第18話 拗れる人族領事情
無事に封印された魔獣の件は片が付き、村に平穏が訪れる。
……と、全てが丸く収まるなんて簡単には行かなくて、逃げた前村長について行こうという村人は居らず、結局、このまま今村長がこの村を治めるということになった。
まぁ、ここから先は彼らの問題だ。
これ以上厄介事が起きないことを願いつつ、村長が用意してくれた空き家で一夜を明かすことが出来た。
そして翌日、ロスウェルを迎えに来た馬車に便乗して私とテス、そしてロスウェルは首都タナトスに向かった。
「っつーことは、ララァさんもテスさんも超ド田舎に住んでて、ここ最近の世界情勢に疎い……ってことっすか」
「う、うむ。だから良ければ色々教えてもらいたいんだ」
「……しかしいくら田舎育ちでもほぼ全部を最初から……。ままま、良いっすよ、それじゃまずはララァさんに関係する所から」
『実は私達、伝承に出てくる神様やってましたー』、なんて信じてもらうこともできない暴露も出来ず、非常に苦しいその場で考えた設定をゴリ押しして納得してもらった。
「首都タナトス……に限らず、今人族の各国で『獣人の人権』で結構揉めてるんすよ。つっても昔よりは良い方向にはなってるっす」
「と、言いますと?」
「獣人下位種の奴隷制度、これを続けてるのは今じゃ上級層とか身分の高い人だけなんすよ。中流階級の商人はたまに安い金で働かしたりするけど、一般層はもうほとんど、下位種に偏見も差別もしてないっすね」
「時代の流れで、人族の中のそういった意識も薄れていった……か」
「その辺はもうちょっと拗れた事情があるっていうか……。まぁ要するに、首都タナトスに限って言えば獣人の奴隷を見かけることはあんまりないと思うっす、居ないって訳じゃないんすけど」
良かった、と安堵するには早すぎるが、少なくとも人族の多くに獣人族を許す動きが見られるのは朗報だろう。
「しかし人族領を代表する都市でさえ、何故そんな意識の違いがあるのでしょう」
「その拗れた事情つーのが、『天使派』と『精霊派』なんすよね」
「……まるで宗教争いみたいな派閥抗争だな」
「宗教争いっすよ、王族や貴族は天使から授かる啓示によって政治をしてるっす。対して民衆を含む大多数は精霊王エリアロフィが『精霊の石碑』を通して得られる情報を信じてるんすよ。だから天使派と精霊派って訳っす。んで精霊派、つまり反奴隷派のアルカナも何人か居てっすねぇ」
あぁ、そういえばそうだったと思い出した。
エリアロフィの話す声は空気中の魔力を介して発せられるもので、これは聞き手の魔法の素質に影響されるのだ、要するに『素質ある人以外はエリアロフィの声が聞こえない』のである。
それを解消するために、特別な魔法触媒で作られた石碑を使い、エリアロフィに文字を書いてもらうことで人々に彼女の声を届けれるようにしたのだった。
つまり、何らかの理由で獣人族下位種を奴隷にせよと言った天使と奴隷を使って国を築いた王族と貴族にとって、エリアロフィは邪魔な存在、と言えるのではないだろうか。
エリアロフィとライカは仲間である、ライカの眷属である獣人を奴隷にするなとエリアロフィに言われるのは奴らにとって、かなり都合の悪い話だろうからな。
「で、精霊族領にあった『精霊の石碑』は数年前破壊されたっす。犯人も目的も不明なんすけど、皆首都タナトスの王族や貴族を疑ってんすよ。でもそれによって、もう誰も精霊王エリアロフィの声を聞けなくなった……んすけど!」
「お、おう……何があった?」
ロスウェルが自分の腿を手でパン、と叩き話を盛り上げる演出をする。
突然のことにちょっと驚いたが、話を続けるように促した。
「なんと精霊族から、『エリアロフィの声を直接聞くことが出来る』って人が現れたんすよ、過去何年も、そんな人が現れなかったのに、人伝に聞くには、その人の周りに膨大な魔力が自然に可視化できるくらい輝いて、それを精霊族の偉い人らが『エリアロフィの祝福だ』って大騒ぎしたらしいっす」
「なるほど、それは確かに本物ですね」
「でしょ? で、そこでまた問題が……」
「石碑を壊した何某かが、その人の命を狙ってるってことか」
ロスウェルが頷く、まぁそれはそうなるよなって話なのだが。
ここで私に1つの疑問が生まれる、それはきっとテスも同じ疑問を持ってるだろう。
王族と貴族、そして天使共は何をそこまでエリアロフィを恐れているのか、エリアロフィは、何を知っているというのか。
いやそんな大層なもんじゃないだろうな、エリアロフィ、私達が居ない間にお前は一体何をやらかしたと言うんだ?
「ただ幸いなことに、天使連中でさえその『祝福の御子』と呼ばれる子を見つけれてないっす。あ、ちなみにこれトップシークレットっすよ?」
「………? なんでお前が知ってるんだ?」
「多くは教えれないっすけど、御子さんは今人族領で冒険者として生きてるっす、それだけなら不安っすけど、仲間に『仁狼』が居るから大丈夫かと。そして、そのパーティーをこっそり守ってるのが俺達『アルカナ』って訳」
『?』が1つ、2つ、頭の上を飛び交い始める。
『アルカナ』は国が認めた冒険者だろ、何故、国側であるこいつらが
国の敵になりえる存在を助けているのか、そして『仁狼』とは誰だ?
「簡単に言えば……ってかこれが理由なんすけど。俺達アルカナって呼ばれる冒険者のほとんどが国の偉い連中を嫌ってるんすよね。人族の希望なんて持て囃されて、お高くとまらなければならない、だから国の有事以外の人助けなんてしてはならない……って言われてるんで。俺があの村に行ったのは依頼っすけど、身分を隠さないとこういう人助けもさせてもらえない、それが『アルカナ』っつー奴っす」
「……優秀な冒険者を国、王族が権力を振りかざして無理やり高い地位に就かせ、自分達の駒にしようとしてる、という事ですね」
「あいつらの間違いは、俺達がそんな命令や束縛でどうにかできるもんだと思ってるって所っすね、唯一王族に従っているのは首都タナトスの騎士団長、アルカナ『正義』の『レギアス団長』くらいっすよ」
「……知れば知るほど、人族の情勢は随分と厄介なことになってるな」
天使と上級層はエリアロフィを邪魔者扱いし、声を聞けるって奴を消そうとし、それを国が認めた最強級の冒険者達が阻止してる。
頭が痛くなってきた、ここまで拗れると例えこの場に神獣ライカや機神テスタが現れたところで何かが変わる、変えられるとは思えない。
『神獣ライカと獣人族の確執』それはもう『私達だけの問題』ではない。
我が身の勝手、その代償の重さを改めて思い知らされてしまう。
「……ちょーっと話し過ぎた、っすかね。まぁでも、ララァさんやテスさんになら話しても大丈夫でしょ。
「ええ、私達なら大丈夫ですよ。少しややこしい話で混乱しますが、私達の目的は変わりませんから。冒険者になって世界を旅する、ですよね、ララァ様」
「あぁ……そう、だな」
「そっすね、もし良ければその旅先で『祝福の御子』さんを見かけたら、そんで何か困ってたら助けてあげてほしいっす」
「運良く出会えれば、な。しかし『仁狼』ってのが居るんだろう? お前が言うには随分腕が立つようだが……」
「仁狼はここ最近、18歳という年齢で冒険者になったばかりの若者なんすけど、師から貰ったっていう『金色の槍』で魔物をばっさばっさと薙ぎ倒し、狼のような鋭い目、しかし心は優しく謙虚で、『俺はまだまだ先生に及びませんから』が口癖だとか……」
「あのすみませんちょっと」
思わず私は手を挙げてロスウェルの言葉を止める、その特徴に当てはまる人物を私もテスも良く知っているからだ
「その若者の名前、『ジン』とか言わないか?」
「あれ、もしかして知り合いっすか?」




