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第39話 心躍らない

「ちょっと! ねぇ、ヤダ!! 待って! ほんと、ほんとヤダ! 待って! 無理だから! 本当に無理だから! やーだー!!」

「何が嫌やねん! 嫌だし無理なのはこっちの方じゃい!! アルカナなんて何かしら犯罪臭する奴等だと思ってたけど、他人を犯罪者に仕立て上げるタイプなんて想定外だわ!」

「あはは! アルカナなんてねぇ、所詮人族に役立つ強い人かって判定基準しかないの! そんなの大抵、尖り切ってるか歪み切ってるか、どっちかしか居ないに決まってるじゃない!!」


 我はまだ鬼畜に堕ちとうない。

 その一心でこの腰にへばりつく女を引き剝がしながら事務所の出口を目指す。


 しかし流石機人族の戦闘担当と言うべきか、力が強い、強過ぎる、あらゆるダメージによっても決して破壊されない、『不壊』の付与魔法が無かったらこの服は簡単に引き千切られていただろう、それくらい力が強い、遠慮無さ過ぎる。


「話聞いて! 最後まで聞いて! テス、テスタ、ファースト!! 助けて!」

「なんで迷惑かけてる側が助け求めてるんですか……、もう、ララァ様、ここは話だけでも聞いてあげた方が賢明ですよ。断るのはそれからでも遅くはないでしょう」

「……あー、もう! 分かった、分かったから放して本当に服伸びるから!」


 私が逃げない事を信じたトロワがゆっくりと体から離れる。


 刹那、今なら出し抜いて逃げ果せるのではと考えが過るが、驚く事に、この短時間で私は肩で息をするほどに体力を消耗していた。


 話しだけも聞いてあげた方が良い、テスのその説得には賛成せざるを得なかった。


「はぁ……ふぅ、対象の男性の名前は『ロッキー』、この街ではそこそこ名の通った考古学者で、およそ1カ月前、ここから南西の森の中にある村で見つかった遺物を調べる為に向かって、そこでトラブルを起こして捕まったみたいなのよ」

「……トラブルの内容は? それによっては流石に請け負いきれないぞ」

「その遺物って言うのが、所謂『禁足地』って所にあったみたい。大方、入ってる所を見つかって、問答無用で……かしら。ロッキー氏からそんな内容の手紙が家族に届いたのが数日前、少なくとも、今の所は無事であるのは間違いないわね」


 あぁー、と私は納得する。

 古くから存在するような、ド田舎レベルの村には神聖な獣だとか、精霊だとかを祀る祠を立て、土地を守る風習が存在しているのはよくある話だ。


 かく言う私の故郷の村もそうだ、村の爺さんが毎週のように『あの祠を壊したんか!?』と子供を怒り散らしていたものだ。


 だが罪を犯したとはいえ何も知らなかった者を1カ月も拘束するか?


 手紙で伝えていない余罪があるのか、いずれにせよ、手紙からはこれ以上の情報は得られないだろう。


「貴方のアルカナの肩書を使えば、囚人の解放くらい簡単では?」

「最終手段ね。簡単にそんなことしたら肩書を頼った客が噂を聞きつけて押し寄せて来るわ。仕事が増えるのは嬉しいけど、犯罪者を助ける為の肩書じゃないからね」

「ふむ、そういう理由でお前が行く訳にはいかず、かと言って今ここに居る唯一の社員であるレイジだけ向かわせる訳にもいかず。そこに丁度私とテスが居た、と言ったところか」

「そう言う事、2人の実力は疑う余地はないし、信頼も出来るから、これ以上に適した人材は居ないわね。いやぁ運が良かったわ! 偶々ほとんどの社員が出払ってたからどうしようか悩んでたのよ!」


 実力を認められて信頼も出来ると言われて嬉しいが、じゃぁ囚人の脱走を手伝ってね、って言われて喜んで頷く奴は居ないだろ。


 そう言って断れたらいいのだが、さっきのやり取りを経験した以上、断るという選択肢は実質存在していない。


 ……いざとなればトロワの指示でした、と言えば良いか。

 これから起こり得るかも知れない最悪の事態に備え、私は今の内から対応策を考えるのだった。


「では長期に家を離れる旨、ギルドに相談しておきましょうか」

「……だな、何日家を空けることになるか分からんが、都合の良いハウスクリーニングが手配できるのだろうか」

「また私が留守番しましょうか?」

「いや、一緒に居て欲しい。堕ちる時は一緒だよ」

「……そうですか、堕ちたくはないですね」


 思えば今回が首都タナトスに住み始めて初めての遠征になる、旅はいつだってワクワクするのだが……


「こんな心躍らない冒険が今まであっただろうか」

「……私の記憶では、無いと思います」

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