特-9
「チャージッ!」
再び距離を詰めたオークから、突風のような斬撃が放たれる。
チャージによって強化された脚力で、右に大きくステップし回避するブランク。しかし、それを見越したかのように、周囲を囲む一つ目達が触手のような腕をブランクへ伸ばした。
『新っ!』
「ああ、さすがに鬱陶しいなっ!」
鞭のように振り下ろされる一つ目達の腕を掻い潜り、その内の一体を輝く脚で蹴り飛ばす。
「ギギッ!」
飛ばされ塀にぶつかった一つ目が、悲鳴なのか怒りの声なのか、叫びながらムクリと起き上がる。その動きからは、ブランクの攻撃によるダメージは感じられない。
『ふむ……どうやら並大抵の攻撃では効果無いようだな』
「そうか。だとしたら八葉、どうすればいい?」
『奴等の存在は、あの神魔によって支えられているようだ。親玉を倒せば、一つ目供も消えるだろう。もしくは、一定以上の威力を持った攻撃で消すしかないな』
「なるほど……わかった。八葉、アンリミテッドになるぞ」
『現状、それしか手は無いな。だが、気をつけろ、新。あれはそう長くは保たんぞ』
「ああ、狙うのは奴だけだ。セーフティデバイス・リリース……アンリミテッド・コネクトッ!!」
眩い光がブランクを包む。闇を浄化するかのような真白き閃光に、一つ目達がたじろぐ様子を見せた。
数瞬後、光が収まり、アンリミテッドフォームへと姿を変えたブランクが大きく肩を回し構える。
「ふう……よし、さっさと済ませるぞっ!」
━━ギャィンッ!!━━
「はっ!?」
オークが驚愕の表情を浮かべる。前方のブランクが構えた次の瞬間、目の前に現れ瞬きする間もなく、右拳を打ち上げてきたのだ。
強化された自分自身でもギリギリの反応速度で、迫る拳と己との間に手にした包丁を十字に重ね合わせ差し込む。その判断が正しかった事は、甲高い音をたて粉々に砕け散る、分厚い包丁の刃が如実に物語っていた。
「よく反応したな! チャージッ!!」
「お、お前達っ!」
「ギィッ!」
オークの慌てた声に、周囲の一つ目達が即座に反応する。次々と触手を伸ばし、ブランクの四肢へ絡み付けた。
巻きつけた触手が、ブランクの装甲間を流れる光に焼かれ、ゴムの焦げ付くような悪臭をたてながら、シュウシュウと白煙を上げる。それでも一つ目達は力を緩めずブランクをギリギリと締め上げる。
「っ! こいつら! やっぱ、こっちから片付けなきゃ駄目か?」
『……む、待て、新っ!』
触手を引き千切ろうと力を込めたブランクを制止する八葉。何事かとブランクが尋ねるよりも早く、体に巻き付いた一つ目達の触手が、ブツブツと切断された。
「‰△▼!!」
ここ数日で聴き慣れた声が響く。振り向いたブランクの目に、浴衣の裾をはためかせこちらに手を伸ばした猫耳少女の姿が映った。
「ばっ、なんで来たんだっ!」
思わず叫んだブランクだったが、当然少女には言葉の意味はわからない。しかし、その声の調子で察したのか、少女は困ったように頭を掻いた。
「新さんっ! あの子が飛び出してっ!」
ブランクにとっては更に信じがたいことに、少女の向こうから律が慌てたように走って現れる。
何故か新を追って飛び出した少女と、責任感から後を追った律……ブランクは瞬時にそう理解したが、タイミングが悪すぎた。
オークがニヤリといやらしい笑みを浮かべる。
「なるほどなるほど、あちらのお嬢さん達はお知り合いですか! これは嬉しいサプライズですねっ!」
オークの邪悪な企みが伝わったのか、一つ目達が少女を見る。次の瞬間には、全員で少女へと飛びかかった。
『新っ!!』
「くそっ!」
すぐに救出に向かうブランク。だが、その動きがピタリと止まる。
「§◉⁂↓!!」
襲いかかる一つ目達に向けて、少女が掌をかざし、何かを叫ぶ。ただ、それだけで一つ目達の体が、まるで鋭利な刃物で斬り裂かれたかのように、千切れながら弾き返された。
斬り飛ばされ、すぐに再生を始める一つ目達。しかし、その一つ目達を、少女の不思議な力が更に切り刻む。
「す、凄い……」
「§◉⁂↓!!」
驚く律を守るように両手を広げ、少女が更に一つ目達を攻撃する。立ち上がるそばから倒され、最早一つ目達はただの的≪まと≫だ。
こちらは大丈夫だ……そう言うかのように、少女がブランクへ微笑む。
「ばっ、馬鹿なっ!!」
目の前で繰り返される、あまりに予想外の光景に、確実な勝利を確信していたオークが、目をむき呆然と立ち尽くす。
『新、今だっ!』
「ああ、なんだかわからないが、行くぞっ! エクセス・チャージッッ!!」
飛び上がったブランクを、溢れ出る光が包み込み輝く顎へと変わる。
「バイツ・ストライクッ!!」
「こ、こんなっ! 私はこんなところでっ……」
隙をつかれ反応の遅れたオークは、なす術なくブランクの光に呑まれ、消滅した。




