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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第八話 最強の戦鬼! 神喰らう牙持つ男
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8-6


「くっ」


「寸前でそらしたかっ!」


 軽く触れるような掌底。そこに危険を感じ身をよじったブランクだが、士郎が触れた腹部を突き抜けるような衝撃が襲う。

 硬い装甲の内部、柔らかな内臓を掻き回され、湧き上がる吐き気を懸命に堪える。


「ぐぅっ……発勁ってやつかっ!」


「頑丈な殻に守られていても効くだろう? もっとも、こいつは自己流だけどなっ!」


 再び士郎が踏み込む。大地を蹴り生まれる反発力を、しなやかな身体によって少しも損なう事無く、右掌底でブランクの身体に打ち込む。


「そう何度もっ!」


 その突き出される腕へ、横からブランクが拳を打ち込む。それだけで士郎の右腕は、肘先から指先までが吹き飛んだ。


「っ! に、兄様っ!」


「あはは、大丈夫だって、アル。兄様ならあれくらい……ほら!」


 後方ですっかりと観戦モードなサンが、士郎の腕を指差す。確かに少女の言う通り、たった今粉砕された右腕は、驚異的な速度でスルスルと修復されていた。


「そうかそうか。今のブランク相手じゃあ、この身体のままではコチラが持たないか」


 修復される腕を眺めながら士郎が呟く。その顔はどこか嬉しそうだった。


「そんじゃ、俺も変身するとしようか」


 チャリ……と金属の擦れ合う音を鳴らし、懐からブランクも見慣れた腕輪、ブラックギアを取り出す。


「業魔転変っ!」


 士郎を中心に発生した白い光が廃工場を照らす。その中から悠然と進みでると、白い装甲に覆われた戦鬼体へと姿を変えた士郎が、再び構えた。

 士郎の戦鬼体は、ブライのそれよりずっと小型だ。おそらく、変身前と身長はほぼ変わっていないだろう。

 全身には、獣の体毛の様な細かな彫り物が彫られ、腰からは鋼で出来た尾が垂れる。

 頭部は大きな口を持つ、狼を思わせる形状の兜で覆われていた。鋭い牙の並ぶ口内からは、赤い結晶のような素材で出来た目を光らせている。

 白い狼の戦鬼、それは不思議な程にブランクのアンリミテッドフォームに良く似た姿をしていた。


「白い……狼!?」


 その姿に驚くブランク。士郎は自身の姿を見下ろし首を傾げた。


「ん? 何かおかしいか? 別に白いのは鳩だの山羊だのの専売特許じゃないだろ」


『落ち着け、新。奴が神魔らしくない白い姿なのは、おそらく他者の魂を取り込んでいないからだ。そういう意味では、憑依合身していないブランクも同様と言えよう。そんな事より、気をつけろ! ああなった奴の強さは計り知れんぞ!』


「わかってるっ、八葉っ!」


「ふんっ、内側とのお喋りもほどほどにしておけ。虹枝幹部、フェンリルの士郎。こっからが仕切り直しの本番だっ!」


 タンッと士郎が床を蹴る。初動を感じさせない軽い踏み込みで、先端に金属の鋭利な爪を光らせた蹴りが、ブランクの腹へめり込む。


「もらった! ……ん?」


 士郎の脚がグググとブランクから離れる。瞬時に蹴り脚と腹の間へと差し入れた両腕によって、士郎の脚を掴んだブランクが押し返したのだ。


「ハァッ!」


 押し返した士郎の脚を逆に引き寄せ、それを利用し距離を詰めるブランク。伸びた脚に沿わせるように打ち出す拳が、先とは逆に士郎の腹部を捉えた。


「グッ!」


 グラリと揺れる士郎の上体。その隙に、ブランクが身体を捻る。八葉の鋭い声がブランクの中で響いた。


『浅いっ、まだだ!』


「応っ、ハイチャージッ!」


 ブランクが士郎の頭部目掛けて、光る右脚で上段回し蹴りを放つ。蹴りの最中に足先の装甲が変形し、脚部全体の光を集め、ブランクの脚をさながら光の斧へと変える。


「シャッッ!」


 鋭い蹴りと共に、光刃が士郎の顔面に突き刺さった。

 刹那、ブランクの脳裏に浮かぶ一瞬先のイメージ。それは自身の攻撃によって吹き飛ぶ士郎の頭部だった。

 ブランクはそう思うのに十分な手ごたえを感じたが……。


「なっ!?」


 ブランクが驚きの声を漏らす。放った蹴り、その光刃が士郎の眼前でピタリと停止していた。

 否、正確には停止していたのでは無い。士郎の頭部、白狼を模した装甲がブランクの光刃を、その鋭く生え揃った牙で噛み付き受け止めていたのだ。

 グッとブランクが脚に力を込める。しかし、士郎のあぎとに捕らえられた脚は一向に動く様子が無い。


「言っていなかったな……」


 閉じた狼の顔の奥、士郎の声が響く。士郎が頭を軽く振るうと、刃は牙によって易々と噛み砕かれ、自由になったブランクはその場でタタラを踏んだ。

 その隙に攻撃する事も無く、士郎はバリバリとブランクの刃を噛み砕いた。砕けた刃は光の粒子となって、ユラユラと士郎の周囲を舞う。


「生半可な攻撃は、俺のフェンリルが全部喰っちまうぜ。こんな風になっ!」


 士郎の頭部装甲が大きな口を開く。そのままブランクの肩口を噛み砕こうと頭を振った。

 迫る白狼の牙を、後退しギリギリのところで回避するブランク。しかし、士郎はそれを読んでいたかのように、すかさずブランクの顔面へと、鋭い左拳を打ち込む。


「ちっ!」


 下から打ち上げたブランクの左手が、士郎の腕を弾く。空いた士郎の左脇へ、今度はブランクが右拳を打ち下ろす。


「甘いなっ!」


 その拳に士郎が、自身の右拳を正面から激突させた。両者の拳はぶつかり合い、ガリガリと火花を散らしながら擦れ、拮抗したまま停止する。

 数瞬で交わされた二人の攻防に、離れて観戦していたサンが腕を組み頷いた。


「兄様の攻撃をあれだけ凌いで、尚且つ自分も攻めるなんて……なかなかやるじゃない、あいつ」


「……兄様、なんだか嬉しそう」


 互いの拳を弾き、再び受けては攻め、攻めては受け始めたブランクと士郎。それを眺め、サンの隣でアルがポツリと呟く。サンはその声に、両手を広げ少々オーバーなリアクションで首を振った。


「そりゃあ、ブランクの力が予想通りだったからでしょ? 期待外れじゃ、こっちが困るもの。あーあー、見てよ、アル。まるでじゃれ合う二頭の狼ね。兄様もあんなのと遊んでないで、とっとと本気出せば良いのになぁ!」


『……だ、そうだぞ?』


 攻撃した腕を取られ、投げ飛ばされる最中にサンの声を聞き呆れたように八葉が言う。


「わかってるっ!」


投げられた勢いのまま、士郎から距離をとったブランクが両腕を広げた。


「後に控えている、あの魔人二人の為にセーブしてたけど、このままじゃ士郎を倒せない。行くぞ、八葉……アンリミテッドだっ!」


『うむ、それしかあるまい。全力でまずは奴を叩くぞ、新っ!』


「ああっ、セーフティデバイス・リリース! アンリミテッド・コネクトッ!!」


 激しい光がブランク全身を巡り、増加装甲によって覆い隠される。アンリミテッドブーストへと姿を変えたブランクが、再び士郎へと突撃した。


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