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「クロス・チェンジッ!」
新が両腕をクロスさせ叫ぶ。光の中から飛び出したブランクブーストフォームは、八葉を抱え夜の街を跳ぶ。
「見えたぞ、新。あの廃工場だ」
腕の中で八葉が指差す先を見てブランクも頷く。そここそ、虹枝の幹部である士郎に指定された場所だった。
「むぅ……やはり、魔人の気配は掴みきれんな」
廃工場にほど近いビルの屋上に降り立つと、八葉が両腕を廃工場へとかざす。だが、すぐに腕を降ろし首を振った。
「やっぱり、匂いが薄いか?」
「そうだな、それもある。しかし、何とも表現しづらいのだが……他の神魔とはまた違う匂いのような気がするのだ」
ううむ……と考え込む八葉。その背をポンと叩いてブランクが笑う。
「考えてもわからない事は仕方ない……だろ? とりあえず、出来る限りの用心をして行こう」
「うむ……そうだな。では、心して向かうとしよう。憑依合身」
「応っ、エクシード・コネクトッ」
青いブランクへと姿を変えると、廃工場入り口まで駆ける。土煙を巻き上げ、入り口前で止まるが、周囲には何の反応も無い。
「よし……入るぞ」
背の半ばまで開いたシャッターをくぐり、内部へと侵入する。それを感知したかのように、工場内の照明が一斉に点灯し、暗闇を照らし出した。
「くっ……」
突然明るくなった視界に、ブランクが思わず腕で目を庇う。その耳にパチパチと拍手の音が響いた。
「ようこそ、ブランク。歓迎するぞ、良く来てくれたな」
「お前は……」
廃工場の中央、周囲の埃まみれな光景とは場違いな、真新しい応接セット。そのソファに座った功夫服のような格好の男が、叩いていた拍手の手を止める。両脇には男と同じような赤と青、色違いの服を着た、同じ顔の少女が二人、静かに控えている。
「手紙に書いたろう?」
男は口元に笑みを浮かべ、顎をさする。
「虹枝の幹部、白崎士郎だ。今日、ここに来たという事は、俺と話すつもりがある……そう受け取っていいのかな?」
「……何が目的だ」
ブランクは静かに構え尋ねる。士郎の返答次第では、すぐに攻撃に移れるようにだ。
「手紙の通り、とりあえずはお前と話がしたい。その結果、俺とお前が戦う事になるかどうか……それはまた別の話だ……が、今はやりあうつもりは無い。そうだな、落ち着かないから、先ずは座ったらどうだ?」
士郎が、自分の向かいにあるソファを指し示す。一瞬逡巡したが、ブランクが意を決してそこへドカリと座ると、士郎は両脇の少女達へ手で合図した。
少女達は頷き、次の瞬間には姿が搔き消える。再び現れた時には、一人が茶菓子を、もう一人が紅茶の入ったティーカップを、目の前のテーブルに並べだした。
「改めて言おう。今、お前とやりあうつもりは無い。一先ず茶でも飲んで寛いでくれ」
「……はぁ、わかった。あんたの事を信用したわけじゃ無いが、話したいと言うなら一応聞こうじゃないか。……とは言え、この姿じゃ茶も菓子も無理だ。そこのお嬢ちゃん達、俺の代わりに食っていいぞ」
「え!? いいの?」
「サンちゃん、お行儀悪いよ?」
ブランクの言葉に、赤い服の少女がパアッと顔を輝かせ、それを青い服の少女が諌めた。
「いいさ、サン、アル。ブランクはいらないそうだし、お前達も座って食べなさい」
「はーい」
サンとアル、二人の少女が士郎の両脇にチョコンと座る。アルが紅茶を、サンが菓子を食べだしたのを眺めると、士郎も目の前の紅茶を口に含んだ。
「で、虹枝の幹部が、一体俺に何の話があるんだ?」
「ああ、そうだな。何から話したものか…………先ずは自己紹介か。俺の事は知っているな? 虹枝の幹部をやってる白崎士郎、お前の倒したブライと同じ魔人だ」
自分の胸を指差し士郎が言う。次いで、両脇の少女の肩をトンと叩く。
「そして、この二人はサンとアル……まあ、俺の妹分みたいなもんだが、この二人も魔人だ」
「っ!?」
『匂いでわかっていたが、やはりか。この場に魔人が三人とはな……」
喉元まで出かかった驚きの声を飲み込んだ。ブランクの中で八葉もまた、驚いたように呟く。だが、士郎はブランクの様子に構わず続ける。
「俺はもちろんだが、この二人も今まで人間を喰った事がないし、これからもそのつもりはない。どうだ、少しは素直に話を聞きやすくなれそうか?」
「神魔であるお前達が人を喰わないだと!? はっ、到底信じられないな!」
「ふぅ。まあ、そうだろうな……。いいか? 神魔が人を喰うのは、その存在を保つのに、消費した魂を他者から補充するからだ。魔人であるブライも基本的な部分はそう変わらない。だが、俺は違う」
士郎が両腕を頭上へと伸ばす。強力な力が透明な光となって胴から腕を伝い、拳の先に集まる。
「俺は、他者の魂なんて必要としない。少なくとも、自分の強さの為に、誰かが犠牲になる事を良しとはしない」
両手を開く。光は密度を増し、まるで粘度の高い液体のように掌の上を滑り回る。
「そして、この二人には、誰かを襲わないように、今までずっと、俺の魂だけを分け与えている。こんな風にな」
両手の光をサンとアルの口元へと伸ばす。二人は首を伸ばし、その光を美味そうに舐め啜る。
ピチャピチャと小さな二つの音が響く中、士郎の両目はジッとブランクを見つめ続けた。
クラリと軽い目眩を覚えながらも、ブランクは士郎へと問いただす。
「何故だ。お前達神魔は、人の命なんて何とも思ってはいないはずだ」
「神魔なら、な。或いはこの二人や、ブライのように、過去の記憶を持たない魔人もそうか。だが、俺は人であった記憶を確かに持っている。例えば……ある日いきなり、悪の秘密結社に怪人へと改造されたとして、思考がそのままなら、普通の奴は簡単に人間を襲ったりなんかしないだろう?」
光を舐め終えた二人の頭を優しく撫で士郎が笑う。




