第10話 魚より肉が好き
早朝に目を覚ましてしまった、妙に懐かしい夢を見たせいで目を覚ましてしまった。
山の向こうの空が明るくなっているのが分かる、季節と日の出時間から察するに、大体5時くらいだろう。
私こと、ララァの朝は遅い、早い時は9時、遅ければ11時。
つまりこの時間に目が覚め、意識が覚醒していることは稀で、なんというか、眠いけど二度寝できる自信がない。
……シンプルにつらい。
「だが何かしら、私がこの時間に目覚めたことに意味があるのかも知れない。きっとそうだ、そうに違いない」
くぅ、とお腹の鳴る音が聞こえる、紛れもなく私のお腹の音だ、何という事だ、今日も絶好調にご機嫌で可愛い私はお腹の音もとても可愛らしい。
ふと昨日の夕飯の内容を思い出す、川魚、それも成人男性の腕と同じくらいの太さの活きの良い魚、それを刺身だとか塩焼きだとか、とにかく魚のフルコース。
今思い出してもあの香り、塩加減、脂の乗り、全てが美味しかった、ドワーフは鍛冶しか能が……じゃなくて得意であって、料理の腕がここまで凄いのは正直かなり驚いた。
その腕に驚いたからこそ、私の頭の中には今、食べたい物が1つ浮かんでいた。
「この時間なら市場でいくらか店が開いてるかもしれん……、肉、肉が食べたいぞ……」
肉だ、鹿、豚、鳥、羊、熊。
何でもいい、生でもいい、言い過ぎた、しっかり焼いてないと嫌だ、私は獣人族、つまり獣だ、そう、獣ゆえに肉を求めている。
市場で肉を買って店主に料理してもらおう、店主の腕ならどんな肉に何しても美味しい結果にしかならんだろう。
よし、私の心が決まった以上、善は急げだ、私の中の獣人メーターは獣が90%で、人が10%くらいだ、知能指数も同じくらいだ、さぁ行こう。
「テスー、ちょっと出かけてくるから……って寝てるか」
布団に潜り込んでいるテスに声をかけてみたが反応はない。
昔聞いたことあるんだが、機人族は睡眠と食事を必要としないらしい、だがその機人族の神であるテスは普通に食事するし、めっちゃ寝る。
機人族の設定はどうした。
「テスは何でも食うから私の好みで良いだろう……」
手早く着替えを終え、私は店主から借りた錠前を外し、ドアノブに手をかけ……。
ドォン! ドンドン!
「ひょえあぁ!?」
かけた瞬間だ、ドアがめちゃくちゃ強く、何度も叩かれている。
この目覚めが尿意から来るものだったらもう手遅れだったかも知れない、運が良かったな騒音の主、そして私もな。
「兄貴! おい兄貴、そこに居るのか!?」
ドアの向こうから男の声、とてつもなく焦った声をしているがここには兄貴は居ない、姉貴が2人だけだ。
「なんだ、ここは宿泊客しか居ないぞ」
「マジかよ……だったらやっぱり兄貴は……くそ! どうしたらいい、いや分かってる、どうしたらいいのか。俺にできるのか、やらないといけないんだ、あの時!」
「どうしたどうした、落ち着け、話聞いてやるから」
男の様子にただならぬ気配を感じた私はとりあえずドアを開ける、仮に暴漢だったら一発殴ればそれで解決する、……そう覚悟を決めていたが、ドアの先に居た男を見て呆気にとられた
「あんた、昨日の自警団員じゃないか」
「君はあの時の! いや、それは良い、兄貴が、兄貴、あぁ、兄貴って言っても俺は人間で兄貴はドワーフだ。実の兄弟じゃなくて、俺がゴロツキの頃からずっと世話になってて……」
「そんなことはいい、店主がどうしたって言うんだ」
「そ、そうだ……兄貴らしい人がオールドクリフの兵士に何処かに連れていかれるのを見たって人が居て……まさかって、まさかって思ってここに来たら兄貴が居なくて……」
狼狽えながらもそう自警団員が言った。
宿内の争いであればもしかすると私が、いや他にも何人か客が居るはず、その誰もが気づいてないというのであれば、店主が外に出た所を狙って連れ去ったのだろう。
オールドクリフの兵士、そういえば私達がここに来た時に、店主と争った兵士の捨て台詞を聞いた。
『この事を必ず後悔させてやる、近いうちにな』
近いうちって言うか、翌日やん、いくらなんでも近すぎるやん。
……じゃない、危機だ、それもかなり逼迫した危機だ、兵士の報復で店主が怪我でもしたら朝食は、そうだ、これは我が身の危機だ。
「今ならまだ追いかければ間に合うはず、任せろ、店主は必ず連れて帰る」
「本当か……!? で、でも兵士の部隊だぞ、君1人で何ができるんだ!?」
「ララァ様なら大丈夫かと……私も行った方がいいですか?」
「起こしてしまったか、まぁ私1人で大丈夫だろ、二度寝でもしとくといい」
ではお言葉に甘えて、とテスはもう一度布団に潜り込む。
自身に比べてあまりにも余裕ある私達の態度に、自警団員は少し呆けた顔をしていた。
「あ、あぁ……えっと、兵士はかなりの数が居る。町を東に出て少し歩けば橋があって、その近くを拠点にしているはずだ。連れていくとしたら、そこしかない。……自警団の仲間を集めたら、絶対後を追いかける」
なるほど了解した、腕を軽く回し、歩きながらストレッチを始める。
「だが何故、こんな……ただの客なんだろう? 体を張って助けてくれるなんて……」
そんなの決まってるじゃないか。
今の私は肉の気分だからだ。




