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「ふふふ。ようこそ、有名人さん」
ゆったりとソファに腰掛け、ワイングラスを傾けながら多聞が微笑む。新は肩を竦めながら、八葉と共に多聞の向かいに座った。
「有名人は止めてくれ……しかし、流石は情報屋多聞。あんなマイナーっぽいサイトの記事まで把握してるのか」
「まあ、仕事がら……ね。でも、あのニュースサイトの記事はともかく、貴方達の噂そのものは、結構大きくなっているのは確かよ。神魔に襲われた被害者の遺族や、目撃者も増えているようだしね」
「そうか。まあ、情報操作とか統制とかそういう小難しい事はあいつに任せているからいいさ。それで? さっきの電話じゃ、依頼していた件について報告があるって言ってたけど、例のブラックギアについて何かわかったのか?」
「ええそうよ、これを見て」
多聞が卓上の端末を操作するといくつかの画像が浮かび上がった。監視カメラ映像だと思われる、それらの内の一つを多聞が拡大する。
そこには二人の人物が映っていた。一人は野性味溢れる顔つきでジャージ姿の大男、もう一人は大男の影に隠れ、画像の粗さもあって、白髪という特徴以外、男女の区別もわからない小柄な人影だ。
「この画像は、貴方が以前倒した神魔、オークが出現した地点周辺の監視カメラから抜き出した物よ。ここに映っている二人組みに見覚えはあるかしら?」
新が改めて映像を凝視する。僅かな再生時間を繰り返すそれを何遍か見た後、小さく首を振った。
「いや……多分無いな。こいつらがそうなのか?」
「残念ながら確証は無いわ。でも、例の海水浴場での連続殺人……こっちの神魔はケルピーだったかしら? その被害者が不定期から定期的になる境目、おそらくケルピーがブラックギアを手に入れたであろう日の前日、同じ人物が再びカメラに映っているの」
多聞が別の映像を拡大する。さっきと同じ大男が、今度は一人で海岸沿いの夜道を歩いていた。
「ふむ……」
八葉が映像に右手を向ける。
「何か臭うか、八葉?」
「いや……この映像からは何も感じないな。仮にこの者が神魔だとするならば……見たところ、ケルピーのように結界を張っている様子は無いが、おそらく何かしらの方法で神魔の臭いを押さえているのだろう。とにかく、この二人があのブラックギアをばら撒いている、というわけか」
「まあ、そう考えるのが自然じゃないかしら……少なくとも、彼は人間では無さそうね」
多聞が同日別アングルで撮影された大男の映像を再生させる。画面奥に向かってブラブラと歩いていた男は、ある瞬間忽然と姿を消した。
「消えた!?」
「ふん、おそらく超スピードでの跳躍、そうであろう?」
「正解。コマ送りすると、最後の一瞬だけ踏み込む予備動作が映っているわ……こんな事、人間には無理よ」
「そりゃそうだな……」
「ちなみに二人の内、こっちの大男なら、既に調査しているわ」
「そうか、仕事が早くて助かるぜ、多聞」
「ふふ、ありがとう」
多聞が新たに履歴書の画像を表示させた。写真の箇所には、あの大男に良く似た若者の写真が貼られている。
「彼の名前は大橋剛太、とある建設会社の従業員だったようね」
「だった……?」
「手名芽市の都市開発事業で、その建設会社が旧手名芽村にやって来た後、現場から突然失踪したそうよ。おそらく神魔となったのは、その辺りでしょうね。以来、表でも裏でも、彼の目撃情報は存在しないわ。あれ以外にね」
多聞が監視カメラの映像に目を向け言う。
「なるほど、報告についてはわかった。それとな、多聞……ついでに知っていたら教えて欲しいんだが、あのニュースサイトにあった俺達の記事、その関連項目欄にある高速道路での連続変死体事件を知っているか?」
「知っているかと聞かれたら、もちろん知っているわ。……というより、ここ数日この辺りのローカルテレビニュースじゃあ、その話題でもちきりね」
「あぁ、楓ちゃんも、そんな事を言っていたな」
「……貴方も、神魔ばかりでなく、もう少し視野を広げるべきね。とは言え、この件について私もそこまで深い情報は持っていないから、今回はタダで良いわ」
多聞が端末を操作し、監視カメラや履歴書の映像を消す。代わりに数局の報道番組と、プロフィール付き人物写真が表示された。
「事件は手名芽市西部を通る高速道路、推定時刻は全て深夜ね。被害者数は五人で、それぞれの共通点は高速を走行していたドライバーやバイカーという事だけ。この事件の特徴として、爆発した車体と共に発見された遺体には、全て頭部が無かったそうよ」
「ああ、どれもこれも首無し死体だったらしいな……」
「それに関しては事故、というより何者かに鋭利な刃物で切断されたようだ、との解剖記録が出ているわ。もっとも高速走行中にそんな真似が出来るわけもない、と警察は信じていないようだけど……」
「ふむ……」
再び映像に向け右手を掲げた八葉が目を閉じる。一瞬、包帯に包まれた右手が歪に歪み、元に戻った。
「どうだ、八葉?」
「うむ、今度は問題なく感じたぞ。新、これは間違いなく神魔の仕業だ」




