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「アサ……じゃないな」
「ああ、小僧とはこの姿で会った事は無かったな。そう、妾はアサという娘ではない。お前が見た通り、彼の地に太古より存在した力と、あの娘の祈りが結び付いて生まれたのが妾……お前のよく知る神、オオグチマカミだ」
「オオグチマカミ……って、なんで八葉の姿じゃないんだ? というか、ここってどこだ?」
「ふむ、前回の戦い、そこでのお前の無茶で、魂が危機に瀕しておったのでな。妾……というよりも八葉か、その力を使って修復していたのだ。小僧も感じていただろう、その手の温もり……それが八葉と繋がっている証だ」
マカミが新の右手を指し示す。新のそれは、今も穏やかな温もりを感じていた。
「それじゃあ、さっきまでのは……」
「小僧と妾が繋がった、その過程で妾の古い記憶と小僧の意識が繋がっていたようだな。今こうして会話している妾は、八葉の中でもより根源的な、祈りより生じた神としての存在……人で言うならば無意識のようなものだ」
「なるほど……つまりさっきまでのアレは、あんたの大昔の……手無女伝説誕生の記憶だったって事か」
ダンナチ村での飛び飛びの記憶、あれがマカミの記憶で自分が見た夢だというのなら、曖昧な記憶も納得出来ると頷く新。
「そういう事だ。ちなみに実際の過去でも、小僧が介入した以外は、概ねあの通りの事が起こったぞ。妾はあの者を消し飛ばした後に虹魔木を封じると、ダンナチ村……後の手名芽村にて現人神として崇められるようになったのだ。あの鬼神である椿と知り合ったのも、それ以降の話だな」
「なんだか途方も無い話だな……けど、言ってる事はわかったよ」
新の言葉にマカミが頷くと、右腕を挙げ上空を指差す。その先に突然、大きな鳥居が出現した。
「うむ、理解したか。ならばそろそろ目覚めるがいい。でなければ、おそらく後悔する事になるぞ」
「後悔? どういう意味だ?」
「さてな……ふふん、外に居る妾に尋ねるといい」
「わかった、行ってくる」
何もない空間を蹴り、新がフワリと鳥居に向かって進み出す。中程まで進み振り返ると、見送るように見上げているマカミへ新が手を振る。
「せっかく八葉でないマカミに会えたから、言っておくよ。あの日、俺と契約してくれた事、今では感謝してるぞ。ありがとうな、マカミ!」
「ふふん、馬鹿者め。さっさと行け……そういう事は向こうの妾にでも言ってやるといい」
掌で口元を隠し、マカミはニヤリと笑う。その表情を眺めながら、新は鳥居を潜り抜け、意識はそこでプツリと途絶えた。
◆
意識を取り戻した新が、重い目蓋を上げると白い天井が見えた。
「っ……ここは……?」
「新っ、目覚めたのか!?」
「八葉か……あっと……」
心配そうに見つめる八葉と、自身の右手を握る両手に気付き、新は空いている左手で頭を掻く。
「悪い、心配かけたな……」
新の言葉に、八葉が手を離し腕を組むと、ニヤニヤしながらそっぽを向いた。
「ふ、ふん! 私の忠告を聞かぬ馬鹿新を心配なんてするものか! だが、まあ……無事に戻ってきた、その根性だけは褒めてやらんでもないがな」
「ははは、それも八葉のおかげさ」
「なっ、何を……」
「それより、八葉。何か大変な事が起きてるんじゃないか?」
「むっ、ああそうだ。しかし、どこでそれを?」
「いいから教えてくれ。何があった?」
「うむ、実はな……」
八葉が口を開きかけた瞬間、病室の棚に置かれた端末が、発光し哲也の声が流れる。
「新、目を覚ましたんだね! 今の状況については僕から、移動しながら説明しよう。新、八葉、すぐにこの間の高速道路へ向かってくれ。このままでは、グレイバーが危険だ!」
「っ! わかった、今すぐ向かう! 行くぞ、八葉!」
「うむっ!」
新はベッドから飛び起き、病室を飛び出す。頷く八葉も素早くそれに続いた。




