6-12
◆
幾度目かの交差、躱し続けていた戦鬼ブライの拳が、ついにブランクの肩装甲を掠めた。
「ぐっ!?」
ただそれだけで、ブランクの身体は回転しながら浮かび上がり倒れ込む。続けて踏みつけようとするブライの脚を、転がる事でギリギリ回避すると、追撃に備えて跳び起きた。
しかし、当のブライは、その場に立ったまま、黒い金属装甲で覆われた頭を掻く。
「なんだかな……おい、ブランク。テメェ、俺の事を舐めてるのか?」
「……何の事だ?」
「あぁ? お前がさっき変わった白い光の姿だよ! アレは、今のテメェの……あ〜、その青いだけのより随分マシだった。何故あの姿にならねぇ!」
「さてな……お前が、使うに値しないくらい、弱いからじゃないか?」
「……なんだと?」
低く響くような声がブライから漏れる。それに合わせるように、ブライの全身から放たれる威圧感も、一気に増大したように感じた。
その時、ブランクの中で八葉が語りかける。
『新、今までの戦闘でわかったが……奴に対して早さだけなら、この通常のブランクでもチャージで対抗出来る……それならば、まだいけるな?』
「ああ、アンリミテッドになるんじゃなきゃしばらくはな……だけど掠っただけであれじゃ、油断は出来ない」
『無論だ。それに私達の役目は、わかっているだろう?』
「グレイバーがデュラハンを倒すまでの時間稼ぎ……だろ? わかってるさ。だからこそ、アンリミテッドにもなってないだろ」
デュラハンとブライを二手に分け、今倒す事が難しいブライを前に一方が時間を稼ぎ、他方がデュラハンを倒す……グレイバーの提案に乗ったブランクは、こうして単身ブライの攻撃を耐え続けていた。
「おいっ! 何をブツブツ喋ってやがるっ!」
怒りのオーラはそのままに、ブライがアンダースローの様に腕を回転させる。巨大な手でコンクリートを簡単に掬い取ると、前方のブランク目掛けてそのまま投げつけた。
『新っ!』
「応っ、チャージッ!」
眼前の岩塊を素早く避けるブランク。その顔面にブライのラリアットが迫る。
コンクリートにブランクの視界が塞がった一瞬で、一気に飛び込んで来たのだ。
「ラァァッ!」
「しまっ……がっアアアッ!!」
剛腕を、咄嗟に両腕でガードするブランク。しかし、その余りの衝撃に大きく吹き飛び、コンクリートを掘り返していく。
『無事か、新っ!?』
「つつ……何とかな……っ!」
立ち上がるブランク。そこへブライがショルダータックルの姿勢で激突する。避ける事もままならず、直撃を受けブランクが紙切れの様に軽々飛ばされた。
「がはっ!」
道路へ打ち付けられ、ブランクが仰向けに倒れる。ブライは近づき見下ろすように真上に立つと、タックルでヒビ割れたブランクの胸部装甲を、その脚で踏みつけた。
「グッ……!」
「けっ! つまんねえ戦いしやがって……あぁ、つまんねえ! つまんねえ! つまんねえ!!」
ブライが何度も何度もブランクの胸を踏み、憂さを晴らすように蹴り飛ばした。ゴロゴロと転がり止まると、全身の装甲に大小様々な亀裂を走らせながら、ヨロリとブランクが立ち上がる。
「何だ、まだ立てたのか? とっとと死ねば楽になれるのになぁ」
「……お前は……」
「ああ? 何だって?」
「お前は……神魔じゃない。人間のはずだ。そのお前が何故人を殺す!」
震える腕で構えるブランク。その様を見て腕組みをしたブライが鼻を鳴らす。
「簡単な事だ、俺が強くなるのに、それが一番手っ取り早いのさ。おっと、人間のくせに罪悪感は無いのか、なんてクサイ台詞はやめてくれよ。俺はな、ブランク……神魔を喰らい魔人となった時以前の記憶が無いのさ」
「なんだと……?」
「神魔を喰った代償らしい、が別にどうでもいい事だ。テメェは俺の過去をいくらか知っていそうだが、俺にとって今の俺が全てだ」
「そうか……よくわかった。虹枝を潰して人を守る為には、やっぱりお前も倒さなきゃならない相手だって事がな!」
「フンッ、そんなボロボロのお前に、この俺を倒す事なんて出来るもんかよ!」
ブランクに向かい、腰を落とし再度ショルダータックルの体制を取るブライ。ブランクも構えるものの、フラつく脚で立つだけで精一杯だ。
『新っ!』
「ああ……これはちと厳しいな……」
『違うぞ、デュラハンの臭いが消えた!』
「何っ、グレイバーがやったのか!?」
突然、八葉から知らされたグレイバーの勝利に、ブランクが驚きの声をあげる。その時、ブランクの声に応えるように、高速道路の向こうからグレイバーが猛スピードで駆けて来た。
「エクセスチャージッ!」
グレイバーはそのままブランクの脇を走り抜け、ブライに光るランスを突き立てた。




