↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
特別編 魔を討つ疾風、虎娘大暴れ!
47/130

特-6

◆


 少女が新達の元で暮らすようになって数日が過ぎた。慣れない生活に、当初こそ戸惑いも見られた少女だったが、元来明るい性格なのだろう、伝わらない言葉を身振り手振りでカバーしながら、すっかりと虚木超常現象研究所に馴染んでいた。


「どうしたんだ、その格好?」


 する事も無くちゃぶ台に頬杖をついていた新が思わず顔を上げる。隣にちょこんと座った八葉が、ほうと感心したように息を吐いた。


「えへへ、どうですか? 似合いますか?」


 新の見上げる先、紫陽花柄も涼しげな水色の浴衣姿で、はにかみながら律がクルリと回る。


「うむ、良く似合っているな、律よ」


「普段のメイド服とのギャップもあるだろうけど、なかなか新鮮だな」


 八葉の言葉に、新が続けると、律は両手で頬を抑え嬉しそうに身をよじった。


「そんな……新さん、素敵だなんて」


「いや、そうは言ってないぞ?」


 慌てて手を振る新。しかし、その言葉は律の耳には一切届かない。律の目には、キラキラと輝く星を背中に背負った新が、優しく自分に愛を囁く姿だけが見えているようだ。


━━パンッ!━━


 一瞬で夢の世界へと旅立った律を、八葉が両手を打ち合わせ放った鋭い音が現実へと引き戻す。


「律よ、目が覚めたか? それで一体今日はどういう趣向でそんな格好をしているのだ?」


「はい、今夜って夏祭りじゃないですか」


「ああ、そういえば、もうそんな時期か」


「そうなんです! それで、あの子もこっちに慣れてきたようですし、皆で行ってみませんか?」


「なるほど……しかし、結構な人出だろう? いきなりそんな場所に出て大丈夫か?」


「いや、新……むしろ、その方が都合は良いと思うぞ」


「はい、人が多ければ、あの耳や尻尾も目立ちませんし、見られたってコスプレか何かだと思いますよ! それにずっと家に閉じこもってるなんて可哀想です!」


「それもそうだな……よし、行くとするか!」


「ありがとうございます。それじゃあ、早速準備しましょうか!」


 微笑む瞳に怪しい光を宿し、律が少女の手を取った。そのまま驚く少女を連れ部屋を出て行く。

 そうして待つ事しばし、再び律が廊下からひょっこり顔を出す。


「お待たせしました! それでは……じゃーん!」


 律に押される形で、少女が現れる。律の浴衣とは対照的な紅い浴衣に着替えた少女は、どこか落ち着かなげに頬をかいた。


◆


 茹だるような夏の日差しも、夕闇の中では幾分和らいでいた。代わりに、車両の通行を制限され歩行者天国となった大通りには、別の熱気がこもっていた。


「∫♭♯!!」


「おっと、あんまり離れちゃダメだぞ」


 道の両脇、どこまで続く出店と、街中の人が集まったのではないかという人出に、興奮したように叫び飛び出そうとした少女の体を、新がひょいと持ち上げ止めた。

 その新の袖をクイと引いて、律が顔を出す。


「それにしても……相変わらず凄い人ですね……」


「ああ、これも都市化の影響だな。昔……俺がまだガキの頃は、小さな村祭りだったからなぁ」


「え? 虚木さんは手名芽村の出身なんですか? 村の頃から住んでいた方、初めて会いました」


 律の隣で楓が驚いたように声をあげる。律の誘いでやって来た楓もまた、薄桃色の浴衣姿だ。


「ん、まあね。とは言っても、楓ちゃんくらいの頃には、開発も進んでいたけどさ」


 新は持ち上げていた少女を降ろし、律に手を繋がせる。まだ人としての生を謳歌していた八葉と歩いた、いつかの夜店の光景が目の前の風景に重なり、新の中の何かをチクリと刺した。


「ふん……いくらハレの祭りとは言え、こう人が多くてはな」


 八葉が溜息混じりに呟く。それに合わせてポンと、新の背を八葉の小さな手のひらが軽く打つ。

 痛みの無い衝撃に、新の口には笑みが浮かんだ。


「……悪いな、八葉。俺なら大丈夫だ」


「ふふん、何の話だ?」


「いや、何でもないさ。それより、お前は浴衣じゃなくて良かったのか?」


 新の言葉通り、他の三人と異なり、八葉はいつもの洋装姿だ。


「あ〜、うむ。私はああいう動き難いのは苦手だ」


「なるほど、な」


 八葉の大部分を構成する大口真神は狼神、つまりは狼だ。浴衣のような動き難い服は、それだけでストレスなのだろう。新がそう一人納得していると、律が不満気に頬を膨らませた。


「もぅ、八葉さんだって絶対浴衣似合うのに……今日じゃなくても、気が向いたらいつでも言ってくださいね!」


「一応覚えておくよ、律」


 やる気の無さそうな八葉の返事に苦笑しながら、新は少女達を見回した。


「よし、そんじゃあそろそろ祭り攻略と行くか!」


◆


 新の号令で、一行は夜店を巡っていった。

 特に八葉と少女の食欲は凄まじく、焼きそば、お好み焼き、あんず飴……夜店の料理を次々と平らげていく。

 幸い、律の予想通り、少女の見た目は人混みの中であっても目立たなかった。もちろん、時折少女へ視線を止める者も居たが、祭りには少女以上に奇抜な格好をしている人間も多く、少女も同類だと思われたのだろう。騒ぎになる様子は無い。

 

「なんだ、新。もう満腹か? だらしないぞ」


 指の間に三本づつ、両手で計六本のフランクフルトを齧りながら、八葉がニヤリと笑う。隣では八葉の真似をした少女が、嬉しそうに肉を新に差し出した。その肉をやんわりと手で制しながら、新は首を振る。


「いや、流石に休憩だ。と言うか二人ともよく食べるな……美味いか?」


「うむ、律の料理とは比べるべくもないが……こういうのは、雰囲気も味わいながら食すものだろう?」


「そうだな、それはわかる気もする」


「だろう? だから、新も……む?」


 楽しそうな八葉の笑顔が一瞬で消えた。そのまま顔を上げると、四方を見回し何かを探る。


「八葉?」


「……新、よく聞け。この近くで神魔が現れたぞ!」


「な、こんな時にか!? 場所はわかるか、八葉!」


「無論だ!」


「あ、新さん!?」


「聞いていたな、律。俺と八葉は神魔を倒す。楓ちゃん達を頼んだぞ!」


「は、はい! わかりました!」


「頑張ってくださいね、虚木さん!」


「ああ、行くぞ、八葉!」


「うむっ!」


 駆け出す新と八葉。見送る律と楓に挟まれ、少女はその後ろ姿を不思議そうに眺めていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。