第107話
だがその瞬間、コードルルーはどういうわけか突然上昇、回転し、さらに下降、また上昇を高速で繰り返した。
つまり彼はどういうわけか定位置にとどまることをせず、くるくると宙を駆けずり回り始めたのだ。
無論彼の放った電子線は明後日の方角へ飛び去り、大気中に分散し何らかの分子により捉えられ結合させられることとなった。
つまりミルキィことマルティコラスには何の物理的変化も生じることはなかったのだ。
「あっ!」レイヴンはじめ一行が叫んだのは、その結果が確認された次の瞬間でのことだった。
そして次に確認されたのは、鳥の姿だった。鳥たち、というべきか。
まず恐らく最初に猛スピードで上空から降りて来たのは、イヌワシだったのだろう。その翼が強く羽ばたき、ルルーを飛び上がらせた。
そしてその直後に来たのはオオサイチョウ。頭についている、カスクと呼ばれる大きな黄色い兜で、ルルーを地面目掛け叩きつけた。
最後に到着したのは、エジプトハゲワシだ。彼も翼で気流を作り、憎き双葉を上空へ吹き飛ばしたのだ。
「てめえ双葉!」救済に駆け付けた三羽のうち最初に怒鳴ったのは、イヌワシだった。「好き勝手にできると思ったら大間違いだぞ!」
「こっち来い!」次に叫んだのはオオサイチョウ。「がちんしてやる! こっち来い! がちんだ!」
「貴様の仲間はどこにいるのか」最後に声を挙げたのはエジプトハゲワシだったが、彼だけは怒鳴りも叫びもせず冷静に、あるいは冷徹に言った。「そこへ案内せよ。さすれば貴様らをすみやかに全滅させてやろう」
「はは」ルルーは負け惜しみのように苦笑しつつ態勢を整え、新たに出現した者たちをその赤い目で順に見た。「ふむ、まずはエジプトハゲワシ、次にオオサイチョウといくか。イヌワシは特に需要もない」そう言ったかと思うとエジプトハゲワシの方に視線を固める。
「あ、危ない!」レイヴンは瞬時に、ルルーが何をしようとしているかに気付き触手を双葉に向け突き伸ばした。
「需要がないって誰のことだ!」だがそれよりも早く、そう怒鳴ったイヌワシが再びルルーを吹き飛ばした。「まあてめえらの需要なんざ嬉しくもねえけどな!」
「そうだ!」オオサイチョウも続けて叫ぶ。「こっち来い! がちんしてやるから!」
「まあ落ち着けよ」ルルーはいまだに負け惜しみを続ける様子でせせら笑う。「それじゃお望み通り、一羽ずつ片づけ」
「ほげえええええ」
その時、ひどく調子外れな声が轟いたかと思うと、第四の鳥が大空より舞い降りて来た。
「我が国での狼藉は許さんぞほげええええ」
全員が目を見張る。
その鳥は着地すると同時に、威風堂々たる上尾筒、尾羽を覆う鮮やかな色彩の羽を凛々しく広げて見せたのだ。そこには、美しくも反逆を許さぬとばかりに睨みつける目のような模様が並んでいた。インドクジャクだ。
「おお」レイヴンはその美麗を極める姿に息を震わせた。
「うわあ、すごい」オリュクスも、
「きれいだなあ」キオスも、
「美しい」コスも皆が感動を口にする。
「へへへほげええええ、ありがとねほげえええええ」インドクジャクは相変わらず調子外れな声で礼を述べた。「君らレイヴンたちだよねほげえええ」
「あ、はい」レイヴンが慌てて自己紹介をする。「ぼくがレイヴンです」
「ほげええええ」インドクジャクは頷く。「そんでこいつが、悪名高きタイム・クルセイダーズの双葉か」ルルーに振り向く。「ほげえええええ!」調子外れながら威嚇し、広げた羽をばさばさと震わせる。
「ゲストが多すぎるな」ルルーが呟く。「やはり対象は絞るべきか」
「レイヴンたちだって?」
そこへ新たなる『ゲスト』が声をかけて来た。
「あっ」キオスが逸早く反応する。「アジアゾウさん!」
「どうも」「どうもね」「はいどうも」アジアゾウは数頭連れだって来ており、それぞれに鼻をくるくると動かしながら歩き近づいた。「レッパンから聞いたよ」
「あ、こんにちは。お世話にります」レイヴンは恭しく挨拶をした。
「これは」ルルーがどこか深刻そうに呟く。「エネルギーの残存量は……」
「どうしましたか」
そこへ更なる『ゲスト』の声がした。
皆が振り向き、そして見上げた。
それは巨大なる動物、インドサイだった。
「こ、こんにちは」レイヴンは気圧されつつも挨拶を述べた。
「おう双葉の野郎、今日がてめえの年貢の治め時だ、覚悟しやがれ!」イヌワシが怒鳴り、
「そうだ! こっち来い、がちんしてやるから!」オオサイチョウが叫び、
「貴様の仲間をすべてここに呼ぶがいい」エジプトハゲワシが冷徹に告げ、
「すでに裁きはついているほげええええ」インドクジャクが調子外れながらも言い渡し、
「レッパンの言ってた通りだね」「双葉と一緒だね」「大型のネコ科だね」アジアゾウたちがそれぞれに確認し、
「何かお困りですか、お手伝いしましょうか」この場における最大種のインドサイが状況を汲み取ろうとする。
「ああ、やはりチャージが必要か……拠点に……やはりミルキィだけを連れて……」ルルーが行動方針を画策する。
「ミル」レイヴンは思わずつられてその名を呼びそうになったが「マルティは連れて行かせないぞ!」急ぎ訂正し断言する。
「わー」マルティコラスは自分の名が二通り呼ばれたためか、返事をするように鳴いた。
どどどどどどどど
その時、新たに何者かがやって来る気配が全員に届いた。
それは大地を揺るがす音であり、風圧であり、匂いであり、温度であり──
「うわあ」現時点で最後に到着したインドサイをして驚嘆させるほどの存在感だった。「これはまた、でっかい生き物が来ましたねえ」
そして次にレイヴンが検知したのは、
「うん、レイヴン」
と真っ直ぐに呼び掛けて来る、声だった。




