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「そうか、それじゃあ遠慮せずいくぜ。チャージッ!」
ブランクの拳と脚が青く輝く。夢幻門によって再現された八葉の力だ。ブランクは強く踏み込むと、超スピードで彼我の距離を一気に詰めた。
「はぁぁっ!!」
その勢いを拳に乗せて、椿に向かって放つブランク。椿は、その女の子らしい、細く今にも折れてしまいそうな腕で、ブランクの攻撃を正面から受け止めた。
「なっ……」
ブランクの中から、新の驚く声が漏れる。椿とは、かつてこの場で拳を交わした師弟の仲だ。その頃の経験から、今の攻撃で倒しきれるとは思わなかったが……。
「まさか、微動だにしないとはな……!」
「ふふふん、その玩具、大層な見た目してるのに、こんなもんっすか? そんじゃあ、始めるっすかね!!」
ブランクの攻撃を受け止めたまま笑う椿。その全身から白い輝きが漂う煙のように沸き立つ。光は量を増やしながら白から赤へと変色した。
「覇っ!」
椿が短く吠えると、呼応するように全身の輝きが爆発的に増加し、対峙する二人を包み込む。光が消えると、ブランクの拳の先、受け止めていた椿の姿は大きく変化していた。
金属的な光沢を持った真紅の甲殻が椿の全身を覆う。髑髏を思わせる意匠の頭部には、巨大な三本の角が生えていた。
「その姿は……」
「新っちには始めて見せるっすね。これがあたしの本気の姿……鬼神殼鎧っすよ」
「なるほど……八葉の……真神の知り合いって事以外、長い間知らなかったが、あんたの正体……この山を守護する鬼神ってとこか、椿っ!」
「ははは、まあそういう事っすよっ!」
鬼となった椿が、軽く腕を振るう。それだけの動作でブランクの体は羽毛のように吹き飛んだ。
「っ! 何て力だっ! こんな凄いのを隠してたんだなっ」
「現在の姐さんには不可能な神域の力……以前の新っちには、見せる必要すら無かったっすからね。でも、今は別っす。新っちの魂そのものを鍛える為に、殺すつもりで行くっすから、死なないように頑張るっすよ!」
「くっ、マジかよっ!」
身構えたブランクへ向かって、椿が跳躍する。
上空から繰り出される打ち下ろしに、咄嗟に防御しようとしたブランクだったが、嫌な予感が背筋を走り、その場を飛び退った。
次の瞬間、爆発音と共に大量の土砂が、まるで火山の噴火のような勢いでブランクの居た場所から吹き上がる。
「ぐぁっ!」
瞬時の判断で何とか直撃を免れたブランクも、土砂に吹き飛ばされゴロゴロと転がった。
椿は歪なクレーターとなった爆心地の中央から、その姿を見上げると、飛び上がりブランクの脇へと降り立つ。
「よく躱したっすね。次、行くっすよ!」
「チャージッ!」
倒れたブランクの頭部を蹴り上げようと、椿が脚を引く。ブランクは椿の攻撃にタイミングを合わせ素早く飛び起き、椿の蹴撃を回避。そのまま青い輝きを両脚に宿し、椿の側面へと高速で回り込むと、椿の体目掛けて左右の脚で、今度は逆に連続蹴りを放つ。
「見えたぞ、椿! その姿、確かにパワーは半端じゃないが、スピードはそうでもないな! エクセスチャージッ!!」
蹴りの猛攻を受け動かない椿を一際強く蹴ると、ブランクの右脚が眩しく輝く。ブランクはその脚で椿へとかかと落としを放った。
「バイツ・ストライクッ!」
空中に青き光の軌跡を残し、幾体もの神魔を屠ってきたブランクの蹴りが椿へと迫る。だが、その必殺の一撃は、椿の赤い手に簡単に掴まれた。
「何っ!?」
「軽い……軽いっすよ、新っち。それじゃあ、あたしは倒せないっすよ!」
ブランクの脚を掴んだまま、椿が体を回転させる。回転は瞬く間に凄まじい速度へと達し、ハンマー投げの要領でブランクを大きく投げ飛ばした。
「グ、グリフォン! ソウル・コネクトッ!」
飛ばされながらブランクは、グリフォンの力によって翼を形成し、何とか空中で止まると体勢を整えた。その様子を椿は動かずじっと眺めている。
「くっ、ブランクの攻撃が軽い、か……一体どうしたら……」
「どうしたっすか? もう、諦めるっすか?」
空中のブランクに椿が声をかける。ブランクは大きく首を振ると、翼を消して地上に着地した。
「ふふ、良い意気っす。随分と久しぶりにこの姿になったのに、簡単に終わっちゃつまらないっすからね」
笑う椿。しかしブランクは応えない。ただ身構え、次の攻撃に備えながら、頭をフル回転させて勝機を探る。
「悩んでるようっすね。そんじゃあ、何故あたしに手も足も出ないのか、どうすればもっと強くなれるのか……特別に一個だけヒントをやるっす」
椿が指を一本立ててクルクルと虚空を掻き回す。
「これは今、戦ってわかった事っすけどね。新っちのその玩具、人間が作った物にしては、確かに良い出来っす。でも、どんな物にも利点と欠点があるっすよ。その玩具の利点は、新っちの体を保護し能力を高める事、新っちの魂を備蓄して戦闘での負荷を軽減させる事……こんな所っすかね。それじゃあ、そいつの欠点、なんだと思うっすか?」
「ブランクギアの……欠点?」
「そいつがわかれば、きっともう少しまともに戦えるっすよ。それじゃあ、再開っす!」
再び開始される椿の猛攻。雨のように降り注ぐ拳や蹴りを、ハイスピードで躱し続けながら、ブランクは何度も椿の言葉を脳内で繰り返す。
(ブランクギアに欠点……そんな物、今まで感じた事なんて……いや、あの口ぶり、きっと明確な欠点があるんだろう。それも強さに直結するんだ、おそらく根本的な……くっ、一体何なんだ!)
悩むブランク。しかし、椿の攻撃は淀みなく続く。遂には追い込まれ、腹部に強烈な一撃を喰らってしまった。
前のめりになり、倒れるブランク。その後頭部を見降ろしながら、椿が首を振る。
「まだわからないっすか? じゃあ、もう一つだけ大ヒントっすよ。利点と欠点は表裏一体。捉え方、考え方次第で利点は欠点に、欠点は利点になるっす」
その言葉を聞いた瞬間、ブランクの脳内に、電撃のような閃きが生じる。椿がブランクを踏み潰そうと、その赤い右脚を上げるのと、閃きを実行に移したブランクの全身から、突如眩い光が溢れ出るのは、ほぼ同時だった。




