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『そうか……そういうことか』
「八葉?」
『奴に感じた匂いの違和感、それがわかったぞ。奴自身と二人の娘、どちらも士郎という一人の魂で賄えている。士郎本人は元より、あの二人の娘も、通常の神魔に比べて、魂が混ざり汚濁していないのだ』
「なるほどな。つまり士郎の言う事は事実って事か」
納得したように頷くブランク。しかし、八葉は口調を強めた。
『阿呆、それだけでは無い! 身に秘めた魂の多寡が、神魔としての力、その大部分を決定付けるのだぞ? 少なく見積もっても、奴は魔人三人分の魂を持つ男だ……この意味がわかるな?』
ゾクリとブランクの背を冷たいものが走った。
単純に考えても、今目の前に居る男は、ブライの比ではない力を持つことになる。
士郎は全てを見透かしたように、微笑みながら双子を撫でていた両手を顔の前で合わせた。
「どうだ、ブランク。お前の中に居る娘との相談は終わったか?」
「っ!? 知っているのか?」
「詳細は知らないが、お前に関する虹枝の報告書で一応な。で? そっちは何と言っている?」
「……どうやら、お前の言う事は真実らしい」
「ああ、勿論だとも。俺達は人間を喰わないし襲わない。それをわかってもらえた所で、話を進めよう。ブランク、あのブライをやったのは、お前で間違いないんだよな?」
「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」
「何、確認しただけだ。もし、お前の勝利がマグレや誰か他の力によるものだとすれば、これからする提案の前提が崩れるからな」
「提案……だと?」
「……単刀直入に言おう。ブランク、俺の仲間になれ」
「なっ!? 虹枝の仲間だと! そんなもの……誰がなるか!」
「いいや、そうじゃない。虹枝ではなく、俺個人の仲間になれと言っている」
「だとしても同じ事だっ!」
ブランクがソファから勢いよく立ち上がる。強く握られた拳は、怒りでブルブルと震えていた。
「確かに、お前達三人が人を襲わない事は事実なんだろう。だけどな、士郎。お前達が、この街に神魔という恐怖をばら撒いている連中なのも事実だ! そんな奴に誰が協力するかっ!」
その瞬間、ブランクの視界を黒いナニカが埋めた。それが士郎の隣に座ったサンの、華奢な腕が変化した巨大な獣じみた拳だと気付くより早く、本能的に両腕で防御姿勢を取る。
「グッ!?」
直撃こそ防いだものの、あのブライに匹敵する力で殴られ、ブランクの体が大きく吹き飛ばされる。
廃工場の柱に当たり、鉄骨を大きく歪めながら起き上がったブランクを、テーブルの上に立ったサンが睨みつけていた。
「あんたゴチャゴチャ五月蝿いのよ。兄様がせっっっかく、お声をかけてくれたんだから、あんたはただ、馬鹿みたいに尻尾振って頷いていればいいの。それがわからない駄犬は、私が叩いて躾けてあげるわ!」
「も、もう……サンちゃん、お行儀悪いよ? でも、兄様に無礼な発言ばかりするアレは、もうやっちゃってもいいかもね」
鼻息荒く興奮するサンとは対照的に、アルは一見冷静だった。が、その身の内には、サンと同様に怒りの炎が燃えていたのだろう。ソファから立つと、テーブルの上から降りたサンと並んだ。
『来るぞ、新! 注意しろっ!』
「へっ、結局こうなるか。だけど、その方がわかりやすくて良いぜ……来いよ、魔人供っ! 今すぐ三人まとめて俺が楽にしてやるぜっ!」
「はんっ、やれるもんなら、やってみなさいよ!」
「……いきますよ」
サンとアルが飛びかかる。迎え撃つブランク……だったが、二人の少女は背後から来た士郎によって両脇に抱えられた。
「に、兄様?」
「離してください……」
「待て待て。全くお前達は…………けどまあ、一度戦ってみるのも悪くはない、か」
少女達を降ろし、スタスタと士郎が前に進みでる。
「俺がやろう。お前達は俺が指示するまで手を出すな。いいな?」
士郎の言葉にサンとアルが頷く。その顔にはいくらか不満気な表情が滲み出ていたが、士郎は無視してブランクへ向かい構えた。
「悪かったな、多少順番がズレたが……まあ、これも流れだ。これから一つ、お前の力量を試させてもらうとしよう。全力で抗ってみるんだな。生半可な力なら間違いなく死ぬぞ」
言うや否や、士郎の姿が消える。目にも留まらぬ速さで接近すると、人の姿のままブランクの胸部、重厚な金属装甲へと掌底を放った。




