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新が伝えた約束の日、とあるビルの屋上にブランクが降り立つと、驚いた様子の正太が駆け寄って来た。
「ほ、本当に来てくれたんですね、ブランクさん!」
「やあ、記者さん。俺を探して随分と頑張ったようだね。俺がここに来たのは、その熱意を汲んで、今日だけの特別サービスさ」
「はい! TNWの梅咲正太です。あの夜、ブランクさんには、高速で神魔に襲われ危ない所を助けていただきました。いやぁ、本当にありがとうございました!」
「神魔を狩る事が俺の使命みたいなものだけれど……梅咲さん、あんたが無事だったのは幸いだな。既に知っているだろうけれど、この街にはまだまだ神魔が隠れ潜んでいる。迂闊な行動はこれからも避けるんだな」
「はい……さすがにアレで懲りました。今日は、一記者としてでは無く、ただの梅咲正太としてお礼が言いたかっただけです。……まあ、ブランクさんを知りたいという好奇心がある事も否めませんが……そう言えば、今日は青いんですね?」
八葉とコネクトしたブランクの青い装甲を、不思議そうに眺めながら正太が尋ねる。
「ああ、そう言えば、あの時はまだ白い姿だったか。そうだな、戦闘時はこっちの色の方が多いんだ」
「なるほど……神魔とはいつから戦っているんですか?」
「ははは、記者として来たわけでは無いのに、まるで取材みたいな質問攻めだな」
「う、す、すみません。職業病みたいなものですかね……」
頭を下げようとする正太を、ブランクが手を振り制す。
「いや、良いさ。今日はその為に来たようなものだし、答えられる事は教えよう。俺を記事にするのも構わない……ただし、どうせ書くなら格好良く書いてくれよ?」
「は、はいっ! 勿論です、お任せください! それじゃあ、本格的に……」
正太が肩にかけた鞄の中を探る。ボイスレコーダーやペンと手帳等を次々と取り出す所を見ると、少なからずインタビューするつもりで来たようだった。それとも、記者たる者、いつ如何なる時でも取材道具は持ち歩くものなのだろうか? ブランクがボンヤリとそんな事を考えながら眺めていると、突然正太が素っ頓狂な声をあげた。
「うぅん? なんだ、これ?」
「どうかしたのか?」
「あっ……いいえ、その……鞄の中に、入れた覚えの無い封書があったんです。その宛名が、ブランクさん……貴方になっているんですよ」
「ん、どういう事だ?」
鞄から封筒を取り出し表裏を繰り返し見る正太。一見、只の封筒だったが、そこには確かにブランクの名が記されていた。
「おかしいなぁ、家を出る前にはこんな物…………あ、あの……全く心当たりが無いんですが、どうしましょうか、これ」
「そうだな……俺が見ても構わないか?」
「はい、宛名もブランクさんにですし、そうしてもらえると助かります」
正太が差し出した封筒をブランクが受け取る。手に取ってみても、何一つおかしくは無い普通の封筒だったが、それ故に宛名のブランクという文字が異彩を放っていた。
『ふむ……熱烈なファンの次は謎のファンレター……という訳でもあるまい。とりあえず開けてみろ、新』
ブランクの内から注意深く封筒を観察する八葉に、ブランクも頷き封筒を開ける。中には、一枚の便箋が入っていた。
「やっぱり、只の手紙か?」
『いや、只のでは無いな。ひどく微かにだが、新が封を切った一瞬、神魔の匂いがした。その手紙、奴等からのものだろう』
「なっ、何だって?」
驚き、ブランクが封筒から手紙を抜き広げる。
「お前に話がある。以下の場所まで来い。来なければ、この記者の命を奪う。虹枝幹部、白崎士郎……か。なるほど、確かに奴等の手紙だ」
手紙に書かれた文面を呟き、ブランクが頭を振る。指示された場所は、手名芽市外れの廃工場。日時は三日後の夜だ。
『ふむ、神魔からの呼び出しか……妙だな』
「妙?」
『差出人の神魔……幹部であり匂いの薄さから、おそらくブライと同じく魔人だろうが……この士郎とかいう奴が、正太を特定し、おそらく今日ここで私達と会う事を知っていたのだろう。しかし、知っていながら、手紙を忍ばせるだけで何故今現れない?』
「それは……つまり、この呼び出しは罠か?」
『う〜む……それも今一つ腑に落ちんな。罠であるならば三日後と時間を開け過ぎているし、正面から虹枝幹部を名乗って、わざわざ私達に警戒されるような必要も無いだろう』
普段とは違い歯切れが悪い相棒の言葉に、ブランクはコツコツと指で頭部装甲を叩く。
「あ、あのぅ……何か不味い事が書いてあったんですかね?」
手紙を読み出してから、ただ黙ったまま立っていたように見えていた正太が、ブランクの様子の変化にそっと尋ねた。
「いや、何でも無い。すまないけど、梅咲さん。今日はここでお開きにさせてもらえるかな? こっちの都合だし、後日虚木を通して改めて連絡する。その時、今日の仕切り直しといこうじゃないか」
「それは……願ったり叶ったりですが、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、それじゃあバタバタしてすまなかったね。また会おうっ!」
ブランクが屋上を蹴り高く跳ぶ。そのまま隣のビルへ、更に隣のビルへと、屋上伝いに跳び駆けていく。
「つまり、こいつの真意が良くわからないと?」
走りながら再び八葉へと話しかける。八葉はブランクの中でコクリと頷いた。
『そうだな……或いはこれでは、という可能性もあるにはあるが……確信は持てない』
「その或いは、って何だ?」
『ふん、簡単な事だ。書いてある通り、お前と話がしたいのだろう。単純にな』
「はっ、虹枝幹部の魔人が俺と? 冗談だろ!」
『さてな。それで、この誘いどうする?』
「当然、乗るさ。こいつが本当に虹枝の幹部だって言うなら、虹魔木の情報を得るチャンスだし、何より正太さんが狙われる。もし罠だってんなら、罠ごと潰してやるさ!」




