第22話 受付嬢ミスティ
商業区ギルド支部の扉を開き、私は足を踏み入れる。
外から見るとあまり大きい建物だとは思わなかったが、冒険者らしき姿だけでも100人は優に超えるだろう、広場に集まっていて、依頼の受付窓口は10か所、中で何人もの職員が忙しなく働いているのが見える、私の知っている昔の冒険者ギルドでも、最大規模でもこれの半分くらいだった。
「あ、そこの君! そんな所に居ると人が通れないよ!」
ギルド職員の制服を着た、水色の腰まで長いツインテールの女性が私にそう注意する。
「わ、わわ、す、すまない……」
「はっはっは、嬢ちゃん迷子かい? 気にしなくていいぞ。あの受付の姉ちゃん、怒ると怖いからなぁー」
「聞こえてるぞー!」
慌てて扉から離れ、通ろうとしていた軽装の戦士の男に謝る。
戦士は豪快に笑って許してくれたが、都会に圧倒される田舎感丸出しな自分自身に恥じ入った。
「全く……で、本当に迷子なの? それとも、ギルドに用事?」
「あ、えーっと……知り合いから紹介で、ここの支部長に会うようにって言われてて……」
「あぁ、そうなんだ。今から支部長ちょっと用事あるからさ。私が代わりに対応するよ。私は『ミスティ』、このギルドの受付をまとめてる立場なんだ」
「そうか、私はララァ、ここにロスウェル・クルーと言う男から預かった紹介状があるんだが」
「へぇー、ロスウェル………ろろろろろロスウェルぅ!?」
紹介状を受け取ると同時に、ミスティはその名前に大声を出して驚いた。
ミスティの大声に周囲の冒険者も驚き、静かになる。
「あはは、何でもないよ」と彼女が取り繕えばすぐに元の活気に戻ったが、ミスティに手を引かれ、私は受付の中に通された。
「え、っと……君、これ本当にロスウェルから? 開けて良い?」
「多分……誰にも見せるなとは言われてないはずだ」
「…………うーわ、この字、本当にロスウェルじゃん。君、ともう一人に対する冒険者推薦状だねこれ。まじ? あいつがこんなの書くなんて、ロジャーローズちゃん以来だよ」
「そんなに凄いことなのか?」
「凄いってもんじゃないね、あいつ頭パッパラパーのチャランポランだけど、見る目だけは本物っていうか、まぁあいつ自身本物っていうか、とにかくあいつに認められるってことは相当な実力者って証拠にもなるの」
あいつやっぱり頭パッパラパーていうのは、誰にとっても共通認識なんだな。
だがそれと同時に『ただの紙1枚の証言』でここまで実力を認められるのは逆に言えばロスウェルがそれだけ信用を得ている証拠でもある。
ってことは私が万が一何かしら問題起こせばロスウェルの立場が危うくなり、ロスウェルが問題を起こせば私達にも何かしら不利益を被るんじゃないだろうか、……大丈夫なのか? あいつの趣味を考えれば、一抹の不安が頭を過ってしまった。
「これは確かに支部長に直接話をした方が良いねぇ、もうちょっと待っててね、今から『コンサート』だから」
「コンサート?」
ミスティが指差す方向に目を向ける。
確かにギルドの室内、その中央に確かに舞台のような物があると思っていたが、本当にそうだとは思わなかった。
私も演劇や演奏会、という物を知っているが、ギルドの中にそのような舞台があるなんて見た事も聞いたこともない。
「ほーら、出てくるよ。良かったねララァ、ここは特等席だよ」
ミスティの言葉を聞き、指を向けた先を注視する。
周囲の明かりが薄暗くなり、それを合図に冒険者達が一気に静かになる。
カツン、カツン、靴の音が鳴り響いたかと思えば、『その人』は現れた。
女性、年齢は人間で言うなら20歳だが、正確には分からない。
何故なら尖った耳が見えたから、彼女が『精霊族の森人』だと分かったからだ。
桃色の髪は腰より長く、蓮の花を模した髪飾りが目立ち、白い肌が一層映えるようにするためか、黒いドレスは煌びやかなデザインではないが、控えめな装飾が逆に彼女の容姿の美しさを際立たせている。
そして特に目を引くのが、『憂いを帯びた顔』、それら全てが合わさって、『彼女の独特の美しさ』を表現していた。
エルフの女性が『マイク』と呼ばれる、機人族発明の拡声器を手に持ち、一呼吸。
「彼女1人か? 曲は誰が演奏するんだ?」
「舞台の下に、機人族の発明品があって、予め記録した音を流す機械を仕込んでるのよ」
ミスティの言葉が終えると同時に、舞台から音楽が流れてくる。
ピアノから始まるメロディに合わせ、1つ1つと楽器の音が加わる、そして彼女の歌った、その瞬間、生まれて初めて『心を揺さぶる音楽』を聴いた。
「……どうだった? って……その様子なら好印象かな」
ミスティの声で我に返る。
始終夢見心地だった、いや、実際夢だったのではないかと疑う程だ、心に強く響いたはずなのに、しかし記憶に多く残らない、それが無性に『寂しい』と感じる、そんな曲だったことだけは覚えている
「不思議な歌だな、詩人が奏でる詩や音楽隊の荘厳な曲とは全く違った」
「でしょ、支部長の歌声に合わせてギルド職員総出で作曲したんだから」
「ふむ、あの曲は『歌声の魔力』を高める効果もあるのか」
「……へぇ、そっかそっか、ふぅーん」
何か変なことを言ってしまったのだろうか。
ミスティは私の顔をまじまじと見つめた後、何かを納得した様子だった。
「流石ロスウェルの推薦を受けただけあるね。それじゃ、支部長に会わせてあげるから、付いておいで」




