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第21話 レギアス・レイヴ

 ララァがギルド支部に到着するのと同じ頃、場所は変わり、首都タナトス中央、『ギルド本部』。


 ロジャーローズに引き摺られていたロスウェル・クルーだが本部の最奥近くにある、『特別会議室』と名付けられた場所へ運ばれる。


 ギルドの方針や一般の冒険者には周知されたくない話など、最大レベルの機密を守るために厳重な防音素材と魔法で作られたこの部屋はアルカナと呼ばれる冒険者、もしくはそれらに認められた者であれば、好きに出入りが出来るようになっている。


「ロスウェルを連れてきました」


 ロジャーが扉を叩くと、中から『どうぞ』と老齢の男の返事が聞こえてくる。

 一息ついてから、扉を開けて入室する。

 過去に何度も行っている事だが、彼女はこの『圧倒感』に慣れることはなかった。


「何度もご苦労、本来は私がやるべきことのはずなのに、君には迷惑をかけてしまうな」

「問題ありません、彼の扱いには慣れていますから、では私は外にて待機していますので、失礼します」


 最低限の明かりしかない、暗く重苦しい印象を受ける会議室の奥、革張りの椅子に腰かけるのは、1人の『白い鎧の騎士』だった。


 アルカナ『正義』、レギアス・レイヴ。

 首都タナトスの騎士団、『最高司令官』にして『人族最強の騎士』。


 挙げた武勲は数知れず、その中で最も輝かしいのはかつて1つの小国を滅ぼし、1万を超える民と兵の命を奪った災厄級の竜に単騎で挑み、そして無傷で打ち倒したという逸話であった。


 未だに吟遊詩人の多くはこの功績を詩にするし、子供たちのおとぎ話として本にも書かれている、いわば『生きる伝説』、 首都タナトスのほとんどの民が彼を『今の英雄』とも呼ぶことさえある。


 それほどの有名な彼であるが、顔全体を覆う兜で素顔が見えず、また、人前で鎧を脱いだ姿を一切見せたこともない。

 唯一分かるのはそのしわがれた男性の声から少なくとも男性である、ということだけだった。


「……人の模範であるべき者が、こういった場が苦手だからと逃げ回りおって」


 レギアスの低い声は怒りではなく呆れたものだった。


「んーなこと言ったって、嫌なものは嫌なんすよ。俺、こういうの柄じゃないんで」


 ただの騎士団員であればレギアスが声を発するだけで委縮し、一瞬でも説教だと感じれば平伏して震えあがる者さえ居る。

 だがロスウェルもまたアルカナと呼ばれる冒険者、そんなことに動じることはない


「全く……、では本題に入ろう。先日、王から我々に命が下された。世間を騒がす『祝福の御子』なる者を捕えよ、というものだが……」

「嫌っす。俺は冒険者っすから、国の犬じゃないんで」

「だろうな、安心しろ、元々当てになどしておらん。だがこれは注意喚起だ、国が我々に直接命じたという事は、これに応じる『アルカナ』が居ないとも限らんだろうからな」

「……その『応じる奴ら』にあんたも入るんすか?」


 部屋の空気が変わる、明らかに冷たく、重たい。


 多くの人が知る『ロスウェル・クルー』はそこには居なく、明確な殺意、獲物を狩る巨大な毒蛇の幻覚さえ視えてしまうほどの殺気で目の前に居る『最強の男』を威嚇する。


 レギアスを倒せるなどと微塵も思ってはいない、だが、そこまでして『祝福の御子』を守ることに対して、ロスウェルなりの理由が存在しているのだろう。


「ロスウェル、お前の為に2つ、はっきりさせておこう。私もまた、『祝福の御子』を捕えよという王の命に疑問がある、ゆえに、今はまだこれに応じるつもりはない。……それと、倒せないと分かっていて殺気を出すのは無意味だ、お前なら本気を出せば、相手に悟られる前に殺せるだろう」

「分かってんすよ、別にあんたとバチバチやりたいなんて言う奴……。何人か知ってるっすけど、俺は嫌なんで。っていうか、応じるつもりはないって……、あんたの立場でそれ、言っちゃっていいんすか?」

「ははは、私は王の剣ではない、ただの人だ。納得できる理由もなく武を振るえばそれはただの人殺しで、私がそれを行うことで、王は暗君に堕ちてしまうだろう。私は王ではなく、あくまで『英雄タナトスの国』に仕えているのだ」


 先程の一触即発の気配は一瞬で消え失せ、再び静寂の中で会話を再開する。


「故に安心するといい、少なくとも御子がこの国に繋がりがある以上、御子は私が守る対象だ。しかし御子がこの国と、世界を脅かす存在と分かれば、その時はお前には理解してもらいたい」

「……あー、いいっすよ。今はそれで十分っす。一番やり合いたくない相手を回避できたんすから、いざとなった時の為に『恋人』と『戦車』に手回ししてたんすよ」

「……お前、いざとなったら本気で私を殺す気だったのか……?」


 首都タナトスにはロスウェルを除けばアルカナが3人存在している。

 彼の目の前に居る『正義』レギアス、そして『恋人』と『戦車』。


 ロスウェルだけを相手にするなら、レギアスは間違いなく勝てるだろう、だが特性は違えど実力はレギアスに迫る程にある『恋人』と『戦車』が加われば最強と言われるレギアスであっても、勝てたとしても間違いなく無事では済まない。


 自分の知らないところでガッツリと殺害する段取りを組まれていたことに、レギアスは流石に内心震え上がる気持ちであったし、他にも2人が前向きに協力しようとしていることにショックを受けていた。


「まぁ、良い。いや良くはないが……この件はこれで終わらせよう。もう1件、私からお前に依頼をしたいことがある」


 レギアスは1枚の紙をロスウェルに渡す。

『行方不明者 詳細』、紙の一番上に大きく書かれた文字がまず目に入る。

 そして1人の人間の名前、年齢や性別、職業、身体的な特徴までが事細やかに書かれていた


「……騎士団の人っすか」

「最近のことだ、南の『魔獣の森』で奇妙な霧が観測された。行方不明になった彼は、その調査隊の1人だったのだが、周囲に人が居るにも関わらず、霧が晴れた瞬間に忽然と姿を消したそうだ」


 『奇妙な霧』という表現にロスウェルは訝しんだ。

 本来魔獣の森という場所は、異常成長した獣達、『魔獣』が多く生息する場所で、強い個体でも炎を吐く、水を吐くなど、発達した器官を用いた攻撃をするくらいだ。


 『霧』を発生させ、人を襲うというのは『幻術』という魔法に類似しており、それを用いる『魔獣』など、その魔獣の森には居ないはずだった。


「なるほど、『行方不明者の発見、及び可能であれば救出』、そんでついでに『原因の排除』ってことっすね」

「話が早くて助かる。人選はそちらに任せる」


 ロスウェルは紙を懐に仕舞い、会議室を出る。


「随分と長かった、仕事の話?」


 外で待っていたロジャーに対し、ロスウェルは口を開く。


「仕事っすよ、ロジャーには人を呼んできて欲しいっす。俺は他に、声かけたい人が居るんでそっち行くんで、それじゃまた後で」



 ロスウェルの頭の中には、2人の人物の姿が浮かんでいた。

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