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第37話 第1世代

 昨日、レイジから招待を受けたことをテスに相談した私は翌日の今日、テスを引き連れて『便利屋ナナツボシ』なる場所へと向かっていた。


「しかし妙な事だな。ギルドという物があるこのご時世に便利屋だとな」

「情報によると、ギルドで請け負いきれない依頼を代わりに引き受けるとか、下請け、という意味ではなく、ギルドを通すまでもない簡単な事から、ギルドを通したくない仕事まで幅広く行ってるみたいです」

「ギルドを通したくないって……要するに裏仕事だろ、よく大々的に商売できるもんだなぁ」

「社長がアルカナ『戦車』で、アルカナは首都タナトスによって多少の違法行為は容認されているんですよ」

「マジか、出会ったアルカナ全員頭がぶっ飛んでるじゃん」


 放火のロスウェル、誇大妄想癖のアルッセナ、それに続いて裏商売の『戦車』、最早何も驚くことはない。


 あと1人のレギアスとか言うのも何かヤバい奴だとしても私は驚くことはないだろうし、むしろ、アルカナで一番の危険人物を知りたいとさえ思っている。


 カラカラと笑いながら話を聞く私と違い、テスは妙に浮かない顔をしていた。


「どうしたテス? 何か心配事でもあるのか?」

「あぁ、いえ、実は他に得た情報によりますと……。そのナナツボシの社長と副社長は、どうやら『機人族』らしいのです」


 そこで私は思わず体が硬直し、歩くことをやめてしまう。

 首都に来る前の馬車でロスウェルが言っていた事を、ここで思い出した。


 ロスウェルの知り合いの機人族、色々と繋がる部分がある、断片的な情報を繋ぎ合わせると、私もまたテスと同じ懸念に辿り着いたからだ。


「『第1世代』か」

「そうなんですよ……はぁ……会わす顔が無いですね」


 機人族は子を成さない、代わりに自分のコピーを作り出して人口を増やす。


 機人族は『第1世代』を始めとし、第1世代の模造が第2世代、第2世代の模造が第3世代、と、世代を重ねる毎に『模造の模造』を繰り返し、見た目も性能も、人よりも機械部分が目立つようになる。


 つまり、より人に近いテスが『第1世代』に当たるのだが、テスの他にも、第1世代が他にも数名存在している。

 第1世代はその破格の能力を有していることから、滅多に機人族領から出ることがないが……無論テスのような例外は存在している。


「冒険者として戦闘能力や演算能力に長けた、適正のある第1世代は居ます。おそらくこれから会うのはその内の誰かでしょう」


 テスが機神となったのは『総合能力が高く、合理的だから』だった。

 しかしこれから会う第1世代は総合能力はテスに及ばない物の、1点の能力に限ればテスを上回る者の可能性もある。


 争い事になることはないはず、だが万が一を考えれば、下手に刺激しないように気を付ける、その心構えが必要になってくる。


 再び歩き始め、やがて目的の建物に辿り着く。

 庭付の2階建て、綺麗な一軒家、そして目立つ『便利屋ナナツボシ』と書かれた看板、その前に、レイジが立っていた。


「……あ、ようこそ、お待ちしておりました」

「やあレイジ。待たせてしまったならすまない」

「こんにちは、社長は中に?」

「ええ、社長がお待ちしています、どうぞ」


 玄関のドアを開き、私達は中へ通される。


 1階部分は仕事場として作られているのだろう、広い空間には他の部屋への扉らしきものは見当たらず、多くの本棚や高そうな調度品に囲まれ、その中心に、デスクとイス、ソファがまとめて置かれていた。


 そして、デスクに座ってこちらを見ている女性が1人、その人が『社長』だとすぐに分かった。


 それと同時に、テスの方から小さな溜息が聞こえる、つまり、相手が顔見知りである、と言う事だ。


「ようこそ! 待ってたわよ2人とも、あと久しぶりね『ファースト』!!」

「……よりによって貴方ですか……『ナンバー3』……」


 テスと社長が、お互いを『本名』で呼び合う、いや、テスタも本名と言えば本名なのだが、機人族だけが伝わる、『識別番号』とかなんとか、昔聞いたことがある奴だ。


「今は『トロワ・ヒルメルズ』って名前よ、ファー……じゃなくてテスタよね。それでそっちの獣人の貴方が、神獣ライカ、よね?」

「……私の事も知っているのか」

「そりゃね、赤髪の機人族の女性と獣人族の狐の女の子が、ロスウェル・クルーの推薦を受けて冒険者になった……。まさかと思って調べたらテスタだし、そしたらテスタと仲の良い獣人と言えば神獣ライカと見るのが当然、でしょう?」


 トロワに促され、私とテスはソファに座る。

 トロワもまた、デスクを立って私達の近くの椅子に座り直すのだが、その移動するまでに、気になる所があった。


「杖をついているが、足が悪いのか?」

「……みたいですね、『鑑定』しましたが、左目、左腕、右脚……、いずれも義眼と義肢ですね。一体、何があったのですか? 『戦闘特化型』の貴方なら、これほどの大怪我を負うことなどあり得ないでしょう」

「話せば長くなるのよ。ま、それも含めて話しましょ? 私は知りたい情報を提供する、代わりに私の仕事を手伝って欲しいの。どうかしら、決して損はさせない自信はあるわよ!」


 テスと同じくらいデカい胸を張って、自信満々にトロワはそう言う。

 だが、私とテスはお互いを見合って、同じ考えであることを確認する。


「……言うて、それほど今知りたい事ってすぐ思いつかないなぁ」

「無難に金品で交渉してくれた方が、こちらとしても受けるかどうか、判断し易いのですが」

「!?」


 予想外の回答だったのだろう、見るからに『衝撃を受けた』と言う顔をして、先程までの余裕ある澄ました……いや澄ましてはないか、自信のある態度から打って変わり、あわあわとし始めた。


「も、勿論金銭的な報酬も検討するわ! でもでも、獣神ライカは昔散々金銀財宝を貯め込んで持て余してるって聞いたし、今更金品で喜ぶとは思わないじゃない、世の中情報よ? 情報は重要よ?」


 あれ、もしかしてこいつは想定外に弱いって、そういうポンコツか?


 私はテスにアイコンタクトすると、テスはやや残念そうに頷いて返す。

 機人族の多くは不測の事態に滅法弱い、それ自体は珍しいことではないが、同じ機人族のテスを見慣れたせいで、ここまで狼狽えられるとまるでこちらが虐めてるような錯覚を起こしてしまいそうになる。


「……そうだなぁー、それなら、えーっと。今後何か困ったら頼らせてもらいたい、ほら相互扶助、助け合いだ」


 私の提案に、しょんぼりとしていたトロワの目に輝きが戻る。


「……つまりビジネスパートナーって事ね! 良いじゃない、そういう関係嫌いじゃないわ!」

「お、おう……おう! そういうこと!」


 思ってたより何か、対等かつ強固な関係を結ばされた気がしなくもない、だがトロワなら、別にその関係を悪用することはないだろう、というか、そういう思考に至らなそうな気がする。


「それなら、積もる話を済ませてから依頼の話をしましょ! レイジ、お茶を淹れて頂戴!」


 先程の調子を取り戻したトロワが、外に控えているレイジを呼ぶ為に席を立った、そのタイミングを見計らい、テスがぼそっと小さな声で話しかけてきた。


「……すみません、一応身内が気を遣わせてしまって……」

「……良いって事よ」


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