できるようになっていた。

真生まお! 魅羅ちゃんと山里君を守ってあげて!」

 俺に告げると、霊奈は、そのまま闇の騎士達に突っ込んで行った。

「魅羅! こっちへ!」

 俺が気絶して座り込んでいる狐林の近くに寄り、魅羅を呼ぶと、魅羅は大人しく俺の側にやって来た。

 ふと霊奈を見ると、闇の騎士達を前に立ち止まっていた。

「どうした、霊奈?」

 俺が焦って訊くと、霊奈は、後ずさりしながら振り返り、戸惑った表情を見せた。

了堅りょうけん先生が」

 よく見ると、八人の闇の騎士達の前に一人の羽織袴姿で白髪頭の老人が立っていた。

「お爺様!」

 その姿を見て、魅羅が叫んだ。

 魅羅のお爺さん? ――東堂とうどう了堅りょうけんか?

 霊奈が小走りに俺の近くに戻って来た。

 そして、東堂了堅と思われる人物が闇の騎士達を従えて、ゆっくりと近づいて来た。

「久しぶりだね、御上霊奈君」

 思いも寄らない人に出会ったようで言葉が出なかった霊奈から俺に視線が移った。

「君が永久ながひさ真生まお君だね?」

「そうだけど? あんたは?」

「これは申し遅れたね。東堂了堅と申す。もう説明はいらぬと思うが?」

 龍岳さんよりもかなり小柄で声も甲高いが、存在感や威圧感は半端ない。さすが一つの派閥を率いていた実力者だけのことはある。

「いきなりの襲撃、どういうことだ?」

「おやおや、これは済まなかったね」

 了堅さんが闇の騎士達に手を振ると、騎士達は全員その場から消えていなくなった。

「君達を襲うつもりなんてハナからなかったよ。そんなことをする意味もない」

「それなら、どうして結界を張って、闇の騎士を差し向けたのですか?」

 霊奈が了堅先生に訊いた。

「君達のこと、いや、正確に言うと、真生君のことを調べさせてもらったのだ。その武器は龍真君が愛用していた『青龍聖玉大鎌』だね?」

 結界を張って、闇の騎士達を対峙させたのは、どうやら、俺が青龍聖玉大鎌を出すことができるかどうかを確かめたかったからのようだ。

「そうだとしたら?」

「真生君が龍真君の生まれ変わりだという噂は、どうやら本当だったようだね」

「龍真さんと俺は三歳しか違わないんですよ。どうやって生まれ変わると言うんです?」

「真生君、君の出自について調べさせてもらったよ」

「……」

「龍岳先生は、君は奥様の遠い親戚という説明をされていたが、その証拠は何も掴めなかった。むしろ、君は、突然、この世界に現れたようにしか思えないのだが?」

 何も反論できない。それが真実だからだ。

 霊奈も明らかに動揺していた。

「まあ、それはどうでも良いことだ」

 了堅先生がニコッと笑った。それまでの威圧的な表情とのギャップが激しい愛嬌のある顔だった。好々爺としか思えないその笑顔で有権者達の支持を集めてきたのだろう。

 何はともあれ、俺の出自について、これ以上、追及されなかったことで、肩に入っていた力が抜けた。

「驚かせて済まなかったね。今日は、魅羅が大好きだという真生君がどんな人間なのかを見に来たのだよ」

「そんなことなら結界を張らずとも普通に会いに来れば良いじゃないですか!」

「まあ、危機に直面した時にどういう行動を取るのかも見せてもらいたかったのでな」

「どうして、そんなことまで?」

「もし、君が魅羅と結婚をするのなら、儂の跡取りにとも考えているのだ」

「はあ?」

 俺もそうだが、霊奈も驚いていた。

「結婚って、いきなり、そんなことも考えていたのか?」

 俺は魅羅に訊いた。

「ええ、だって、その約束をしていたのですから」

 染めた頬を両手で覆って照れてるんじゃねえよ!

「だから、結婚の約束をしていたのは龍真さんで、俺じゃないだろ?」

「それは分かってます。でも、私は東堂宗家の一人娘。私の旦那様はお爺様の跡を継いでいただかないといけないのです。つまり、私が好きな人は、私と結婚して、東堂の家に入ってもらって、輝星会の将来を担っていただかないといけないのです」

「だから、俺達は友達から始めようって、今朝、話したよな?」

「はい。だから、お爺様は、まだ知らないんです」

「あっ……」

 俺と霊奈は思わず顔を見合わせた。今日は家に帰らずにアキバに来ているから、魅羅が今朝の話を了堅先生にまだしていないのも当然だ。

「えっと、了堅先生。少し誤解があるようなので、ちょっと良いですか?」

 俺は、今朝の魅羅との話をかいつまんで、了堅先生に話した。

「うむ。それはそれとして了解した。しかし、魅羅が真生君を好きなのは変わっていないのだろう?」

「はい、お爺様!」

 そう答えた魅羅を可愛くてたまらないというような顔をした了堅先生が、また、俺に視線を戻した。

「真生君、あらゆる角度から君を調査させてもらって言えることは、君は魅羅の相手として相応しいと言うことだ」

「いやいやいや、どういうことですか?」

「闇の騎士が迫った時にも動じない胆力、それと政治家としての才能も未知数なところもあるが、何より人を惹きつける魅力を持っているところが大きい」

 地界での自分を知っている俺自身は、俺に魅力があるということが信じられないが、龍岳さんの後援会の人からも可愛がられているところから言うと、自分でも気づかない魅力があるのかもしれない。もっとも、それも龍真さんのお陰かもしれないけど。

「了堅先生」

 それまで口出しをしなかった霊奈が割り込んで来た。

「真生は、父龍岳の後継者候補です。それを横取りされるおつもりですか?」

「聞いているよ。でも、龍岳先生には、もう一人後継者候補がいるはずだろう? 霊奈君、君だよ」

「そ、それは」

「龍真君亡き後、真生君が現れるまでは、自分が龍岳先生の後継者になるつもりだったのだろう? 成績優秀でソウルハンターにもなっている。遠い親戚ではあるが、他人に近い真生君より、実の娘である霊奈君の方が、ずっと後継者として適任だと思うがねえ」

「それはお父様が決めることです!」

「まあ、そうだろうけどね。でも、真生君が龍岳先生の後継者になったら霊奈君はどうするんだい? ひょっとして君達は婚約しているのかな?」

「えっ?」

「つまり、真生君は御上家の婿養子となるつもりなのかな?」

「そんなことになっているのですか。真生様?」

 魅羅が俺に迫って来た。

「そ、そんなことは全然決まってないよ」

「本当ですか?」

「本当だよ! なっ、霊奈?」

 同意を求めようと霊奈を見ると、霊奈は顔を真っ赤にして固まっていた。

 

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