森の村『グリーン・ノーム』 3
エートルという少年の事を、王女ロゼッタは幼い頃から知っている。
彼は本当に努力家だった。
剣の道を究めようとしていた。
そんなエートルに触発されるように、ロゼッタも王女である地位でありながら自分を鍛えようと思ったのかもしれない。幼い頃のエートルは眩しかった。イリシュが好きになる気持ちもよく分かる。そう、二人は婚約の関係にあると言っていい。
そして、イリシュの励ましによってエートルは物語に登場するような“伝説の勇者”のようになりたいと願って、危険な森の訓練にも身を投じている。
ただ、ロゼッタは二人の関係を見ながら、自分もゆくゆくは国を背負っていく立場として強くあろうとした。もしかすると、何かが違っていたら、自分もエートルに恋愛感情を抱いていたのかもしれない。分からない。
エートルは、最近になって『固有魔法』を使える兆候があるらしい。
エートルにしか使えない魔法だ。
それは、どうも光の力を持つ魔法みたいだとエートルは言っていたが、まだちゃんと開花していない為に詳細は彼自身にも分からないらしい。
ロゼッタのエートルへの期待値は相当に高かった。
彼なら、やはりドラゴン達をいつか討てる可能性があるのではないか……。
†
森の奥に進んでいくと、小屋があった。
「あれ、何かしら?」
ロゼッタは小屋を見つけて興味深そうにしていた。
「とにかく、入ってみない?」
ロゼッタは、イリシュとエートルの二人に告げる。
「そうですね。なんで、こんな場所に小屋があるのか分かりませんし…………」
三人は小屋の中へと入ってみる事にする。
小屋の扉には鍵が掛かっていないみたいだった。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
エートルは扉を叩く。
すると、中から神父姿の眼鏡を掛けた男が現れた。
「おやおや、君達はなんだい?」
「貴方、この森の中で暮らしているのかしら?」
ロゼッタは、男に訊ねる。
「そうだね。ずっと、この森に住んでいる。何しろ、昔に教会を追放されたからねえ。……とにかく、中へ入るといいよ」
ロゼッタは不審な表情で男を見ていた。
「とにかく。中へと入りなよ」
男は丁重に、三名を案内する。
グリーン・ノームの住民なら、自分の顔を知っている筈だが、あえてロゼッタは自らの素性を隠そうと思った。
自分が国家ジャベリンの王女だと気付かれても、瓜二つの別人だという言い訳でも通そう…………。
†
三人は温かいココアを出される。
エートルとイリシュは何の警戒心も持たずに、ココアを口にしていた。
ロゼッタは、牛乳アレルギーだと嘘を付いてココアを口にしなかった。
「そうか。ごめんねえ。後はお茶なんかもあるんだけど」
神父姿の男は言う。
「お気持ちだけで大丈夫です」
ロゼッタは、にっこりと笑った。
「処で君は、何処かで見た事がある筈なんだけどなあ」
「気のせいですよ。よく有名人に似ているって言われます」
ロゼッタは、含みのある笑みを浮かべる。
…………やはり、この男は何か怪しい。
「神父様、お名前は何て言うんですか?」
エートルがココアを飲みながら、気さくに訊ねる。
「僕は名も無き神父とでも呼んでくれ。あるいは、ただの神父とでも。昔、教会を追放された時にね。素性を名乗る事を止めたよ。もう、僕には素性なんてものは意味が無くなったのだからね」
「そうですか。じゃあ、神父様って呼びますね」
エートルは笑う。
「それでいいよ」
神父姿の男も笑った。
「それで、神父様。この森に住んでいらっしゃいますが、モンスターは怖くないんですか?」
エートルは首を傾げる。
「この先にある山脈には、巨大な体躯の一つ目の怪物であるサイクロプスが出るよね。それくらいの怪物も、僕なら倒せる。一応、魔法使いとしては、そこそこの実力があるからね」
「では、この俺に稽古を付けて戴けませんか? 俺はジャベリンの王宮で騎士を目指していて、一刻も早く強くなりたいんですっ!」
そう言って、エートルは胸元に手を当てた。
「ちょっと、いきなり、この得体の知れない人物に…………」
ロゼッタは慌てた。
「大丈夫。きっと、この人は信じられる人ですっ! 俺は人を見る目がありますから!」
エートルは聞く耳を持たなかった。
そして、ロゼッタとイリシュの二人は森を出た。
「さて。私は王宮に戻らないと。色々とやる事があるから」
彼女は小さく溜め息を付く。
まったくもって、エートルは素直な性格をし過ぎていて困る。
本当に、人を疑うという事を知らない。
神父服を着た盗賊か何かの可能性は疑わなかったのだろうか?
「でもまあ。エートル程の実力があれば、多少、魔法が使える盗賊くらいなら余裕で勝てるでしょうね」
ロゼッタはそう考え、エートルの実力に信頼を置いていた。
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