特-7
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「チェンジッ!」
大通りから抜けるか抜けないかのうちに、新が叫ぶ。周囲を明るく照らす白い光に、祭り客達が振り向くよりも早く、二つの影が閃光の中から薄暗い路地へと飛び込んだ。
「ちっ、まさかこんな日に現れるとはなっ!」
白き戦士ブランクへと姿を変えた新が小さく舌打ちする。ブランクと並走する八葉は、眉根を寄せ首を傾げた。
「ふむ……しかし妙だな。奴等は基本的に闇に隠れ潜むもの。それが性質なのか、奴等を束ねる存在の意思かは知らぬが……このようなタイミングで出てくるものではないはずだ」
「確かに……今までの奴等は程度の差こそあっても皆、そこまで目立つ事はしていなかった。と言っても……出てきたものは、あれこれ考えても仕方ない、か。八葉、奴まで後どれくらいだ」
「その先の角を右に曲がれ。奴はそのすぐ先だ! 気をつけろ、新。血の匂いが濃い!」
「ああ、わかった!」
ブランクと八葉が角を曲がり、寂れた人気の無い更に暗い路地へと入った時、ソレは目の前に現れた。
「おや? これは変わった格好のお客様ですね」
巨大な、二足歩行の豚だ。肥大した肉に押されパンパンに膨らみ赤黒く汚れた服は、注視する事でようやく元は白いコック服だと判別出来る。
豚男……オークはいやらしい笑みを浮かべ、手にした肉塊を口いっぱいに頬張り咀嚼する。クチャクチャと噛む口の端から、肉から溢れた血を垂らし、コック服に新たな染みを作った。
オークのかぶりつく肉塊に目を向け、ブランクは大きく息を吸い、吐く。それでも、次に口を開いた時、ブランクの声は抑えようのない怒りに震えていた。
「八葉……奴の中の依り代は?」
八葉はチラリとブランクを見上げる。鉄の仮面に覆われた顔には、何の感情も窺い知れない。
その姿に一瞬、表情を曇らせた八葉。しかし、すぐにオークへと向き直ると、右腕をかざす。
「……ダメだ。既に奴に喰いつくされている。最早、切り離す云々の段階ではないな」
「……そうか。なら、やる事は一つだ」
吐き捨てるように言い、八葉へと手を伸ばすブランク。八葉も頷くとその手を取り叫ぶ。
「憑依合身っ!」
「エクシード・コネクトッ!」
青い閃光の中、ブランクと八葉の影が交わり一つになる。現れた青いブランクに、オークが脂肪で細まっていた目を見開いた。
「その姿、その光……なるほど、なるほど! 貴方が最近噂の神魔狩りですね。グブブ……このような日に私の前に現れるとは……良い事というのは重なるものですね!」
手にした肉塊を放り捨て、オークが高らかに笑う。そんな相手の態度に、ブランクは動じた様子もなく、静かに構えた。
「行くぞ。俺が、俺達が今楽にしてやる。チャージッ!」
「ブボッ!」
叫ぶやいなや、青く輝く両脚でアスファルトを蹴り、一本の矢のように加速したブランクの右拳が、オークの丸々とした腹へ深々と突き刺さる。反応すら出来ない一撃に、堪らずくの字に体を折り曲げたオークの顎を、すぐさま腹から引き抜いたブランクの拳が下から正確に撃ち抜いた。
「バァッ!」
オークが口を押さえ後ろに倒れる。その体を蹴り飛ばし、ブランクは右手をブラブラと振った。
「この手応え、良くてランクBって所か。拍子抜けだな……とっとと終わらせてやる」
「ブッ、舐めるなぁっ!」
その見た目からは想像もつかない素早い動きでオークが飛び跳ねる。ブランクを憎々しげに睨むと、おもむろに地面に片手をついた。
ゆっくりと腕を持ち上げるオーク。その手には、まるで今地面から引き抜いたかのように、巨大な刃が握られていた。
「あれは包丁……なのか?」
ブランクの呟き通り、まるで刀剣のように長く、鉈のように分厚い刃だが、形状はまさしく巨大化した肉切り包丁だ。
その巨大な刃を片手で軽々と振り上げ、オークが吠えた。
「貴方の攻撃なんて、何一つ効きはしません! さあ、次は私の番ですよっ!」
肉切り包丁を振り上げたまま、オークがブランクへ飛びかかる。落下する勢いそのままに、ブランクへ向かって巨大な刃を振り下ろした。
「ほらぁ、私にかかれば、あっという間に真っ二……ん?」
豆腐に刃物を突き立てるように、アスファルトを易々と斬り裂き、勝利を確信したオークの笑みが消える。ついさっきまで居たはずの神魔狩りは、影も形もなく消え去っていた。
「遅いな……ハァッ!」
辺りを見回そうとしたオークの背後にブランクの声がかかる。慌てて振り向いたオークの顔面に、強烈な回し蹴りが直撃した。
「グァッ!」
斬撃が放たれた刹那、回避すると同時にオークの背後へと超スピードで回り込んだブランクの一撃。オークの体がフラつき、路地脇のブロック塀を崩しながら倒れ込んだ。
「なるほど、タフネスだけなら、まあまあだな。だが、これで終わりだ! エクセス・チャージ!」
ブランクの両脚に、強い輝きが宿る。その光を纏ってブランクが飛び上がった。
「バイツ・ストライクッ!」
空中で回転したブランクが、必殺のバイツ・ストライクを放つ。一直線にオークへと向かうブランク。数瞬後には、数多の神魔同様、オークを灰へ変えるはず……だった。
「なっ!」
思いもしない結果にブランクが驚愕する。必殺の一撃は、倒れたままのオークが上げた、片腕によって完全に受け止められていたのだ。




