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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
特別編 魔を討つ疾風、虎娘大暴れ!
51/130

特-終

◆


「あ〜あ、やられちまったな」


 暗い路地の闇夜に紛れ、ブランクとオークの闘いを眺めていたブライが、肩をすくめた。


「ああ、だがアレの試用は問題なく行われた」


 ブライの隣、相変わらず無表情のまま、春間が呟く。


「問題なく……ねぇ? 力を得て分を弁えず勝手に暴走した挙句、神魔狩りに見つかって殺される事が問題ないのか?」


「それは、彼の資質の問題だな。私達にとって大事な事は、あくまで授かった使命……通常の神魔がアレを使うとどうなるのか、その確認であろう?」


「そりゃ、まあな。アレを三下が使うと、ああなるとは知らなかったが……まあ雑魚なら強化されたと言っても、あの程度か」


 フンとブライが鼻を鳴らす。その顔は、同族であるオークの死を、取るに足らない些事だと語っていた。


「それでこの後はどうする? このまま俺とあんたで奴を潰すか?」


「いや、あの御方は私や君が、直接奴を……ブランクを打倒する事を望んではいない。今日はこのまま報告に向かう」


「へいへい、春間は真面目だねぇ。それに比べてあいつは……結局、今日だって顔すら出そうとしねえ。虹枝の幹部ってえ自覚があるのかね」


「彼は私達と違い、こういった事に興味を示さないし、あの御方もそれを彼に求めてはいない。なればこそ、私達が御方を支える必要があるのだよ。さあ、戻るとしよう」


「ああ、わかったよ」


 春間に促されブライが頷く。次の瞬間には二人の姿が搔き消え、ただ闇だけがその場に残っていた。


◆


「ディスコネクト……くっ」


 オークを完全に灰へと変え、同時に一つ目達も崩れさった事を確認し、新がブランクの変身を解く。

 同時にアンリミテッドフォームの負荷が、新の体に、魂に重くのしかかってきた。

 思わず倒れそうになる両脚を精一杯踏ん張り、何とか堪えると、隣の八葉が目を細めた。


「ほう……短時間の使用だったとはいえ、倒れぬ程度には成長したようだな」


「ま、まあな。成長というよりは、気合いに近いけど……」


 プルプルと震える膝を指差し新も笑う。すると二人の元に少女と律が走り寄ってきた。


「大丈夫ですか、新さん! 八葉さん!」


「≒ヾ§!」


「ああ、この子の助太刀のお陰で助かったよ。凄い力が使えるんだね、君は。ありがとう」


 律に微笑みかけながら、新が少女の頭を撫でる。新の言いたい事が伝わったのか、撫でられくすぐったそうに目を細めた後、少女もとびきりの笑顔を見せた。


「でもな、あいつらは危ないんだ。今度からはあんな真似しちゃダメだからね」


「と言っても伝わるまい、新よ。確かに私から見ても特異な力だが……また飛び出されても厄介だ。今後はこの子の近くで戦う事は避けよう」


「……そう都合良く神魔が現れてくれれば良いんだけどな」


 苦笑しながら、新がオークだった灰の山を漁る。

 中から黄色の結晶を拾い上げ、更に灰の中を手で掻いていく。その様子を、結晶を喰らおうと大口を開けていた八葉が不思議そうに眺めた。


「ん? どうした、新」


「……いや、オークが黒くなった時、何かを握っているように見えたろ? もしかしたらソレが残っていないかと思ってね…………ん〜、ダメだ。何も無いな」


「ふむ、それについては、私も気になるな。詳細は不明だが、あの変化は神魔に新たな力を付与する奴等の企み、そう捉えて間違いあるまい。新よ、次からの戦いも甘くは無いぞ」


「ああ……っと、だけど今夜は、皆で祭を楽しむとしよう。律、心配してるだろうし、哲也に後始末を頼んで俺達は楓ちゃんの所に戻ろう」


「あ、はい。ふふ、そうですね」


 少女の手を取り頷く律。哲也に連絡しようと新が携帯端末を取り出そうとしたその時……。


━━ドドンッ!!━━


 腹に響くような轟音と共に夜空が明るくなる。


「/▽□ッ!!」


「おっと……もう、花火が始まっちゃったか」


 おそらく初めて見るのだろう。夜空に咲いた大輪の花に、少女は驚き律の袖を引きながら大声でそれを指差す。

 どうせなら、こんな路地裏ではなく、開けた河川敷で見せてあげたかった……そう新がチラリと思いながら、哲也にメッセージを送った。


「え、あ、新さんっ!!」


 突然、少女と二人、花火を見上げていた律が、慌てたような声をあげる。


「なっ!?」


 端末から顔を上げた新の目の前、律の隣に立つ少女に信じがたい異変が起きていた。

 少女の周囲に、まるで夜空の花火に引き寄せられるように、上へと昇っていく光の粒子がいくつもいくつも現れている。


「〃■*∪……」


 空へと消えていく蛍のような光を追うように、少女が両腕を挙げる。しかし、その先にあるべきはずの掌は存在しなかった。

 光は少女の腕から生まれ、その度に少女の腕が先端から消失していく。少女の身体が光に変換されているのだ。


「これは……」


「新、律、少し離れていろ」


 予想外の出来事にたじろぐ新の背をポンと叩き、八葉がずいと少女の前に立つ。刻一刻と光へ変わっていく少女の胸元に、包帯に覆われた掌をそっと重ね瞳を閉じた。


「むぅ……確かに、存在そのものが消え始めている。痛みは……無さそうだな」


 目を開け、それでも眉根を寄せたまま、少女から八葉が離れる。そのまま新や律を見回し、ふうと重く息を吐いた。


「よく聞け。この者は今まさに、世界から消えようとしている。身体だけではない、魂も含めた全てがだ。……すまない、私にわかるのはそこまでだ。この現象を止める手立ては、私達には……」


「そんなっ……」


 八葉の言葉に律が顔を伏せる。新もかける言葉を失い、消え行く少女を見た。


「〉⇒◉!」


 その重苦しい沈黙を破ったのは、他ならない少女の元気な声だ。消えようとする自身の事など、まるで気にならないと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべ三人にペコリと頭を下げた。

 八葉は上空を、光達を見上げポツリと呟く。


「……そうか、行くのか。この光の先へ、ここでは無い何処かへ」


 意味はわからずとも、想いが通じたのか……少女がコクリと頷き、再び笑顔を見せた。

 その笑顔ごと少女が光に変わっていく。新達が見守る中、少女は完全に消失し、ただ着ていた浴衣だけがパサリと小さな音を立てて地面に落ちる。

 幻のように消えてしまった少女。彼女が確かに存在していた、その小さな証を、再び打ち上がった花火が照らし出していた。


◆


「ええ、そうです。オークはブランクによって消滅。あの少女は……今、完全に消えました」


 ビルの屋上から、時折花火に照らされる暗い路地裏を見下ろし、異形は独り言の様に話す。

 白い金属装甲で構成されたスーツに身を包んだその姿は、細部こそ違えどブランクによく似ていた。

 異形は右手を、耳があるであろう位置に当て、コクリと頷く。


「わかりました、これからそちらに向かいます。通信終了」


 手を降ろすと、トンと屋上を蹴り異形が高く飛び上がる。そのまま建物の屋根伝いに次々と跳び続け、瞬く間に見えなくなった。


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