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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第七話 祈りより生まれしモノ、戦鬼ブランク復活
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7-1


 サワサワと風に揺れた草が頬を撫でる。そのくすぐったさで新は目覚めた。


「ん……あれ?」


 上体を起こし周囲を見渡す新が驚きの声をあげる。それもそのはず、今新が寝ていたのは、山々に囲まれた野原だ。


「な、なんだ、ここ? うわ、ブランクギアも無いぞ!?」


 常日頃外す事は無いブランクギアが、左腕から消えている事に気付き、新の表情は驚きから焦りに変わる。


「ちょ、ちょっと待てよ、俺。冷静になれ……えぇっと……確かグレイバーと一緒にブライと戦って…………んん、ダメだ、思い出せない」


 自身の放つ白い閃光。新の記憶はそこまでしか無い。それでも思い出そうと更に考え、一つの結論へと到達する。


「まさか……俺、死んだのか? ここはあの世ってやつか? くっ、ブライ相手に無理し過ぎたか……」


 草の上に寝転がり、空を見上げる。突き抜けるような青さが、新の目に沁みた。


「これからだってのに……こんな中途半端な所で死ぬなんてな……」


「お兄さん、死んでるの? そうは見えないけど?」


 突然かかる声に新の背中がピクリと震える。起き上がり振り返ると、そこには八葉と同じ年頃の少女が立っていた。


「君は……いつの間にそこに?」


 不思議な格好の少女だ、と新は思った。少女が身につけているのは、洋服や着物ではなく貫頭衣と呼ばれる衣服だったが、新はその事を知らない。

 それよりも、見通しの良い野原にいきなり現れた少女自身の事が気になった。

 そんな新の警戒する視線を気にもせず、少女は無邪気に笑う。


「え〜、さっきからそこに居たよ? 私はアサ。お兄さんは?」


「俺は新だよ、アサ。その……変な質問かもしれないけれど、ここって何処なのかな?」


「フフ、本当に変な質問。見た事無い格好しているし、お兄さんどこか遠くから来たの? ここは私達ダンナチの集落そばにある野原だよ!」


「ダンナチ? それが集落の名前か……う〜ん、このままここに居ても仕方ないし……アサ、良かったら俺をそこへ案内してくれないかな?」


「ん〜、お兄さん良い人そうだし、いいよ! 私についてきて!」


 アサが歩き出し、振り返ると新へ付いてくるように手招きする。新も頷き立ち上がり、ふと違和感に気付き、右手をじっと見つめる。


「どうしたの、お兄さん?」


「あ、いや……なんだか右手が暖かい気がしたけれど……気のせいみたいだ。今行くよ」


 二、三回ブルブルと手を振ると新がアサを追いかける。ダンナチの集落は野原を突っ切り、やや低めの丘を超えた場所にあった。

 丘の向こう側は緩やかな下り坂となっていて、その先には、刈り入れが近いのだろう、黄色い穂を揺らす稲田が広がっている。その端にいくつもの木材や藁で建てられた家々が見えた。藁で覆われた、巨大なテントのような形状をした家は、少女服同様に新には馴染みが無い。


「あれが……ずいぶん昔の家みたいだな」


「到着っと。はい、あれがダンナチの集落だよ、お兄さん!」


「ああ、ありがとうな、アサ。結構大きな村なんだな」


「それはそうだよ! ダンナチは凄い神様が守ってくれてる集落だもん……あ、この辺で待ってて。今お父さんを読んでくるから!」


 ちょうど集落と田の間でアサがそう言い駆け出した。新はアサに手を振り大人しく待つ。すると、そう時間おかずに、少女が一人大人の男を連れて戻って来た。

 男もアサと同じような貫頭衣に身を包み、髪を見たことの無い形状に結ってある。


「貴方がアサの言っていた方ですか。はじめまして、アサの父のトカクと申します」


「あ、はい。はじめまして、俺は新といいます」


 お辞儀したトカクが、彼に倣い頭を下げようとした新を手で制し話を続ける。


「新さんですか。新さんは旅の途中か何かで、ここへ?」


「……まあ、そんなところです。行く宛もなく難儀していたところを、先程アサ……娘さんに助けていただきました。ありがとうございます」


「なるほど。この辺りは、一歩踏み入ると深い山ばかり。慣れぬ者にとっては迷うのも無理ありません。どうでしょう、しばらく私達の集落へ滞在されては? ちょうど収穫の手も欲しかったところですし、もし新さんが手伝ってくれるのなら、歓迎しましょう」


「それは願ってもない提案です。でも、何処の誰かもわからない俺なんかを……良いんですか?」


「ははは、アサが気に入ったのなら大丈夫でしょうし、何より悪人ならわざわざそんな事を尋ねないでしょう?」


「あ、ありがとうございます! すみませんが、よろしくお願いします」


「ええ、それではこちらへ。集落内の案内がてら私達の家へ向かいましょう」


 トカクに促され、集落に入る新。途中何人かの村人とすれ違うが、皆不思議と新自身や、その格好を気に留める様子もなかった。



 新がダンナチに来て一週間が過ぎた。

 新にとって何もかも目新しいはずのダンナチでの暮らしも、何故か奇妙なほどにすんなりと馴染み、今では昔からの村人だと言っても信じられそうだ。


「新兄さん、お疲れ様! 今日で刈り入れも終わりだね!」


 田仕事を終え、村長であるトカクの家に戻ると、アサが元気に出迎える。その背中には、まだ小さな男の子が背負われ、ジィっと新を見つめている。この子はツンといい、アサの弟で母親の忘れ形見でもある。アサはこの家で父親と弟と三人で暮らしていたのだ。


「ああ、アサにツン、ただいま。ようやく終わったけれど、手作業で稲を刈るって大変なんだなぁ」


「そうだね、でも新兄さんが居てくれたから、凄く助かったって、お父さん喜んでたよ!」


「ははは、なら良かったけれど……そうそう、そのトカクさん。今夜は帰りが遅くなるってさ。何かあるのかね?」


「それなら祭事の準備だよ。無事収穫を終えた事を、神様に感謝するの」


「神様……前に言ってた凄い神様かい?」


「うん! この辺りの山ぜーんぶを治める神様で、狼の姿なんだよ! 悪い奴をガブって食べちゃうの!」


「狼……なあ、その神様って名前とかあるのかな?」


「え、えっと……オオグチマカミ様だよ?」

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