6-8
◆
「ブランク! ブランク! 新さんっ!」
「……う、く……」
両肩を掴まれ、強く揺すられてブランクが意識を取り戻す。目の前には、椿の屋敷で別れた時と同じ荷物を背負い、心配そうにブランクを見る智秋の顔があった。
「智秋……君か。ここは?」
「気付いたんですね! ここはブランクさんが神魔と戦っていた高速道沿いの一般道です。見つからないよう、少し奥まった場所ですが……大丈夫ですか?」
「ああ……何とかな。……ディスコネクト」
光の中、ブランクギアが解除され、新の全身に感じた事のない程の疲労感がのしかかる。
「…………っ! うぅ……」
「やれやれ、私の有難い忠告を聞かぬからだ。馬鹿新め」
倒れたままの新を見下ろし、八葉が溜息混じりに呟くと、隣に立つ智秋へ手を伸ばす。
「え? 八葉さん、何ですか?」
「匂いでわかる。あの屋敷を出る際、三郎太に薬湯の元になる茶葉を渡されたろう? それを渡せ」
「あっ、はい……確かこれからの戦いに必要になるだろうって……これですか?」
荷物の中から、智秋が紙に包まれた片手大の塊を差し出す。受け取った八葉が包みを剥がすと、焦げ茶色の茶葉が固まった物が出てきた。
「ふむ、餅茶か、丁度いい。新、これを食べろ」
ズイと餅茶を新の鼻先に突きつける八葉。薬湯の匂いを凝縮したような、強い香りが新の鼻をついた。
「食べろって……これをか?」
「撤退するにしても、今のお前ではそれすら満足に出来まい。薬湯に戻す時間は無いし、それより効果的だ。さあ、早く食べろ」
「ぐっ……」
力の入らない身体を無理に動かし、差し出された餅茶にかぶりつく新。
「っ!! ん〜〜〜っ!」
噛みちぎり咀嚼した瞬間、薬湯のそれとは比較にならない程の苦味が口内いっぱいに広がり、新が悶絶する。舌が痺れ、本能が嘔吐しろと訴えるが、それを無理矢理押さえつけ、少しづつ飲み込んだ。
「どうだ? 動けそうか?」
何とか一口分を飲み込み終え、落ち着いた新の顔を覗き込みながら八葉が尋ねる。
「ああ……そうだな。少しはマシになったよ」
「うむ、ではこの場を離れるぞ」
「……いや、それは出来ない。奴等を……少なくともデュラハンを倒す」
新の言葉に、八葉が目を見開く。未だ倒れたままの新を指差し、髪の毛が逆立つような激しさで叫ぶ八葉。
「っ! 馬鹿者っ、今の己の状態をよく見よっ! 寝言は寝てから言うがいい!!」
その八葉を手で制し、新がジッと八葉の目を見つめた。新の瞳に宿る意思の強さに、八葉が思わず口を閉ざす。
「デュラハンは……ブラックギアを手に入れた。このまま放置すれば、奴はギアに魂を補充しようと人間を襲うだろうし、元々大喰らいの奴なら何人喰われるかわからない……そうだろう?」
「う……た、確かにそうだが……」
「それに、逆に言えば今のデュラハンは、ギアが空っぽの、全く強化されていない状態だし、倒すのはそう難しくないはずだ」
「むぅ……しかし、今の新は……」
新の肩に八葉の手がそっと触れる。その包帯に包まれた手に己の手を重ね握ると、新は再び八葉の目を見つめる。
「それでも、俺はやる。長い付き合いだ、そうなる事はわかっているだろう?」
「…………この頑固者め」
言葉とは裏腹に八葉が口の端を上げる。握った手をそのままに八葉に引かれ、新が立ち上がると、荷物を傍らに置いた智秋が手を挙げた。
「あの、それなら僕にも手伝わせてくださいっ!」
「智秋君……そう言えば、椿の訓練は無事終わったのかい? それが俺の最後の条件だったはずだけど」
新の言葉に、椿との訓練を思い出し、智秋の表情が一気に曇る。
「訓練……はは、アレがそんな生易しい言葉で済むとは思えませんが……はい、椿先生にはちゃんと戦う許可を貰えました。今後もあの場所へ都度都度通って、更に鍛練を積む必要はありますが、新さんとの約束、果たしましたよ!」
元気に答える智秋に、新はフウと小さく息を吐く。
「そうか……グレイブギアがあるとは言え、たった一週間で椿に認めさせるなんて凄いじゃないか! それじゃあもう、君を子供扱い出来ないな。わかった、共に戦おう、智秋く……智秋」
「はい! 改めてよろしくお願いします、新さん! 八葉さん!」
「うむ、新はこの通り、頑固で向こう見ずな奴だが、よろしく頼むぞ、智秋」
「一言余計だ、八葉。……それじゃあ、そろそろ行くか」
「わかりました! あの、それで……早速ですが僕に一つ考えがあります」




