皇太子殿下からの提案
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よろしくお願いします。
新入生歓迎会から一夜明け、学園の職員棟にあるカフェテリアの個室。
この前はソフィーが押さえてくれた部屋を今回も利用することにした。
丸テーブルにはクリストファー皇太子殿下とマクシミリアン様、そして私の3名が座っている。
そして今回も私はケーキの選択に頭を悩ませていた。
本日のおすすめ、季節のおすすめ、定番…………。
この文言に踊らされて他のケーキが中々試せない。となると通い詰めることになる。
カフェテリア側の戦略に見事嵌められている。
「マリアンヌ嬢。今日は時間を割いてくれて、ありがとう」
「いえ、勿体ないお言葉でございます」
「くすくす。畏まらないでいいよ。この前みたいに素の貴女で」
「…………」
やはり、かなり失礼だったわよね。
そこへ給仕が注文を取りに来た。
「本日のおすすめと季節のおすすめ、それと定番をお茶とのセットでお願いできるかな。それと、ケーキは3人でシェアするからよろしくね」
「かしこまりました」
えっ? クリストファー皇太子殿下ってば、どうして私がどれにするか決め兼ねていると分かったのかしら。
「余計なお世話だったかな」
「いえ、とても嬉しいです。ですが何でお分かりに? そんなに顔に出てましたでしょうか?」
「うん。そうだね」
クリストファー皇太子殿下は、いたずらが成功した子供みたいな顔をして笑っている。
恥ずかしい。
「マリアンヌ嬢は随分とケーキが好きなんだな」
マクシミリアン様が苦笑しながら言うので「ええ、大好きですが何か?」と返すと、おいおい睨むなよと笑われた。
給仕が、運んできた注文の品を私たちの前に置いていく。
ケーキは3種類がお皿に少しずつ置かれて、果物や花まで添えられていた。
すっ、すごい。
「目がキラキラしているよ。くくくっ」
「ほんとだな」
二人に笑われてしまった。
季節のおすすめはメロンのショートケーキ。
メロンと生クリームを合わせて口に運ぶと、メロンの爽やかな甘さに生クリームの濃厚さがプラスされて溶けていく。
「そう言えば2人共、新入生歓迎会のダンス凄く評判だったらしいね」
「ありがとうございます。マクシミリアン様とのダンスはとても楽しくて。でもマクシミリアン様がカバーして下さっているので何とか形になっているだけなんですよ」
「今度、私とも踊ってもらえるかな?」
「へっ?」
「嫌かな?」
「いえ、光栄ですが…………本当に上手ではないのですよ? 皇太子殿下に恥をかかせることになるのではないかと」
「そんなの気にしないよ」
「不敬罪になったりしませんか?」
ぶっ、と吹き出すマクシミリアン様を睨む。
皇太子殿下まで口元に手をやり笑っている。
「あぁ、もちろんだよ。そんな事はしないさ。それで、今日来てもらった話とも繋がるのだけれどね、ネーデルラン皇国に留学してみない? ファティマ国では私はお忍びだからね、マリアンヌ嬢と踊れないでしょ?」
「へっ?」
「殿下!!」
涼しい顔でさらりと留学の提案をする皇太子殿下に、マクシミリアン様は椅子から腰を浮かせて詰め寄らんばかりの素振りを見せた。
私はそんなお二人の様子を見ながらも、頭の中は留学のことでいっぱいだった。
アーサー様が留学されていたネーデルランに私が行ける?
「素敵…………」
思わず心の声が口から漏れてしまった。
「マクシミリアンもファティマ国に来てるだろ? 交換留学の名目でどうかな? 試しに短い期間から始めてみたらいいと思うんだけど。それにネーデルランは船で1日もあれば着く。気軽に考えたらいい」
「行ってみたいです」
「殿下! どこにも相談もなく決められる話では」
「話なら通してあるさ。当然だろ?」
マクシミリアン様が押し黙る。
「帝国学院にはヘンリエッタが通っているし、色々聞けると思うよ」
「殿下、それは…………」
マクシミリアン様が信じられないものを見るような顔をした。
「ヘティ様も通われているのですね! それは心強いです」
ストロベリーファームで意気投合したヘティ様。
ネーデルランに行ったら色々お話できるかもしれない。
「ヘティ様? マリアンヌ嬢は皇女殿下と知り合いなのか?」
怪訝そうな顔をしてマクシミリアン様が私を見る。
「えぇ、この前意気投合致しまして、ヘティ様とお呼びすることを許して頂きました。あっ、申し訳ございません。このような席で愛称でお呼びしたりして。皇女殿下と申しあげるべきでした」
しょんぼりとする私とは対照的に、マクシミリアン様は驚いた顔をした。
皇太子殿下が一瞬鋭い眼差しを向けたような気がしたが、直ぐにくすくすと笑って言った。
「ヘンリエッタと意気投合ね。凄いね、マリアンヌ嬢は。そうだ、ヘンリエッタと面識があるなら私たちがネーデルランに帰る時に同船するのはどうかな?」
「殿下! 流石に性急では。滞在先のご準備も整っていません」
「アーサー殿下が賜った『紫苑の宮』邸があるじゃないか」
「それは…………そうですが」
「マクシミリアンは心配性だな。うーん、それなら……。マリアンヌ嬢、帝国学院の見学というのはどうだろう? それならファティマ国を出る前の準備に時間を取られることもない。滞在先はアーサー殿下の許可を頂いて『紫苑の宮』邸を使わせて貰えばいい」
紫苑の宮? アーサー殿下は鉱山以外にも貰っているらしい。
無自覚に色々貰いすぎでは……。
学院の見学が出来るなら、留学について考える材料が増えていいかもしれない。でも何より他の国に行けるという事が本当は嬉しかった。ファティマ国の中ですら、ストランド侯爵家の領地と王都しか行ったことがない。もっと色々な場所に行って直接肌で感じたい。きっとこの機会を逃したら女性が外の世界を知るのは難しい。
「ぜひ、ご一緒したいです。父に話を致してみます。了解が得られればいいのですが……」
「大丈夫。ネーデルラン皇国側からも外交官を通して正式に話を入れておいてあげるよ」
「ありがとうございます」
頭を抱えているマクシミリアン様をよそに私はまだ見ぬネーデルランに思いを馳せた。
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